映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリント・イーストウッド 監督「ヒアアフター」2264本目

なんておそろしい。冒頭の映像、すごいですね。本物の津波を起こすことなく、こんな映像が撮れるんですね、今は。30年前の人なら、記録映像だと思って恐怖に震えたんじゃないでしょうか。

でもこの映画はいつものクリント・イーストウッドのドラマよりちょっと深入りして、「死後の世界」を描きます。日本ではあまり違和感のないテーマだけど、欧米でこれをやってしまうと、それこそ劇中のフランス女性のように、「現実をすっ飛ばしてあっち行っちゃった人」という扱いを受けるのかも。私は個人的には、身体から魂が出てもしばらくはさまよってるかも、と思ってますが、その後永遠があるとか、まったく同じ魂で生まれ変わる、というところまではイメージできません。。。

しかしこの映画の結末は、あまりに「続く」感が強すぎて、なんと言ったらいいか・・・。あえて深入りしないという判断だったのかな。「???」という気持ちになってしまったのは否定できないですが、リアルな人生ってのはそういうものだ。誰も先が見えない、せいぜいいい予感か悪い予感くらい、という中で不安な胸を抱えてるものだ、ということなのかな。

8年も前の映画だけど、その後のイーストウッド監督の映画にこの映画の影はないな。この後がどうも気になるけど・・・。

ヒア アフター (字幕版)

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マクシミリアン・シェル監督「初恋」2263本目

かの有名なロシアの作家ツルゲーネフの「はつ恋」の映画化。ほかにもいくつもありますが、これは1971年版で、ジョン・モルダー・ブラウンとドミニク・サンダが演じています。「早春」を見たらこっちも見たくなりまして。

少年はやっぱり初心だけど、こっちのほうが社交的で表情豊かです。

少女はその後のたくましい姿をまだ見せず、可憐だけど強い妖精、といった感じ。これは惚れるわ。

でもこの年頃の女性なら、年上のダンディな男性にときめくだろうな。かわいい少年よりも。まだまだ、こんな子たちが子犬と同じように可愛く思えるだけの世代だと思う。

映画全体は、ある意味難解。誰が誰を好き、とか、今うまくいきそうなのかダメなのか、ということは言われなくてもわかるけど、何の説明もないので、イメージ映像のような感じ。この映画では、少年の心の動きとか痛みとかより、彼が感じていたときめきや感動をそのまま映像にしようとしたんだな。だから私たちは、素直に眺めて「きれい・・・」とぽーっとしてるのが正解なんだわ。

少年の家で家族が食事をとる場面のカメラが異常に引いてる。広い部屋の一番奥の隅にテーブルを置いて、たった3人で固まってご飯を食べる。誰が誰かわからないくらい、カメラが遠い。ぬくもりのない寒い食卓。カメラはしじゅう、少年を大きく映す。

何もない静かな毎日。恋愛くらいしか心躍るものはないんだろうなぁ。痛みもあるけど、受け身なだけの初恋。自分が女性を泣かすのはまだだいぶ先。傷つけられただけで、自分はまだ加害者じゃないから、初恋ってのはいくつになっても甘いんだろうな。

初恋(ファースト・ラブ) [DVD]

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坂野義光 監督「ゴジラ対ヘドラ」2262本目

この映画は、私の映画原体験といってもいいかもしれない。怪獣大好きな幼児のころに親に連れられて映画館で見て、あまりの恐ろしさにトラウマになったという明確な記憶があります。

冒頭のヘドロの海が、九州の田舎者のチビには衝撃だったし、これは改めて見ると、公害反対の社会派映画だって、どう見ても幼児向け娯楽映画ではないですね。ゴジラ映画の枠組みを使ったパニック映画ともいえそう。さすがに今見て「怖い」とは思わないけど、リアルな公害映像、ヘドラの毒と大量破壊、連続して爆発する石油タンク、ヘドラの硫酸で溶かされて骨だけになった人たち・・・どんなゴジラ映画よりもネガティブ要素が多くて強烈です。

「汚れちまった海~」っていう歌や、挿入されるイラスト、ゴーゴーバーの光景、ウッドストック的ロックフェス・・・まさに70年代前後の流行。これのどこが東映まんがまつり、じゃなくて、東宝チャンピオンまつりなんだ!当時のこどもとして文句を言いたい!(笑)

後半の戦闘部分は、なんかすぐ飽きてしまってずっと見ていられませんでした・・・。戦闘場面ってのは、まじめにシナリオを書いちゃいけないんじゃないかな・・・。こっちをこう攻めて、あっちをああ攻めて、攻撃をくらって、またダメージを与えて最後倒す、とか考えて作ると見どころがなくなる。つじつまは大体合ってればいいから、面白みを追求してくれたら・・・って思うのは、大層な視覚効果に慣れすぎた観客の甘えでしょうか・・・。

最後、ゴジラまで「公害なんて!公害なんてこうしてやる!」みたいな活動家っぽい動きで、この時代にこの映画を作った人たちの怒りの強さが伝わってきます。

ああ、恐ろしい映画だった!

ゴジラ対ヘドラ

ゴジラ対ヘドラ

 

 

ジェームズ・フォーリ-監督「フィフティ・シェイズ・フリード」2261本目

不思議なことに、第1作、第2作、第3作と、平均評点が上がってきてる。(2019年9月3日現在)決して、出来がどんどん良くなってるというわけでもないことを考えると、3本も見るやつはだいたいファンだということかな。私は・・・コンプリート癖が抜けきれず、つい。

ロマンチックだし、ダコタ・ジョンソンは妹キャラで日本の男性にも受けそうだし・日本の女性も「高嶺の花」じゃないあたり、自分を投影しやすいと思う。ほぼ日本の民放のドラマの世界なんだな・・・石原さとみあたりが主役の。ジェイミー・ドーナンはひたすら美しいけど、3本見てもあまり特徴が感じられなくて、線の弱さがむしろ際立ってきてる。がんばれドーナン。

大金持ちということで誘拐事件も起こったりするけど、無邪気な対応でちゃんと撃退。

音楽の趣味がちょっと古くさくて、それなりの佳作といえるまでの雰囲気を作れてない。なんだか文句ばっかりになってしまいますが、エロティックな場面を早送りしてしまう私のような者には、見どころが少ない作品だったのかもしれません。

 

クエンティン・タランティーノ監督「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」2260本目

<ネタバレあり。まだ見てない人は読んじゃダメです>

いやー面白かったー。

やっぱり、面白い映画を見つけては誰よりも面白がってきた人の作る映画は面白い。

これは「君の名は。」みたいに、あの事件を生きなおして、ポランスキー監督の痛みを昇華させるためにタランティーノ監督が捧げた映画かしら、と思う。愛妻の美しく可愛いく幸せな姿を、マーゴット・ロビーが成り代わって見せてあげた。だから、パルムドールとはちょっと違うけど、並み居る映画人たちがスタンディング・オベーションをするわけだ。

キャスティングは、元々そっくりというわけではなく「雰囲気似」くらいの役者さんたちなのに、彼ら自身に見える。ボヘミアン・ラプソディでもこういうキャスティングをしてくれたらよかったんだが・・・。

チャールズ・マンソンが標的を間違えたという話は聞いてたけど、実際お隣を狙おうとしたのかと思いながら見てた。お隣=映画の主役の二人、落ち目の西部劇俳優とそのスタントマンというブラピとディカプリオ。まあこれだけ演技ができて華がある二人をこれだけ乗せて使えれば、映画がつまらなくなるはずもないんだけど、それにしてもこの映画には救いがあった。ディカプリオは泣く役も多いけど、この映画はかなり号泣しがちでしたね。

マーゴット・ロビーは、「アイ、トーニャ」では美人女優というより個性派、演技派と思ってたけど、この映画ではモデルみたいな大変な美人で可愛い女性です。この人すごい。

ヒッピー・コミューンの老人はローラ・ダーンのパパで、キュートで尻軽なプッシー・キャットを演じてるマーガレット・クアリーは、「恋はデジャヴ」のアンディ・マクダウェルの娘だ。事件に巻き込まれて早口のイタリア語で抗議しまくるのが超おかしかったイタリア女優は、タランティーノ監督の妻なんだ!

ブルース・リーもじつに可笑しく登場してたけど、これは監督の創作?同時代の人だっけ?と思ったら、本当にシャロン・テートと接点があったのね。「グリーン・ホーネット」のケイトー(加藤)役について触れるあたりマニアック。わかりやすさを追求するならドラゴンものでいいのに。

劇中映画でディカプリオに拉致される、あの賢い美少女は誰?ジュリア・バターズっていうのね。あの子ヤバいです。ナタリー・ポートマンばりです。誇り高くて清潔なところが素敵。楽しみですね。

など、下世話な役者チェックでもさらに楽しめる作品。パルムドールを取らなくてもいいんです、タランティーノ作品は。文学賞でいえば芥川賞より直木賞。徹底してどっかんどっかん盛り上げるエンタメの世界を追求していってほしいです。

荻上直子「かもめ食堂」2259本目

映画の公開のあと、同じ場所に同名のレストランがオープンしているらしい。
(kamome.fi)インテリアはだいぶ違いますね。映画ではテーブルとイスは木の地色のままだけど実際のお店では黒っぽい。レイアウトは映画のほうがもっとゆったりしていました。

おととしフィンランドに2日だけ行くことがあったのですが、時間がなくて「かもめ食堂」には寄れませんでした。その後も、一度この映画を見直してみようと思っていて、やっと見ました。

思っていたよりさらにリアリティがないし(フィンランド人が1か月もこの店に入らないなんてありえない、など)、これが北欧風だと思っているのは、もしかしたら日本人だけかもしれないけど、でも心地よいすっきりとした童話でした。

小林聡美がすごくいいんですよ。まじめなのにどこかゆるくて、相手を緊張させないところがありますよね。この人がやっている飲食店に、私も通いたいという気持ちにさせます。

はからずも、うちにもIttalaのストライプのカップがいくつもあるし、ムーミンやミーの顔のタオルもたくさんあるけど、正直2日間でフィンランドのことが少しでもわかったとは言えない。ヨーロッパのどこかに行くついでに、いつかまた行けたらいいな。次はオーロラも見てみたい・・・。

かもめ食堂

かもめ食堂

 

 

マイケル・ホフマン監督「モネ・ゲーム」2258本目

うーむ、役者はいいのに悪乗りした薄っぺらい映画になりましたね。

コーエン兄弟の脚本なら、大真面目な顔をしたアメリカ人が演じないとおかしくならないのでは・・・この映画の中では、コリン・ファースの大真面目顔の演技はよかったですが。

スネイプ先生=アラン・リックマンもすごく好きで、彼の演技もいいんだけど、いかんせん・・・監督なのかなぁ。

テンガロンハットをかぶったテキサス出身のキャメロン・ディアスという存在が、すでにちょっと間違ってる気がする。そんなの出してきても面白くならない。うん、ここがミスキャストだったんだな。

おかしな日本人たちは、珍妙だけど笑えたのでOKです。

後味はいいけど、この後味のために通しで見るのはちょっと胃にもたれました。。

モネ・ゲーム (字幕版)

モネ・ゲーム (字幕版)