映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マーティン・スコセッシ監督「キング・オブ・コメディ」2442本目

「ジョーカー」を見たときにこの映画との関連を指摘したものを何度か見たので、ずっと見たかった。レンタルDVDはなかなか順番が回ってこないけど、こういうのが今はAmazonプライム会員無料で見られるんだなぁ…。

でこの映画を見てみたところ…「ジョーカー」はこれのオマージュというより、解釈の違う“リメイク”といっていいかもしれない。面白いなぁ、誰もが知ってるアメコミのキャラクターを使って過去の名作映画を”リメイク”するなんて。映画制作の新しい方法論だと思います。

しかしなんとも、気味の悪い映画です。これはコメディなのかホラーなのか。コーエン兄弟の映画みたいに、笑いながら怖がればいいのか。

デニーロ=ルパート・パンプキンが実際かなり間合いも良い、イケてるコメディアンであるという、できすぎの設定はこれで良かったのか?デニーロの演技がうますぎて、っていう以前に設定の問題として。これほどデビューで沸かせられるなら、収監中に自伝を書けば売れただろうし、出所後のステージの視聴率はすごいだろうけど、半分はブーイングだろうな。

それと、 女性ストーカーが出てくる映画はほかにも見たことがあるけど、この映画のサンドラ・バーンハードはなかなか強烈ですね。デニーロと互角です。

面白かったし、思っていたほどブラックではなかったけど、やっぱり「ジョーカー」と同じ映画だという気がする。今後も、有名なキャラクターをうまく生かしたすごい”リメイク”作品が出てくるのを楽しみにしてます。

The King of Comedy (字幕版)

The King of Comedy (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

ジャック・スマイト監督「エアポート’75」2441本目

昔テレビで見たかも。タイトルが昔っぽくて、かつ、飛行機も空港も大好きな私としては気になるテーマなので見てみました。

英語が始まったとたん(あ、吹き替えじゃないんだ)と思ってしまったくらい、テレビドラマっぽい始まり。この頃ほかにもたくさんあったけど、タイトルバックの文字のフォントが安っぽくて映画って感じがしない。ほぼテレビのミステリードラマシリーズです。(※嫌いじゃない)

作りはミステリー映画と同じで、”事件”が起こるまでは平和な状況下の登場人物の描写です。グロリア・スワンソンが実名の大女優役で出てたりするのも、テレビっぽいお楽しみだなぁ。このときもう70代のはずだけど(「サンセット大通り」の25年後!)、若くて美しい。エクソシスト1と2の間に撮影されたリンダ・ブレアはまだ少女。主役となる客室乗務員のカレン・ブラックと風貌が似てます。監督の好みかしら。(前田敦子にも似ている)

カレン乗務員は、しっかりしているけど緊急事態で激しく動揺して、彼女ひとりで着陸を成し遂げることは不可能。このシチュエーションは今なら宇宙船ですね。大型飛行機も大変な難易度だけど、飛行機はもはや、乗るのも、事故のニュースを見るのも(決して頻繁ではないにしろ)日常的なものになっていて、パニック映画の対象にはならないんだろう。改めて、場所が宇宙になっただけで基本的なところってなにも変わってないんだなーと、妙に乾いた気持ちで見てしまいます。

この映画が1974年ということは、私はまだ飛行機に乗ったことはありません。今やもう大変な飛行機好きの私ですが、大学受験で初めて乗ったときは航空中耳炎になったこともあって飛行機恐怖症になってしまい、しばらく乗れませんでした。今思うと、この頃の飛行機パニック映画のせいで飛行機が怖かったのかもな…。

誰もが自分も同じ仲間として共感できるところから、突然の事件、ドキドキハラハラ、もうダメ!からの帰還、というテレビ的にうまい作りで、楽しませてくれます。しかし、現実の事件をこの感覚で消費するのは、ほんとうに止めたほうがいいと思うな…。

ファッションや機内設備や航空機のコックピットは、ものっすごくレトロなものを期待した割には、基本的なところは意外とそう変わってないんだなと思いました。プロに事故があって素人だけでハンドリングとか、邪魔者が入るとか、人間もようも当たり前だけどシチュエーションが変わっても同じ。なんかこういう「昔流行った映画」って、そういう意味ですごく興味深く見られますよね。

グザヴィエ・ドラン監督「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」2440本目 

ふつうLife and deathでしょう。最初からDeathとくるところが不穏です。

そもそもドラン監督の作品は、生霊みたいに死にとりつかれていると感じることがよくあります。死の中でも、老母が老衰で死ぬとかじゃなくてpremature death。若くて美しい人がむざむざ命を落とすやつです。

<以下ネタバレ?>

ただし、この映画はタイトルで既に約束された主役の死に引きずられることなく、同じくらい重い苦痛を背負いつつ成長して俳優になったルパート君の明るさで、最後に光のある作品となっています。

ジョン・F・ドノヴァンを演じるキット・ハリントンは、逞しい若者だけど繊細さが見え隠れする魅力があります。演じるジョン・Fは、肝心なところで迷って人を傷つけたり、自分を窮地に落とし込んでしまう運の悪さがあります。そしてドラン監督なので、腹の底を叫び出してぶつかりあう親子の葛藤の場面。これがジョンF vs 母スーザン・サランドン、ルパート少年 vs その母ナタリー・ポートマン、両方の親子の間で爆発します。

インタビュアーのオードリー・ニューハウスを演じるタンディ?サンディ?ニュートンは、真正面から見た記憶があると思ったら「クラッシュ!」で救い出される妻でした。かなり気性の強い女性を演じるとキツくてぴったり。

しかしキャシー・ベイツもスーザン・サランドンもマイケル・ガンボンも、良いに決まってるじゃないですか。ナタリー・ポートマンも神経質そうな雰囲気が良いです。

初期の作品みたいな派手な色彩はないけど、印象的な音楽の使い方で、映像の美しさが際立っていました。ドラン監督の作品はいつもそうだけど、よかった・悪かったとかじゃなくて、心がざわざわっとするんですよね。

ジョン・Fのそのときの本当の気持ち。ルパート君のそのときの気持ち。その後の人生。そういう、ある意味肝心なことは一切語られません。誰かが一人でいるときの映像が少ない映画です。最後の手紙(母ナタリーが読むことで観客に伝えられる)以外のやりとりは一切不明。普通、映画なら観客を引き込むために観客だけに開示しそうな秘密が、秘密のままにされる。ドラン監督の映画はいつもそうだけど…。安心感や納得感を一切与えてくれないから、ざわざわが残るのかな。

この気持ちをどうすればいいんでしょうか、ドラン監督……。

三浦大輔監督「娼年」2439本目

「恋の渦」「愛の渦」の監督か。それで納得した。あの2つの映画も、エロスを追求するんじゃなくて性ってほんと人間そのものだよね、と、動物の交尾を観察するように、あけすけに描写した映画だった。この映画の場合、最後のオチはどうでもよくて(ということは、映画としては、ないほうがすっきりする)、監督が描きたかったことの中心は女性の性の面白さ、奥深さなんだろうな。

なぜなら女性の性は表に出ない分、本当のことがわかりにくいから。同じように「娼婦」を買う男性の場合は、おそらくもっと高圧的で客だから当然という態度のことが多いと思う。でも女性の場合、もっとまどろっこしくて面倒くさく、最初は顔合わせだけだったり、ストーリーを求めたり、そういうことが大事だったりする。相手のそういうことを丁寧になぞって、欲しているものを与えればそれが評価される。サービス業だなぁ性風俗って。

“松坂桃李の体当たりの演技”はむしろ、脇に置いて見たいところです。彼の役柄は映画の中心として全体を引っ張っていくんじゃなくて、女性たちを映し出す鏡みたいにちょっと引いた位置にあるから。

三浦監督が脚本で、他の人が監督する映画も、もっと見てみたいです。これからも、表に出てこない性の、人間のおもしろみをずっと描いてほしいです。

 

ジャン・リュック・ゴダール監督「女は女である」2438本目

なんか、納得しました。

ゴダールって女のことをちっとも理解してないけど、その美しさや優雅さに心酔してとりこになっていた、ある意味フェミニストなんじゃないかな。アンナ・カリーナにしれっと「みんな私の言うことを聞くわ、だってわたしは、とても、きれいだから」って歌を歌わせるくらいには。

彼には彼女が希少な美しい鳥や宝石にしか見えない、だってあまりにも彼の理解を超える美しさだから。でも彼女のほうは一人の人間だから、子どもを産みたい、幸せになりたい。初期設定からしてかみ合いません。

そんなズレを100も承知で、わだかまってる自分もわかっていながら、女を美しい宝石のまま置いておきたい。業が深いですねーゴダール。(って全部わたしの想像ですが)

この頃のアンナ・カリーナって、最強の美少女ですね。いいもの見せていただきました。

ルキノ・ヴィスコンティ監督「若者のすべて」2437本目

ダメだ、この映画苦手…。

イタリア人のおばちゃんと息子たちとその女たちが、ずーーっと怒鳴り続けてるのを聞いてるのがツラくて。どん底まで不幸な映画はほかにもあるけど、私はこういうのダメなんだ。

ルキノ・ヴィスコンティは、アラン・ドロンをはじめとする青年たちが美しく苦悩する映像が見たかったのかな…。

最後の最後に、シモーヌ以外の家族には、混沌のあとの平穏がやっと訪れるけど、それも一瞬でした。

アレックス・コックス監督「レポマン」2436本目

エミリオ・エステベスがいちばんエネルギッシュだった頃。監督は「シド&ナンシー」のアレックス・コックス、テーマ曲はイギー・ポップ。勢いあります。

<以下、ネタバレのような気もする>

ストーリーは、なんかぐちゃっとしていて“夢オチ”的な乱暴な終わり方なんだけど、なんとなく嫌いじゃないです。仕事も家もうまくいかなくてイライラしてるまだ10代の元気な少年が、宇宙人の車で空に飛び立つ。

バイクでアメリカを横断する、でもいいし、南米のどこかで遭難する、でもいい。エネルギーだけを持て余してるフラストレーションを放つ映画って、見ているほうもちょっとスカッとするんだと思います。

 なんかとてもパンク世代な映画でした。