映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ティム・バートン監督「ビッグ・フィッシュ」2457本目

水中の映像から始まって、「シェイプ・オブ・ウォーター」を思い出す。ちょっと前までは、こういう童話的な世界の作品を見ると、ギレルモ・デル・トロに限らず”ティム・バートンらしい”と思ったものだけど、 最近は”ウェス・アンダーソンっぽい”とか”ミシェル・ゴンドレーみたい”と思うようになった。ティム・バートンはもうファンタジックな映画の父って感じだなぁ。

この映画は大ぼら吹きの一生といったところですよね。どこまでが本当でどこまでがホラ話か…。周りの人たちを笑わせて元気づけてきた父が逝こうとしている。若いころは反発していた息子がもどってくる…。ティム・バートンにしては本当っぽい部分も多い映画だけど、心があたたまりました。

いつもだけど、ヘレナ・ボナム・カーターがひどい顔の魔女の役。この頃はティム・バートンがパートナーだったからな~。新藤兼人が乙羽信子を「鬼婆」にしたのと比べると、ほんの少しだけマシ…かな…?

”詩人”ブシェミがおかしすぎました。彼はいつも本当に最高。。

ビッグ・フィッシュ (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン 監督「裸足の季節」2456本目

裸足の季節といえば松田聖子1980年のデビュー曲なのであって、この映画は2015年制作のトルコが舞台の映画だけど原題は「Mustang」。野生の馬という意味…なるほど、無邪気な少女たちを野生の馬にたとえた。だから裸足をイメージしたんですね。少女時代の終わりを描いた切ない映画です。5姉妹は本当に、野生の動物たちみたいに美しい。

で、内容は「ヴァージン・スーサイズ」になりかねないような、若い姉妹たちの幽閉です。(公式サイトで監督はこの映画を意識しなかったと述べていますが)閉じ込められた理由が、男の子たちと「騎馬戦」をやったから…。冒頭のこの部分に意味があると思えなくて見過ごしてしまったくらいなのに。イヤらしいのはこの子たちでも男の子たちでもなく、大人たちの頭の中じゃないか。(こっそり男の子とデートする子もいるけど)で、 無理やり結婚させられるなんて。…常識とか規範って文化によって違うから、この国の少女たちは「イヤだけどしょうがないこと」と思えるのかな。ひどいセクハラとどっちが嫌だろう…セクハラは学校なり会社なりを辞めればいいけど、結婚は一生のことだからやっぱりキツイわ。

<ネタバレあり>

筋を追いきれない箇所が何度かあって、しかもわりと重要な部分だったりしたので、何度も見直したりネットで調べたりして、やっとわかりました。三女と四女の寝室に叔父が通ってきていたこととか…。そういう刺激の強いことは直接的に描かないから。

「サーミの血」のような大冒険となりましたが、彼女たちはその後どうなっていくのか…決して楽な道ではないはず。強く生きてほしいなぁ。 

裸足の季節(字幕版)

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  • 発売日: 2016/12/14
  • メディア: Prime Video
 

 

ピング・ランプラプレング 監督「THE POOL」2455本目

タイで作られたワニパニック映画。いや「プール大脱出ゲーム」かな?

冒頭、男性が血まみれで目覚めたら、いきなり大ワニが足に喰らいついてきていて、勘弁してほしい。怖い映画だ…と思って見てたのに、大勢いた人が消えたり、女の子がプールに飛び込んだり、犬が落ちそうになったり…設定の無理に笑えてきました。突っ込みどころベストテンとかあったら、けっこういい線いきそうな作品です。これは、大勢でピザでも食べながら見るべき作品ですね。

第一、公共のプールに簡単にワニが紛れ込んで来られるようでは、今までにも毎年十数人くらいは被害が出てたんじゃないか?そもそも、上り口がないプールなんてあるわけないだろ。いくら困った奴だといっても、置き去りにしていった撮影スタッフたちは様子を見に来ることもないのか。火を起こすくらいなら武器を作ってワニと戦わないのか。唯一のヒントたるソファをなぜ台にして上らないのか。ワンコを…ワンコを…(これ以上言えません)

ていうかプールの底で火を起こしてゆで卵とか、作れるわけないだろ。むしろ生みたてなんだから生で食べればいいじゃないか。…間違い探しのように、「突っ込みどころを最低30個探してみましょう」というクイズの出題動画みたいです。頭わるすぎ…と言われてもしょうがない。

いっそのことワニがわらわら群れをなして出てくるとかさ。失敗とか不運に、それなりの説得力を持たせようと思ったりしなかったんだろうか。B級カルトムービーと呼ぶのも微妙な、ある意味、前代未聞のすごい作品でした。これを日本でソフト化した人は絶対、そういう見方をされることを想定してたんだろうな。あー楽しかった。

THE POOLザ・プール(字幕版)

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  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

マイク・ニコルズ 監督「シルクウッド」2454本目

かなり昔に見て、メリル・ストリープがとても悲しい役をしていた記憶だけあったのですが、なんだか気になったのでタイトルだけを頼りに探して見直してみました。

冒頭を見ただけで思い出した。まだ若いメリル・ストリープやシェールが核燃料の工場で働いてて、被ばくする話だ。制作は1983年、チェルノブイリが1986年だから、まだパンクスくらいしか「No Nukes」って言ってなかった時代です。(パンクスが騒いでたのは原発で働いて事故にあったりしたのが、彼らの仲間だったから)カレン・シルクウッドは実在した活動家で、証拠書類を新聞社に届ける途中で交通事故死したのは1974年。

彼女が不自然な大量被ばくを繰り返し、追い詰められていくのを見ているのが切ない。夫と子どもを置いて突然家を出たのは事実みたいだけど、その後女性と男性の恋人、3人でずっと暮らしていたのは事実なんだろうか?心のままに生きた彼女に敵がいなかったといえば嘘だと思うけど、子どもみたいに裏表のない優しさを見ていると気の毒でなりません。

脚本が「ユー・ガット・メール」や「恋人たちの予感」のノーラ・エフロンだったんですね。どうりで日常的な女性たちのおしゃべりがリアルで生き生きしています。

この映画、今こそ見直したほうがいいんじゃないかな。「第五福竜丸」とかもだけど、大規模原発事故が起こる前からちゃんと知られていて映画にもなっていた、普通の人たちの転落を知っておきたいと思います。

シルクウッド [DVD]

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  • 発売日: 2004/08/27
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パティ・ジェンキンズ監督「ワンダーウーマン」2453本目

ワンダーウーマンは黒髪のヒーローなので、シャーリーズ・セロンではないんだな…。

冒頭からいかにもなCGの使い過ぎ(自然に見せるための手数が足りてない?)で、マンガよりもマンガ的なのがちょっと気になるけど、ガル・ガドットを起用した新しい女性ヒーロー像が美しくてカッコよくて、この映画はもうこれだけで良いです。相棒となる「男」スティーブ役のクリス・パインはいい具合に地味で彼女を引き立ててくれます。

エレナ・アナヤがマッドサイエンティストの「Dr.ポイズン」、という国籍無双なキャスティングも良いです。酒場で殴られてたのはスパッドじゃないか(fromトレインスポッティング)。ヨーロッパ系の人が多く出てるので、アメコミ映画なのにヨーロッパっぽい雰囲気があります。

リアリティなんて言葉は無用。ファンタジーをファンタジーとして、どこまで徹底して作り上げられるか、ですよ。

女性が作った映画では、男性が美しく散るのね。大昔の映画で置屋に売られて病死する貧しい家の美少女みたいに…。 

ワンダーウーマン(字幕版)

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  • 発売日: 2017/10/27
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イ・チャンドン 監督「バーニング 劇場版」2452本目

<ネタバレあり>

原作たぶん読んだはずだけどあまり覚えてない。

「普通っぽいけどわりと精悍かつ知的で意外と女にもてる主人公」「美人で感受性が強く純粋なヒロイン」「世界を手に入れたようなお金持ち」という定番の登場人物。フィッツジェラルドのグレイトギャツビーへの言及。井戸に落ちた体験。

村上春樹の小説は、中で長い時間が経過するものも多いので、短編が148分の映画になるのも不自然ではないです。

監督は「私の少女」や「ペパーミント・キャンディ」の人だ。痛みを描くのがうまい人。

この映画で一番驚いたのは、村上春樹にはあるまじき?復讐の成功が最後にあること。まるでカタルシスはないけど、それでも「はけ口」があると少しは安心するんだ。

あのお金持ちは何物なのか?気まぐれな神みたいなもの?ヘミはどこへ消えた?(…深堀しだすと2時間半じゃおわりませんね)

韓国ニューシネマっていうジャンルがあるのかどうか知らないけど、この映画は春樹ぬきでも見ごたえのある作品でした。

パヴェウ・パヴリコフスキ 監督「COLD WAR(コールドウォー) あの歌、2つの心」2451本目

「イーダ」という映画を見たことがあります。あれも白黒で、静かな映画だったなぁ。ここで初めてちゃんとポーランドの歴史をひもといてみる。第二次大戦後、ソ連に属してはいなかったけど「従属する衛星国」だったと。この映画のなかでは、まるで東ベルリンみたいに監視や密告が行われていたようです。

この映画はズーラとヴィクトルという才能あふれる二人が魅力的で、 政治や世俗に翻弄されてそれぞれ傷ついていくのを見ているのが、つらくなってきます。

88分と短い尺だし、時系列が長いわりに多くを語ろうとしない映画だけど、出会った頃の彼らの燃え上がるような才能と愛情が輝いて見えて、心に残る作品になりました。

COLD WAR あの歌、2つの心(字幕版)

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  • 発売日: 2019/12/02
  • メディア: Prime Video