映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

塚本晋也 監督「斬、」2560本目

この映画、見る前はきっと最初から最後までうるさくて忙しくてずーっと血しぶきが飛んでるような映画だと思ってました。すみません。

中村達也、俳優らしくなってきたなー。「龍馬伝」で暗殺者の役をやったときは立ち居振る舞いが現代っぽかった(それでも相当しびれたけど)のが、まるでもう違和感ないもんね。

この映画を作った人たちや好きな人たちは、きっと子連れ狼とか、「週刊劇画(そんなのあったっけ)」とかに連載してた時代劇マンガとか好きなんだろうな。人を斬るのに理由とか背景とか事情とかコンテクストとかは要らない。鋭い日本刀で生きた人に斬りつけて血を流させる、っていうのを一度美しいと思ってしまったら、この殺傷道みたいなものにはまってしまうのかもな。ある意味軍隊の美とかにも通じる世界。

すごいなぁ。ここまで無意味な刀の暴力に没頭して迫力をかもしだせるのって。

没頭しすぎて、このあと塚本監督が三島由紀夫みたいに自決とか企てないことを祈ります!

斬、

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ニール・マッケイ 監督「ミッション:60ミニッツ」2559本目

これ以上本格的だと私にはちょっとコワイので、このくらいでいいです。

リアリティショーの怖さを引き延ばした映画だと思うけど、そりゃあ「ハンガーゲーム」や「バトル・ロワイアル」のほうが怖いよ。イヤな感じもあっちのほうが強い。

この映画は突然今から殺し合いが始まって、わずか60分で終わるという、マンガ週刊誌の読み切りみたいなシンプルさ。この映画作った人って、きっと竹を割ったような性格なんだろうな…。

しかしあの番組の視聴者って誰なんだろう。<以下ネタバレかも>

最後に与えられたケースにはきっと、今度は彼が暗殺者となるための道具でも入ってたんじゃないかと思うけど、 それでも視聴者だけは見当がつかない。どこかのイカれた大富豪が自分だけのためにプロデュースしてるのかしら…。 

ミッション:60ミニッツ(字幕版)

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アンソニー・アスキス監督「予期せぬ出来事」2559本目

1963年の作品。面白かったです。ロンドンの空港からマイアミへ発とうとしている「VIPたち(これが原題)」つまり今でいう上級会員(この頃は著名なら顔パスだったみたいだけど)の客の人間模様を、元々彼らが抱えていた問題と、霧による遅延・欠航という事件を通じて起きる予期しなかった出来事を描いた映画。オーソン・ウェルズ、エリザベス・テイラーにマギー・スミスといった豪華な存在感あふれるキャスティング。映画監督と新進美人女優、乗っ取りにあいそうなさなかの会社社長と有能な秘書、夫に見送られてきたけど他の男と駆け落ちしようとしている妻、お屋敷を維持する費用に悩みながらエコノミークラスに乗る侯爵夫人。

<以下ネタバレ>

税金が悩みの映画監督は新進女優と入籍することで税金を安くあげることに成功、ついでに侯爵夫人のお屋敷をロケ地に交渉成立、侯爵夫人は維持費が得られたので旅行を取りやめて帰宅、買収される寸前だった社長は突然の小切手で生き延びて秘書マギー・スミスにプロポーズ、他の男になびいていたエリザベス・テイラーは夫の傷心を知って家に帰ることに。…と、お金と愛でいろんなことがうまいこと決着して、明るいエンディングとなります(振られた男だけは切ないけど)。

長くて退屈な飛行機の機内とか、旅行先のホテルの枕が合わなくて眠れないときとかにピッタリの、楽しめてほっとできる映画でした。私こういう映画好きです。 

予期せぬ出来事 [DVD]

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ペドロ・アルモドバル監督「セクシリア」2558本目

(ネタバレあり)

アルモドバル監督の常連、セシリア・ロス。「オール・アバウト・マイ・マザー」であんなにド迫力を見せた彼女もこのときはまだ20代。イケイケのセクシー美女です。ネーミングが愉快ですね、セクシーなセシリアだからセクシリアって名付けたんだよねきっと?

アルモドバル監督の作品には、女性の性と生をど真ん中に据えたものがとても多いと思います。その中で、ヒロインは代替わりします。「ボルベール」はとうとうDVDを買ってしまったんだけど、特典映像に出演女優たちの座談会があって、マウンティング合戦がすごくて面白かったです。「ボルベール」のヒロインはもちろんペネロペ・クルスで、死んだと思われていた老婆役でカルメン・マウラが出ているのですが、そのカルメンが座談会で「今回はペネロペがペドロのヒロインだけど、昔は私だったのよ」。確かに「神経衰弱ぎりぎりの女たち」や「欲望の法則」では彼女がヒロインでした。この「セクシリア」のヒロインはもちろんセシリア・ロスなんだけど、彼女はオバちゃんになってから「オール・アバウト・マイ・マザー」で大逆転ヒロインに返り咲くのです。なんか面白いなぁ。

アルモドバル監督の映画につきものの、父が娘を犯すというテーマがこの映画でも繰り返されています。セクシリアは被害者の娘を真剣に助け出します。

ドタバタのなかでいろんな事件が起こって最後うまーく終息するのが彼の映画なのですが、この映画に限っては、最後の最後に皇太子を一緒に飛行機に乗ったはずのセクシリアが、実父とベッドインしているという、映画の趣旨と真逆に思える結末を迎えるのです。飛んでいく飛行機のなかから怪しい喘ぎ声がしていて、あれこの二人あの機内なの?いつパパまで飛行機に乗ったんだ?という、つじつまの合わない結末なんですよ。うーむ、どうやって頭の中の決着をつければいいのか…。

セクシリア(字幕版)

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  • 発売日: 2017/03/08
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フランク・ペリー 監督「泳ぐひと」2557本目

バート・ランカスターこのとき50代だけど、最初から最後までずっと水着姿でした。ひたすらプールを泳ぎたがる男の映画と聞いていて、なんとなく成りゆきも結末も見えてたけど、本当にそれだけの映画を作ったんだ!というのが面白いし、感想を読むと、町山氏の解説によって大傑作だと思った人とよくわからんという人が半々なのも面白いです。

私は、これって「現代アメリカ短編集」に入っていそうな不思議系の短編小説をいっぱい盛って引き延ばして映画にまとめた、という感じを受けました。実際そうなんじゃないのかな?不条理劇、いいんじゃないでしょうか。あまり原作者が意図していないほどの深い意味を読み取ろうとしなくても、自分がどう味わうかは見る人の自由。

<ネタバレ?あるかも>

泳ぐ男の自宅が朽ち果ててることから、ここ何年も彼と家族はあの家には住んでなかったことがわかります。で、彼はなぜここ数年の記憶を失ってるんだろう。妻や娘たちは彼のもとを去ったんでしょうね。どうも、彼は妻も娘も愛人たちもぜんぶキープするタイプのようなので、自分から捨てたりしてないだろう。ではこの空白はなんなのか。破産のショックで入院していたにしてはいい色に焼けている。一番面白そうなからくりを考えると「幸福なラザロ」説かな…。彼だけ海パン姿でどこかに倒れたまま3年くらい仮死状態にあった…なんてね。戻った家に妻子の死体があったりしないといいなーと思ってましたが、妻子によって仮死状態にされたってこともありうるかなー。とか。

ところで、元ベビーシッターのお嬢ちゃんが、彼氏とは「コンピュータで知り合ったのよ」って言うんですよ。1968年に。そんなバカな!と思ったら、6ドル払うとお相手を3人教えてくれるサービスとのこと。手元に端末があるわけじゃなくて、マニュアルに登録したプロフィールをマッチング会社のコンピュータが選んでくれるってことなんでしょうね。(本当にコンピュータなのかなー)

泳ぐひと (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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ミロシュ・フォアマン監督「ヘアー」2556本目

すっごいサイケでヒッピーな映画!

ファンカデリックのCDジャケットみたいなヒッピーたち。長髪を切って軍隊に入るという「ヘアー」か。なんかそういう歌あったな。就職が決まって髪を切るとか…(cf.「いちご白書をもう一度」1975年)

思い切り反戦的で反体制的。ミロシュ・フォアマン監督といえば「アマデウス」や「カッコーの巣の上で」の強烈な印象が思い出されます。この映画が作られたのは1979年、舞台は60年代~70年代前半のベトナム戦争の反対運動が盛り上がっていた頃で、この映画にも強い反抗心があふれています。…1979年といえば私とかはまだ子どもだったんだけど、ちょっとませた子たちはアメリカの映画や音楽に興味を持ったものでした。なんとなく、自由とか反戦、反核、といったことが無意識のうちにけっこう体の芯に刷り込まれてたような気がします。

戦地に送られる青年の無名性、没個性、を最後にズーンと空しく感じて終わります。この唐突のアンチクライマックス、日本の舞台・映画の「The Winds Of God」を思い出しました。この映画の反戦文化ってアメリカの中でも特に西海岸的で、ヒッピーが創刊した「Whole Earth Catalog」を読んだ少年たちがその後、ガレージでITベンチャーを起業していったおかげでインターネットには良くも悪くも自由が横溢しているし、移民の第一世代第二世代の彼らは圧倒的にオバマ的民主党的LGBTレインボーな世界を志向しているわけで、ヒッピーは完全に絶滅したわけではないのです。

アメリカの白人と黒人のグループが、アジア人を殺そうとするなんて馬鹿げてる!って本気で言ってるのなんて、最近見てないから一瞬信じられない気がしてしまった。今ってかなり一触即発なのかもしれないですね。

ヘアー [DVD]

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  • 発売日: 2003/11/21
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マドンナ監督「ワンダーラスト」2555本目

「僕の大事なコレクション」で英語のあやしいウクライナ人通訳をやったユージン・ハッツが出てるので借りた。今回は正しい英語を話しています。ポルカ・パンク・バンド?をやっていて、男性向けSMのSをやってお金を稼いでますが、階下に住んでる盲目の元詩人のための使い走りで小銭を稼いだりもします。彼のルームメイトは二人の美しい女性、一人はバレリーナだけど食い詰めていて、ポールダンサーの仕事を始めます。もう一人はインド人が経営している薬局で働いていて、適当に薬をくすねたりしている。

なんかみんなイギリス英語だなと思ったらイギリス映画なんですね。原題は「Filth & Wisdom」下劣と知性かな。正反対の概念を並べるタイトル、ジェーン・オースティンの「プライドと偏見」「分別と多感」とか意識したのかな。日本語にするのが難しいし、できてもあまりアピールしそうにないので「ワンダーラスト」で正解だけど、Wanderlustは放浪癖という意味なのでwanderlust kingは欲望の王じゃなくて放浪の帝王みたいな感じなんじゃないのか?

マドンナはガイ・リッチーと離婚する直前にこの映画を監督したみたいだけど、その後も引き続き映画に関わってるんだな。。

マドンナの世界の主役はチンピラ男と美しくて強い女たち、という気がする。どっちも素敵。この映画のAK=ユージン・ハッツはヴィンセント・ギャロほど崩れてないけどヴィゴ・モーテンセンほど開き直ってない中くらいのチンピラ度。まあまあ真面目に暮らしてきた自分とは対極だから、映画の中のこういうチンピラたちに惹かれるんでしょうかね。

私こういう、エネルギー溢れる人たちの群像劇って好きです。