映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウォン・カーウァイ、チャン・イーチェン、ジャッキー・パン、クリストファー・ドイル監督「愛の神、エロス」2584本目

3人の監督のオムニバス短編作品集。

ウォン・カーウァイ「若き仕立て屋の恋」は、「ファントムスレッド」みたいで、いつものウォン・カーウァイ作品みたいに、それはそれは美しいチャイナ・ドレス姿のコン・リーと、それはそれは繊細なチャン・チェンが絵画のような世界を作り出します。彼の映画のエロスはさらっとして、美しくロマンチック。なんでこんな繊細な美青年がふつうのおっさん仕立て屋のもとで働いてるんだ…!最初の頃はすべて透け感のある生地。大人の女性の近寄りがたい色気を醸し出していますね。数年ぶりに再会した彼女は透けないしっかりした生地を着ています。愛する女に合わせて自分が仕立てあげたドレスの裾から手を差し入れるエロス。彼女がほかの男に買われているときに…。

スティーヴン・ソダ―バーグ「ペンローズの夢」は愛とエロスは目立つテーマにはなっていないのですが、夢の中で夢診断を受けていたってことかな。スヌーズに続く目覚まし時計のイノベーションを思いつかずに困っていたから、そんな夢を見てしまったのか。

ミケランジェロ・アントニオーニ「危険な道筋」は、まず何でこの仲の悪い夫婦の妻のほうは半裸なのだ。半裸なのに夫は見向きもしない。でも「塔に住む女」のことは追ってしまう。ほとんど話もしないまま、楽しそうにベッドに入る。その後夫と女たちが会う場面はなく、女たちは全裸で浜辺にいるところで遭遇する。

深いストーリーはなくイメージビデオみたいなものだけど、それぞれの原題がなかなか素敵なので書いておきます:「The Hand」、「Equilibrium」、「The Dangerous Thread of Things」そしてこの映画全体のタイトルはシンプルに「Eros」。

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  • 発売日: 2005/12/22
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レオ・マッケリー監督「邂逅(めぐりあい)」2583本目

この作品は1939年。冒頭の「an RKO Radio Picture」っていう、地球に電波塔が立ってるタイトルロゴがキッチュで素敵。このあと1957年にケイリー・グラントとデボラ・カーで監督自身が撮りなおしてて、そっちも高評価。その後にも映画化されてて、不朽の名作といっても過言ではなさそうです。昔の映画って細部まで覚えてないのも多いんだけど、1957年バージョンはかなりよく覚えてます。かなり切ない気持ちになったんだよな~。

この作品の主演はシャルル・ポワイエ40歳とアイリーン・ダン41歳。57年版はグラント53歳カー36歳の年の差カップルだったけど、こっちは同年代で女性のほうがちょっぴりお姉さんです。実際見るからに強い女って感じ。気丈すぎる女性の切なさ、という筋を知ってる私としては、39年版のほうが良いキャスティングに感じられます。ただ、いかんせん、映像がちょっと物足りない。デジタル・リマスターをしたら見違えるほどきれいになるんだろうな、きっと。

彼女の名前はいつもテリー。39年の彼氏の名前はミシェル、婚約者は彼を英語式にマイケルと呼ぶ。(そこがもうNG)57年はニッキーで94年はマイク。男性の名前にだけバリエーションをつける理由は?

ちなみに、アイリーン・ダン(当時39歳)とケイリー・グラント(同33歳)はこの監督の1937年「新婚道中記」で夫婦役をやってますね。そのグラントを20年後に婚約中の男として使うのは、なかなかな中年キャスティングです!

39年版も57年版も、別の監督が撮った94年版も、待ち合わせの場所はエンパイアステートビル。彼氏はいつもプレイボーイだけど、39年版の子どもたちのコーラスを彼女が指導するくだりは、その後の映画にはなさそうです。

で、この39年版ですが、比較的若い二人だし、それほど悲壮感がなく明るさのあるしめくくりになっています。映画のわかりやすさ、感動しやすさの点では57年版がわりと好きかも…。

邂逅(めぐりあい) [DVD] FRT-164

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野口照夫 監督「薔薇とチューリップ」2582本目

図らずも今朝の「あさイチ」に原作者の東村アキコが出てこの映画について語ってました。K-POPアイドル2PMのジュノが好きすぎて、熱烈なファン(東村氏自身も含まれる)のあいだで彼を日本に呼ぼうという話が出る→彼の出る映画を作ろう→東村、彼を主役にマンガを描け→クールなジュノと可愛いジュノ両方見たい→一人二役、ということになったらしい。強烈な公私混同、最高です。

2PMなぁ。この映画が2019年で、彼らが「テレビでハングル講座」にコーナーを持つことになって記者会見をやったのが2012年かな。諸般の事情でこの時期、昼も夜も彼らの楽曲を聞かされて寝る暇もなく、もーいやだ2PM…と思っているうちに、ふと気が付くと…「Republic of 2PM」というDVDつきアルバムを自腹で買ったりして「やっぱUltra lover最高だわ」と聞き入ったものだったなぁ…全員歌も踊りもうまいし可愛いんだけど私もどっちかというとジュノが好きかな…(※その後CDは売ってしまい、まったくK-POPも聞いてません)

…からもう8年。ジュノもいま30歳だそうです。割とふつうの韓国青年って感じだな…。日本でいえば星野源か…。日本語のセリフがあるのが新鮮だけど、やっぱり彼らは歌って踊ってるときが一番カッコ良いのではないでしょうかね。

この映画はまあ、熱烈なファンが愛するスターを主役に映画を撮ったらどうなるか、と思いながら見ると面白いですね。コミックスの表紙と映画のビジュアルがほぼ同じだし。内容的には、韓国のアイドル映画みたいで、日本で作った映画と思えないくらいだけど、明らかに旅館で撮ってるし谷村美月出てるし、不思議。

天才画家の秘書を演じてるのも韓国の女優さんかなと思ってたら、日本育ちの玄理。「水の声を聞く」の子だ!

エンディングテーマをジュノが歌ってますね。この子の声とか歌い方は涼しくて良いです。なんか昔ちょっと好きだったアイドルって感じ。時のたつのは早いわ…。

薔薇とチューリップ

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  • 発売日: 2019/10/03
  • メディア: Prime Video
 

 

大友克洋・森田修平・安藤裕章・ カトキハジメ監督「SHORT PEACE」2581本目

アニメの世界の7年間は長い。監督陣はその後も多数のアニメ映画を監督してるので、今同じような企画があったらさらにすごいものができるんじゃないかな。

7年前ってこんなフルCGアニメができてたんだっけ。技術もテイストも、すでに百花繚乱といったところです。美しく豊かな世界。尺が20分足らずなので、長編映画のような大きな印象は残らないけど、4編ともとてもよかったです。

森田修平はバットマンが忍者になってしまう「ニンジャバットマン」をその後監督。あの映画もジャパネスクでやりたい放題の傑作だったな。安藤裕章は高く評価されてる「亜人」シリーズの監督。カトキハジメはこの映画でも素晴らしいロボット映像を見せてくれたけど、ずっとガンダムを撮り続けてる。日本のアニメは層が厚いなぁ。いちばん映画作ってないのが大友克洋だという残念な事実(笑)。 

SHORT PEACE

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  • 発売日: 2016/09/14
  • メディア: Prime Video
 

 

ジョン・バダム 監督「ブルーサンダー」2580本目

ブルーサンダーというのは、警察ヘリの最新型。ヘリってかなり低く飛べるので、犯人追跡とかもやってしまう。主人公はこのヘリのパイロット。出世に興味のない無頼派で敵も多いが腕が立つ。

彼の前に現れるのは、過去に失態を犯したもと同僚。その男が彼を消すたくらみを話しているところを、主人公はブルーサンダーから窓越しに撮影・録音していた。などなど。

1983年の映画なんだけど、ヘリに組み込んだコンピュータで警察のデータベースにアクセスして経歴を検索したり、サーモグラフィーつきのカメラでカーテン越しに撮影したりと、当時の超ハイテク技術がたくさん登場します。残念なのは、今やガラケーでもできそうなことが多いのと、こんなに盛り立ててもいま見ると「ふーん」感が強いこと…。あれ、ヘリコプターって爆音なのに、どうやって気づかれずにビルの中の会話が録音できたのかしら?

突っ込みを入れたくなる愉快な設定が多くて、なんか楽しい。

ロイ・シャイダーってちょっと渋いけど重くなくて、男の憧れる男、っぽいですね。マルコム・マクダウェル私好きなんだけど、ここでは悪いだけの役柄…。

この映画ってなんとなくテレビっぽいし、戦闘やニヒルな主人公がいて、男の人向けの昔の週刊誌っぽいノリだな。女性が見てもいいんだけど、道路を平気で逆走しちゃうヒロインにはなかなか感情移入しにくいかも…。

その後ヘリコプターに乗ったヒーローの映画をあまり見ないのは、やっぱり難しいというか無理があったんだろうな…(オスプレイの映画もあんまり見たくないな)

ブルーサンダー (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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ペドロ・アルモドバル監督「ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち」2579本目

1980年の作品。今は「祖母」役をやるカルメン・マウラが若いお嬢ちゃんの役です。40年前だもんなぁ…。

BGMで流れてた場末っぽい歌謡曲が、コブシ回っててまるで日本の昭和歌謡だ。 

イベントの司会者として登場したのがもしかして、アルモドバル監督?ちょっと長髪で口ひげで誰だかわからない感じ。下着のCMガールとしてセシリア・ロスも出てますね。

初期のアルモドバル作品はエロスをかなりど真ん中のテーマに置いたものが多い。(エロティックな映画ではなく、エロスのいろんなあり方を開けて見せるような映画)この映画では夫がいながらレズビアンでかつマゾという女性や、バイセクシュアルなパンクロッカーが出てきます。マゾの夫は妻に乱暴するようになるけど、描かれてるのはあくまでも女性の性なんだよな。みんなおかしくなっちゃったけど、開かれて自由になれてよかったね、という終わり方。スペインの女性って男性にいつも押しつぶされてるんだろうか、毎回映画で解放しなきゃいけはいほど。

この映画は「これ!」というキッチュさのポイントがなくてわかりづらかったけど、アルモドバル研究?においては最初から彼が注目してたテーマや女優たちが見られて興味深かったです。

ペピ・ルシ・ボンとその他大勢の娘たち(字幕版)

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  • 発売日: 2017/03/08
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北久保弘之 監督「老人Z」2578本目

1991年、江口寿史がキャラクターをデザインしたアニメ。

この時期はまだ「厚労省」じゃなくて「厚生省」だったのか。でも独居老人問題はすでにこういう作品でも取り上げられる大きさだったってことだ。それとも近未来を想定?今はそれから30年後。老人=自分の祖父母だと思っていた私が、老人=両親という世代。PCにフロッピーディスクの挿入口。

そうか老人Zは「マジンガーZ」のZだ。奥さんの名前は「HAL」。美少女ボランティアは「はるこさ~ん」。すでに亡き妻がどうやって原子力搭載コンピュータに宿ったのかは語られないけど、今見ても全然違和感のない設定にセンスの良さを感じます。

それにしても江口寿史ってコスプレ好きだよなぁ…。アンナミラーズの制服まったく進行上必要ないし、ボランティアなんだから看護師服も着る必要ないのに…。

老人Z

老人Z

  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: Prime Video