映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ドナルド・キャメル 監督「パフォーマンス 青春の罠」2594本目

ミック・ジャガーが役者として出ている映画。劇場公開もされたのにレビューが今の時点で1つしかないのって…。

2回通しで見てるけど全然わかんないや。長いミュージックビデオみたい。ロックスターとギャングが入れ替わったら?という設定なんだろうか。それもよくわかんないや…。ごめんなさいしよう、これは。

 (デニス・ホッパーの「ラスト・ムービー」と続けてみるとキツイなぁ。なにかこう、理路整然とした映画が見たい)

パフォーマンス/青春の罠(字幕版)

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  • 発売日: 2015/04/30
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デニス・ホッパー監督「ラスト・ムービー」2596本目

デニス・ホッパーのワイルドでイカれてるところが好きで、もっと長生きしてコテコテの偏屈ジジイになってほしかったのですが、もういないのでこういうのを借りてみます。

しかしこの映画は、まぁありていに言って失敗作と呼ばざるを得まい。説得力のあるストーリーがなく、全体的なつくりも雑…。感想を書いてる人が少ないのは、書こうかなー、やっぱやめとこうー、と投げだした人が多いんじゃないかと想像します。意外と、野生児だと思ってたデニス・ホッパー(が演じる主役)が、ペルーの文化をそのまま味わうというより欧米趣味のエキゾチックさだけをつまみ食いしているのも、露悪的なつもりかもしれないけど単純に魅力ダウン。「この辺なら1エーカー1ドルで買えるだろう」みたいな悪いアメリカ人的なことを言ったり(現地の人にとっては「安い」わけじゃないのに)。

ペルーでデニス・ホッパー撮影隊が西部劇を撮っていて、彼はそこを抜け出して地元の女性と暮らし始める。現地の人たちは撮影隊に感化されて”悪魔の仕業”殺し合いを始める。牧師や現地の娼婦たちもからんできますが、オチらしいオチもなくなんだか終わります。

ミー&ボビー・マギーはどうしてもジャニス・ジョプリンのバージョンが頭に浮かんでくるなぁ…。うーむ。 

ラストムービー [DVD]

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フリッツ・ラング監督「死刑執行人もまた死す」2595本目

 図らずも「ジョジョ・ラビット」に続いて見てしまった。ジョジョラビットの設定は1942年、この映画の「制作年」は1943年。

「死刑執行人」というのは、そのあだ名を持ったかつてのナチスの官僚ラインハルト・ハイドリヒ(実在の人物)。冒頭ににやけて歩きながら登場するこの男の感じの悪いことといったら!彼らがドイツ語を話してるのもリアルで震えます。フリッツ・ラングの映画ですもん。相当人に恨みを買ったんだろうなという説得力のある演技。

ハイドリヒはチェコの反ナチ団体によって暗殺されます(史実)。一瞬、歓びに沸く市民たち。でもこのときまだ1942年。これはナチスを刺激したに過ぎなかったのかもしれません。

この映画がユニークなのは、まず、チェコの人たちが蜂起して反撃し、ナチスの重鎮の暗殺に成功したという稀有な勝利を描いていること。でも、「二重スパイ」のチャカを見事に市民たちが口裏を合わせて無実の罪に陥れていくのは、けっこう恐ろしいです。今なら、このくらい凡庸で人道的なところもある男なら生き延びさせることが多いのに、仕返しとはいえ集団リンチみたいになっていくのが怖い。

高潔なお父さんも助からない。「これは終わりではない」と訴える映画を撮れるのは、ドイツ人だったフリッツ・ラングがハリウッドでアメリカ人として暮らしてるからです。今こうやって残っているのが、ナチスや日本の戦意高揚映画じゃなくてこの映画でよかったです。

死刑執行人もまた死す [DVD]

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  • 発売日: 2015/05/22
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タイガ・ワイティティ監督「ジョジョ・ラビット」2594本目

作ったっぽいこの人形劇のような絵作りが、三谷幸喜かウェス・アンダーソンのようです。やけに愛嬌のある「アドルフ」を演じてるのは、監督自身なんですね!

ここまでナチスをコメディにできる時代が来たのか…。監督はユダヤ系ではあるけどマオリも混じったニュージーランド人という、ドイツからの遠く離れた距離感が、寓話性を高めた勇気のもとになっているのかもしれません。

ジョジョ君はおっちょこちょいで可愛い。母親役をやる貫禄がついたスカーレット・ヨハンソンは気の強いお母さん役にぴったり。「スリー・ビルボード」のときは怖いくらいワルが身についてたサム・ロックウェルは今回も怖い軍曹にぴったり。彼はこのあとゲイリー・オールドマンのように歳を重ねていきそうです。

正しいことも間違ったこともこの映画の中では描かれているけど、最後の最後に、さあこれをどう収める?というところで、もしかして、まさか…と思ったら<以下ネタバレ??>踊りオチでした。映画「アンダーグラウンド」と同じだ。答も解決策もないから踊るしかない。現実。

最後の最後に「ヒーローズ」を流すなんて、ヒキョウだわ。しかもドイツ語版。この曲がベルリンの壁の崩壊の口火を切ったと言われて久しいけど、元来ボウイはベルリンに滞在して作った「三部作」があるくらいで、ドイツとは縁が深い。この場面に使われることをきっと喜んだろう。

可愛さが最後に残るいい映画だったけど、もっと痛くて黒くて耐えられないことをこの戦争でナチスはやってきたわけなので、このオチで安心するだけじゃダメだよ…と、これ以外の戦争映画を見てない人には、言いたくなっちゃうなぁ。

(追記)いやむしろ、本当に怖い戦争映画は怖すぎて見られない人でも「マイティ・ソーの監督の新作」として見られることってわりと重要なのかも。監督の思い切ったコミカルな演技も、チャップリン「独裁者」での描き方や、作られた年代を考えれば今ならチョロいのかもしれません。こういう映画を作り続けてヒットさせ続けることの意義を考えて、点数もちょっとプラスしときます。

ジョジョ・ラビット (字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/20
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ペドロ・アルモドバル監督「ペイン・アンド・グローリー」2593本目

今やこの監督の作品はさかのぼってほとんどもれなく見てるのに、劇場で新作を見るのは初めて。なぜなら、私が見るようになってから彼はほとんど新作を撮ってないからです。その間彼はどうしていたのか。いろんな、今までの映画に散らばっていたヒントがこの映画で一つに収束したような映画でした。

まず、全体のトーンがすごく枯れてる。最近初期の祝祭的ににぎやかな映画ばかり見てるからそう感じるのかもしれないけど。最近デビューの頃の作品ばかり見てたアントニオ・バンデラスが、その頃の彼の父親くらいの貫禄で、アルモドバル監督のアルター・エゴとなってこの映画を引っ張ります。

映画の中に現れる映画監督像がそのままアルモドバル監督というわけではないにしろ、映画のなかの監督、ここではサルバドール監督と呼びましょう、彼は神学校で性的虐待を受けて同性愛者になったのか(「バッド・エデュケーション」)と思ってたら、家に来る素敵な青年にときめいたのが「最初の欲望」だったことが今回明かされました。女性には興味がないのか、それとも女性にも惹かれるのか、やたらと女性を賞賛する映画が多いのはなぜか、と思ってたんだけど、一人の男性を愛し続ける人で、女性に対する思いは異性愛というよりマザコンなんだな、とも思いました。

それにしても、枯れたこの映画の中の色彩の鮮やかさ、美しさには目を見張りました。サルバドールの部屋の色合い。赤が基調のキッチン、紅茶を飲むカップのさまざまな模様。ヘロインを隠している赤と白の円を重ねたデザインのキャビネット、私も欲しい、コンラン・ショップにあるかしら。若かりし頃のママがいつも着てる濃いピンク系の小花もようのドレスもすごく可愛い。職人の青年が中庭に貼ってくれたタイルも素敵すぎる。絵を描くサルバドールの赤いシャツと青いパンツも可愛い。でも何より美しかったのは、独り舞台のときの、白い幕をバックにしたアルベルトの青いシャツと紫のパンツ。赤い幕をバックにしたときの紫のシャツと、ポケットのふちの青いライニング。監督の頭の中には、目もくらむような美しい毎日が、何十年分も詰まってるんだな。

この映画の中に、サルバドールが椅子に座った状態でプールに沈んでいる映像が出てきます。彼の背中には一本すーっと手術跡。「デビルズ・バックボーン」はギレルモ・デル・トロが脚本と監督でアルモドバルは製作だけだけど、この監督の背骨も、ガラス瓶に入った胎児みたいな悪魔の背骨といえるのかもしれません。

映画の最後に、成長しすぎて食道を圧迫している背骨の手術が始まりますが、麻酔のなかで監督は自伝を撮影する幻をみています。ということは、これまでの作品は自伝ではなく創作性がたかく、今回初めて自分のことをあからさまに語る気になったということか。アルモドバル作品の祝祭的なところがとても好きなのに、枯れたこの作品も、帰宅してからじわじわと大きくなってくるような魅力のある作品でした。

でも、アルベルトのモデルっているのかな。伝説の名作って1作には絞れないと思うけど…。

デイヴィッド・クローネンバーグ 監督「ザ・フライ」2593本目

森高千里の「ハエ男」の元ネタ?

タイトルや宣伝ビジュアルを見る限り、良くて昔の大映映画、悪いとアメリカの70年代くらいの低予算のどうにもならないヤツしか想像できないのに、感想を見るとそうそうたるレビュアーの皆さんがこぞって高く評価している。いったいどういう映画なんだ!

わずか96分。前置きも何もなく、最初から ジーナ・デイヴィスとジェフ・ゴールドブラムがパーティで話している場面です。この展開の速さも、B級の特徴では…。

でも、転送された猿のまるごと皮をはがされたような姿を見て、ああこれはいわゆるB級ではなくクローネンバーグの作品だ、と早くも納得。

その後もブランドル×ハエの造形の素晴らしさ、痛々しさ、あっけなさに、図らずも心を痛めてしまいました。ハエ男、人間のときからやけに押しが強いわりに小心な男だったけど、ハエになってからも痛い奴だった…。

でも、この映画のあとジーナ・デイヴィスとジェフ・ゴールドブラムが結婚したってWikipediaに書いてあって、つまりこの映画はハッピーエンドだったんだなと妙にほっとしました。(違うか)

ザ・フライ (字幕版)

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  • 発売日: 2015/08/03
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中村義洋 監督「フィッシュストーリー」2592本目

この映画はだいぶ前に見てちゃんと感想も書いたんだけど、みょうに頭に残ってる部分があちこちにある。高良健吾のダラっとしたボーカルのパンクバンド「逆鱗」の「フィッシュ・ストーリー」って曲がすごく好きだし(斉藤和義にプロデュースさせて正解、って前にも書いた)、多部未華子が天才数学者になってナルコレプシーと戦いながら宇宙船の中で計算を続けてるのも忘れられない。

ときに、私は今年になってから仕事を変えて、今、ちょー最先端のコンピュータを扱っている会社にいるのですが、そこの若い研究者の女の子が、いつもPCとは別にタブレットを持っていて、手書きでXだとか何乗だとか長い式を書いて何やら計算してるのが、なんだかカッコよくてついじっと見てしまうのです。それを見ていてこの映画の多部未華子を何度も思い出してしまい、どうしてもまた見たくなった次第。

GOKは私たちの隣でストリートスライダーズが練習してたくらい、まともなスタジオではあるけど、レコード会社がコマーシャルなレコードを作るのに使うことはないだろう、っていうか設定は1970年代だからそういう問題じゃないか。

改めて見ると、ひとつひとつのエピソードのテンポはあんまり良くないな。こういうホラ話はちゃっちゃっと場面転換したほうが楽しめる。でもそれにしてもアイデア勝ちで筋がすごく面白いし、キャスティングも言うことなし。こんなに役者を大勢、場面も多いしロケも多い映画をよく作ったよな。「クラウド・アトラス」みたいだけどこっちは最後すべてがつながる分、スカッとカタルシスがあります。

で結局、一番はじまりのはじまりは、フィッシュストーリーを訳した「ハーフじゃなかった男」か。しかしそのときも、逆鱗がこの曲を録音したくだりでも、「これが世界を救う」っていう運命論的な話は出てこないのね。あんまり言いすぎるとうるさいけどね。すべてをつなぐのは岡崎の息子=中古レコード屋の店長、といっても彼は途中の正義の味方の話は知らない。

多部未華子が大学のホワイトボードに計算式を書きまくる場面と宇宙船の中で計算する場面、最後の5分に出てきて合計1分足らずかな。実際はPCに向かって入力しまくりそうなものだけど、会社のあの子も手書きしてることを考えると、やっぱり手書きなのかな…。今度あの子に聞いてみよう。 

フィッシュストーリー

フィッシュストーリー

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video