映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

グザヴィエ・ドラン監督「マイ・マザー」2627本目

ドラン監督の監督作品は最新作も含めて全部見たんだけど、ここで改めてこれを見直したくなりました。この母親、強烈だなぁ。ヒョウ柄のコートを着た関西のオバちゃんみたいな可愛いもんだ…と思えればいいけど、やっぱり重いな。私だって、こんなくだらない言い争いは日常茶飯事だったけど…。

元来の性格が鈍感で無頓着なユベールの母は、「普通の人々」で息子を愛せなかった母を思い起こさせる。逆に、「普通の人々」のお母さんにも、何かとっかかりがあれば残酷なだけの母親像にならずに済んだのかもしれない。

ものすごく怒鳴り合って傷つけあって、どっちもまったく譲らないんだけど、愛してるってちゃんと言いあうんだ、この二人は。すごいね、愛って。それは「I killed my mother」というタイトルの映画を作ることで、愛憎のうち憎しみのほうが昇華されたからだろうか。

「僕とユベールとお母さん」のお人形のお母さんの頬に、大粒の涙が張り付いてるのが切ない。

美しい映画だったけど、イメージしてたほどカラフルではなかった。で、思ってたよりもっと、いや再びかな、深い映画だなと感じました。 

マイ・マザー(字幕版)

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  • 発売日: 2014/07/04
  • メディア: Prime Video
 

 

ジャ・ジャンク―監督「帰れない二人」2626本目

<ネタバレあり、かな>

監督の妻であるチャオ・タオが主役の、大河ドラマみたいにすごく長い時間の変遷を描いた映画をもう何回も見た気がします。彼女は今日も、ロクデナシに入れ込んで罪をかぶり、5年も服役した後で迎えにも来ない男を探して広大な中国を旅します。

二人が再会するのは三峡ダムに沈む予定の町。(あっちも雨が多いだろうけど、その後どうなってるんだろう、と現在のダムのことがふと心配になってしまった)

その次に彼女が向かう新疆は観光開発中の期待の土地として描かれるけど、他国の私はウイグル人迫害のニュースばかり聞いてる気がする。UFOとかインチキな話で彼女をひっかけて新疆まで連れて行ってしまうこの男もまた通りすがりか…。

最初と最後は山西省の大同。北京や上海以外の中国の都市、特にこういう内陸部って見る機会があまりないけど、かなり賑やかな大都市ですね。この町で2人はまたヤクザな世界に戻ってきますが、脳梗塞で障がいを負って戻ってきたリャオ・ファンは、もはや頼れるアニキの面影なく、居場所も見つけられずにフェイドアウト…

常に気丈でめげない女と、もろさをどんどん露呈する男。…監督がジョン・カサヴェテスに見えてきました。愛妻をモチーフにした女性礼賛映画三部作だったのかもしれません。この映画は監督の「集大成」と言われていますが、まだ50歳です。これでひとつの完結をみたのは確かだけど、次に生まれてくる映画は何かまったく新しいものになる期待感もありますね。

監督がコロナを題材にしてスマホで撮影したわずか4分弱の短編映画が、現在YouTubeで配信されています。「ジャ・ジャンクー 来訪」でググればすぐ見つかると思うのでぜひ見てみてください。長大なロケをしなくても監督の世界観がちゃんと現れていて、大河ドラマのあとに何が出てくるのか、ますます楽しみになってきます。 

帰れない二人(字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: Prime Video
 

 

ミシェル・フランコ 監督「母という名の女」2625本目

<ネタバレあります>

原題は「アブリルの娘たち」。アブリルの二人の娘がこの映画に出てきますが、17歳の娘が産んだ赤ちゃんも自分の子どものように育てていくという設定。

50代ながらまだセクシーで美しい母が、娘の男にまで手を出したり…という胸くそ悪い設定(失礼)に近いことを実際にやっている女性っているんですよ。それが原因で絶交した私の20年来の友人は、立派な夫と息子たちのほかに、ステディな愛人とつまみ食いする男たちがいるのにも関わらず、友人の婚約者も誘惑してた。誰かがいいものを持っていたら、奪わずにいられない。手に入れたあとは飽きて放り出す。…多分それは、衣食が足りているのに万引きをする依存症のようなものだったんじゃないかと思う。その人に仕事があったら、職場で権力をふるいたがる上司になって、どこかでストップがかかったかもしれないけど、家庭に閉じこもって罰を受ける機会がないままになっている人の暴走は、どうすれば止められただろう。

この映画の”毒母”は、白雪姫を毒殺しようとする継母の域に達してますね。一方、わずか17歳のヴァレリアはいつのまにか大人の顔になって、どんな目にあっても諦めずに探し続けます。ほんとに…この監督、この映画を撮ったときまだ37歳ですよ。たいがいの男性が一生気づかないまま過ごすような主婦の深い闇をどうしてこんなにリアルに描けるんだろう?「或る終焉」も60歳くらいの介護経験者でもなければ作れなさそうな作品でした。私が見た2本とも、終わり方がミヒャエル・ハネケっぽいと思ったら、インタビュー記事で大好きだと答えてました。

 しっかしマテオは「本当(En serio)?」って何回言うんだ。流されるばっかりの受け身な男の子だよなぁ…。上記監督インタビューによると、「受け身こそが最大の悪だということも描きたかった」そうです。「ゲッペルズと私」の解説にもそんなこと書いてあったな、まだ見てないけど…。

母という名の女(字幕版)

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  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

エドワード・ヤン監督「台北ストーリー」2624本目

なんか、暗いね。雰囲気も画面も。1985年の台北。

若き日のホウ・シャオシェンが主演しています。東京はバブルで、台湾から来た人は髪型やファッションで外国の人だとすぐにわかった時代。今は東京もソウルも台北みんな同じだけど。音楽も戦後の演歌みたいなのが流れてる。

この映画はラブストーリーといっていいのかな。繊細すぎて乱暴な男が迷って敗れる物語。刺しどころが悪いし出血多量だけど、生きてさえいればその後の人生があるだろう。女のほうはちゃんと前の同僚に拾われて条件の良さそうなアメリカの会社の台北事務所で働くことになる。監督は、古臭い男と新しい女の明暗と、昔ながらの台北とどんどん立ち並ぶビル群を、なぞらえて対照的に描こうとしたのかな。この映画があってもなくても、今の台湾には昭和返りのように昔の建物を使ったカフェが増えているし、昔のままの町も残ってる。東京から思い出横丁やゴールデン街がなくならないのと同じ。

だからそんなにノスタルジックにならなくてもいいんじゃない?と私は思ってるけど、だからといって女が外資系のバリバリのOLでいることが大層なことだとも思わない。

本当のところ彼らは、自分らしくやれてるのか?というところだけが気になるな…。どう生きるべきかって問いに答えはないから…。

台北ストーリー [DVD]

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  • 発売日: 2017/11/02
  • メディア: DVD
 

 

ホウ・シャオシェン監督「恋恋風塵」2623本目

幼なじみとの初恋は、風の前の塵のように消えてしまいました…

台湾映画って、昔の日本のような風景や人物たちの素朴さですでに60点は確保してるんじゃないだろうか。あまりによくある、さりげない、何もない若者たちのはかない恋。

少女アフンがどんどん綺麗になっていく一方、いつまでたっても青臭いままのアワン。彼女の心変わりの事情は特に語られず、兵役にもまれるアワン少年の視点で語られる映画なんですよね。

小中学校の時のやんちゃだった同級生の訃報を先週聞いたからか、アワンとその彼がちょっと似てる気がする。彼はいたずらばっかりしてるやんちゃ坊主だったけど、繊細なところもあって、どんな大人になったんだろうと思ってたので会えないままで残念だったけど、優しい男だった、女によくモテたと聞きました。この映画のアワンは切ない役どころだけど、やんちゃで優しい男は大人になってからモテるぞ。きっと彼にもいい感じの未来が待っていたんだと思いたいです。

 

ショーン・S・カニンガム 監督「13日の金曜日」2622本目

<ネタバレあります>

友人のInstagramで知ったピーター・ドイグというイギリスの画家の展覧会を見に行ってきたんだけど、彼の作品の中にこの映画のラストシーンをモチーフにした油絵が何枚かあるのだ。巨大な名画でモチーフがホラー映画ってそんなのあるのか!あるんだよ、というこの違和感のおもしろさ。そういえば私は肝心の、この知らない人はいない映画を見たことがない。ということで、帰宅してすぐAmazonプライムで見てみることにしました。

B級感と低予算感がたっぷりでタランティーノとか好きそうな感じ。映画はお化け屋敷のように、姿の見えない犯人によって次々にキャンプ管理者たちが惨殺されていきます。種明かしとしては他の人たちも書いているように犯人は「サイコ」と同じなのですが、かの有名なジェイソンはなんとまだ出てこない。ものすごく有名な映画なのに、それほど印象的なプロットも場面もないし、なんでそんなに大ヒットしたのか不思議。でも、最後の最後の湖に船を浮かべた生き残りの彼女が水面に向かって頭と腕を垂らす場面は、ピーター・ドイグが描きたくなる気持ちがわかるくらい、不思議に妙に絵として完成度が高くてすごく美しい。そこに唐突に一瞬だけ湖の底から現れる、半魚人のようなジェイソン少年。この映画の見どころはここだな…。この一瞬のおかげでこの映画は一種のトラウマ映画として永遠の命を持ったんだわ。ぶっちゃけ95分のうち90分はどうでもいい。最後の5分は映画好きには必見でしたね。

13日の金曜日(1980) (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

イザベル・コイシェ監督「ナイト・トーキョー・デイ」2621本目

「女体盛り」という大人の男たちの遊びがあると何かで見たことはあるけど、本当にやってた人ってどれくらいいるんだろう。私が最初に就職した会社では、海外出張のときに取引先(同じ日本人)を”男たちの遊び場”で接待するから、お前はここで帰れと言われた。昼間その取引先の人たちを観光に連れて回って、写真を撮ろうというときに、いちいち肩に手を回してくるのが嫌で、いつも仏頂面で写真に写ってしまった。その後ずっと、私ってなんて子どもだったんだろうって思ってたけど、逆にもうちょっとはっきり「もう少し離れてください」って言ってもよかったんじゃないかと今初めて思った。

冒頭がちょっと醜悪すぎて、しっかり見ようという気を亡くさせるんだけど、これはイザベル・コイシェの映画だ。女性としての視点があってのことだろうから、最後まで見てみよう。でも田中泯の言葉が一本調子だし(彼は「語らせる」べき人じゃないと思う)、ラーメン屋でおっさんが若い女をナンパするのもあり得ないし(監督は、ラーメン屋というところがいかにクールにあっさりとラーメンを食べて立ち去るだけの場所かを知らない)、原題がせっかく「Map of the sound of Tokyo」なのに意味不明な「ナイト・トーキョー・デイ」なんていう邦題をなんで付けてしまったのか。誰がどこで間違っちゃったんだろう…?

ストーリーは、東京のさまざまな「音」を拾いながら、あるサラリーマン(中原丈雄)が娘を死に追いやったスペイン人の夫(セルジ・ロペス)を暗殺しようとする話。サラリーマンが頼る部下(榊英雄)が見つけてきたスナイパーが、築地市場で働きつつ娼婦でもあり実はスナイパーという菊地凛子。彼女の唯一の友人がラーメン屋で知り合った田中泯。菊地凛子は妻を亡くして意気消沈しているセルジ・ロペスが経営するワインショップで彼と出会って恋に落ちる。でも実は、自殺した娘が本当に愛していたのはその部下(榊英雄)ではないかという示唆もある(トイレで「消音機」をオンにして泣いている場面がある)

菊地凛子がいつもはむはむと食べているのは、外国人が「mochi」と呼んで珍重する「雪見だいふく」だろうか。なんか、日本について知ってることを全部並べたような映画だよなぁ。ホテル・バスティーユ(監獄?)という名前のラブホテルは日本で撮影したんだろうか。スペインにはないだろうから日本だろう、、、。

 最後まで見たらそんなに醜悪ではなかったです。でも菊地凛子も同じキャラクターばかりという気がするので、コメディエンヌとかやってほしい気がしてきました。 

ナイト・トーキョー・デイ

ナイト・トーキョー・デイ

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video