映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

今村昌平監督「赤い殺意」2677本目

今村昌平の作品を見るのは久しぶり。集中して映画を見始めた頃に衝撃を受けた作品がいくつもありました。この作品は「山さん」(太陽にほえろ!での役名)が悪者なんだ。冷静沈着なあの山さんが…。このとき32歳、まだいい人にも悪い人にも見えない。

今村昌平もまだ30代。若い監督特有の尖り方がいいです。 なぜかピカピカで汚れひとつないアイロンや強姦のあとの散らかった部屋。春川ますみのボリューム感は、私がロシアや北欧の映画で大きい女優さんたちのアップを見せつけられたときの息が詰まりそうな感じに通じる気がします。なんとも言いようのない、むせかえるような窒息させられそうな肉感。

主婦が犯罪者と逃亡しようとする設定は野村芳太郎、高峰秀子と田村高廣の「張込み」を思い出します。あっちは女性の年齢?精神年齢?がずっと上で、この先を見切った賢い女の計算も感じさせましたが、こっちは幼い印象の素朴な女性。それでも結末が同じようになって結局家に帰るんだよな。主婦をやっている女性たちから見れば「テルマ&ルイーズみたいに飛べなかった」という苦い思いがあるのかもしれないけど、一人暮らしの私から見れば、冷たくもあるけど人の気配と暖かい食事や風呂のある家に戻れた、という安心感も感じます。

今村昌平の映画は怖い!というイメージがありましたが(「復讐するは我にあり」とか)、この映画は怖くはなかったです。山さんの悪かった過去はちょっとショックだったけど…。(違うか)

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ロイ・アンダーソン監督「散歩する惑星」2676本目

変な映画だったなぁ。知らずに見たらアキ・カウリスマキ監督の作品だと思っただろうな。

登場人物が全員、顔が白塗りになってる。中盤で登場する、処刑された若者(首からずっと縄を下げてる。ずっと話しかけてくるけど言葉が通じない)も同じ白い顔をしてるので、もしかしたらこの映画の中の人たちはみんな既に死んでるのかも?現代にあってどういうわけか「人身御供」にされてしまう少女も、最後の「売れなかったイエスキリストの磔像」を捨てに行く場所で目隠しをされたまま再登場するし。

景気が悪すぎて、店は焼けるし大量解雇だし誰も性の興味を失ってれうし、キリスト教ももう人気がないし、どうしようもない、という、うすら寒い白っぽい世界。これが北欧…。豊穣や情熱の時代を過ぎて世界が成熟から老成だか老醜だかへ向かっていく、古いヨーロッパらしい人生観があふれています。

メイキングを見ると、スタッフはちゃんと血が流れてる顔色をしてるし映像もクリアで、作ってる人たちは病んでませんでした(当たり前)。ほんと不思議な世界だな…この監督がCFで賞を取りまくってるヨーロッパというところがとても面白い。東アジアはどう老成してもこのような境地にはならない。

一番驚いたのは、ほとんどスタジオ内で撮影してること。背景はほとんどカキワリで、渋滞してる自動車も手描きだし、ごみの中からさーっと走り去るネズミはハリボテだった。ここまで手をかけてなんでこんな映画を撮らなければならないか、というスウェーデン人にほんと興味を惹かれますね。(セットに手をかけて完成まで4年かかったとのこと)

キャスト紹介(写真とテキストだけ)のところで、誰も彼も「レストランで食事をしていたら監督に役者にならないかと声をかけられた」と言ってるのがまた可笑しい。

監督のインタビューで「普通の人たちへの賛歌」って言葉を使ったり、支配者への反発について語ったりするのがまた不思議。日本の私から見ると、普通のちょっとしょぼい人たちをおちょくってるように見える。でも彼らをみんなに見てほしい、ということが監督の想いなのかな。

 ハンマースホイの絵の中で、年取った小人たちがあくせく暮らしているような映像。北欧はまだまだ未知の世界だ…と思い知ってワクワクしてきました。

 

ジェイ・ローチ 監督「スキャンダル」2675本目

原題は「爆弾」。タイトルが「スキャンダル」でポスタービジュアルが3人の美人キャスター、これじゃまるで彼女たちの社内不倫の映画みたいだ。この映画のテーマはセクハラなのでスキャンダルって言葉とはニュアンスが違う。日本で上映したところでセクハラがなくなるわけでもないので、いっそのこと「お色気爆弾」みたいな邦題にでもすればよかったのに(←皮肉きつすぎ)

日本のテレビ業界に依然として蔓延してるのはセクハラよりパワハラじゃないだろうか。ほかの業界のほうがセクハラすごい気がしています。でも問題は、すけべおやじの程度と数ではなくて、自浄作用がまったく働かずに頭も内蔵も手足もみんなちょこちょこ腐ったままという実態で(以下略)

この映画はポスターや予告編を見て、3人の女優が「がっぷりと組んだ演技」だと思った人が多いんじゃないかな。実際には予告編で使われていたエレベーターの場面以外、3人が同じ画面に映る箇所は一つもありません!ここが一番残念かな。男でも女でも、同じ相手に嫌な目にあったからって、元々仲良くない者同士が集まって悪口を言うわけないんだけど、元々仲間だった3人が力を合わせて巨悪を討つ映画かと期待してしまった。まったく一人で戦うのってかなりきつい。アンカーウーマンとしてアメリカ中の視線や揚げ足に長年耐え続けた人でもなければ、難しい。

日本には詩織さんという不幸な例があって、訴えても守られないという不文律ができてしまってさらに声を上げづらくなってしまったんじゃないだろうか。

それにしても、金髪で脚のきれいな美人を見たがる保守が相当数いるからFOX TVが存続してきたんだろう。ライバルのMSNBCはヒスパニック系やベトナム系やアフリカ系のキャスターが人口比と同じ割合で登場するチャンネルなんだろうか。(サイトを見たらアフリカ系のキャスターが日系人にインタビューしてた)

セクハラやパワハラって、相手をいたぶるのが快感で、かつ、相手がぜったい自分に反撃してこないと思うときにやらかすもんです。どんなに無垢な少女も、無邪気でいられない世の中なので、自衛のためのチュートリアルとしてこの映画を見ておきましょう。(好きな男以外と密室で話すときは、録音しとけ!か?)

スキャンダル (字幕版)

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クリストファー・ノーラン監督「TENET テネット」2674本目

<ネタバレもちろんあり注意!>

早速見てきましたよ。まっさらな状態で予約したのでIMAXじゃなくてMX4Dで見てしまいました。IMAXいいけど私は目があまり良くないので、テーマパークみたいにドカン!とかぷしゅー!とか楽しませてもらえて良かった、のではないかと思うことにします。高かったけど!

感想:今度はこう来たか。ほんと面白いこと考えるよなぁノーラン監督。ずっと「時間」を命題のように映画を作り続けているけど、「メメント」では気まぐれな時間に翻弄されるだけ、「インセプション」では夢の中の決まった条件で次元を移動することである程度時間のコントロールをつかみ、「インターステラー」では仕組みは明かされないけど自分が望むピンポイントのタイミングで過去にアクセスできるようになった。今度は次元も時空も超えないけど、なんと時間を手でつかむかのようにこの地上でコントロールできるようになった。そして今の映像技術があるから、時間を逆回ししている未来軍と今の自分の軍の戦いっていう場面も作れるようになった。あの辺、MX4Dで見るのが楽しかったですよ。(あれ、車は逆行するのに自分との取っ組み合いは逆じゃない感じもしたなぁ)この映画ってほんと、「うわぁ~何これ面白い!」と楽しむのが一番です。細かいことは後でDVDで見ながら突っ込めばよし。

そして今回も、キャスティング絶妙。ジョン・デイヴィッド・ワシントンは「ブラック・クランズマン」でも勢いがあって無鉄砲で愛されるヒーロー役に見事にはまってたけど、この映画もそのいい流れに乗っています。ロバート・パティソンは二枚目然とした暗いバンパイアのイメージが好きじゃなかったんだけど、この映画ではひときわ安っぽいスーツ(大金持ちから見れば)でふにゃっと笑う感じが、バンパイア時代の端正さを崩してくれていて親しみが持てます。エリザベス・デビッキはちょっとムカつくくらいの勝手さが素敵。大した恋愛もないのに救われて振り回す、まさにボンド・ガール。ケネス・ブラナーは悲壮感伴う老人がうまい!(まだ50代だけど!)そしてやっぱりマイケル・ケイン。この人見るたびに、(今は落ち着いた老人だけど若い頃はめちゃくちゃイケてたんだよ…みんな「アルフィー」見た?)と言いたくなります。マッドネスのアルバムに「マイケル・ケイン」っというまんまなタイトルの歌もあります。「イエスタデイ」のひとりビートルズ、ヒメーシュ・パテルもいい愛嬌があります。

さて。ストーリーについては、最後の最後のオチもいいし、だんだんわかってくる”自分との闘い”や”倒れていた相棒”もいい。ラスボスの正体を知った後で思うに、彼が冒頭で飲まされた自殺カプセルをすり替えたのは誰?→思い出した、あれはそう思わせておいてテストだったから、すり替える必要はなかった。でも誰がテストしたんだろうね(笑)。ラスボスであった彼が世界存続作戦の全貌を計画した頃、どれくらい年を取っていただろう。セイト―(インセプションはサイトーが出て来たな)はいつどうやって時間の仕組みを知ったんだろう。彼がいた未来はどんな未来だったんだろう。自分対自分の殺し合いで、過去が未来を殺すことはありうるけど、未来が過去を殺してしまったら自分はその瞬間、消滅するんだろうか。

いろんなことを自分の頭で考えるのが一番の楽しみ。解説を見たり聞いたりする機会もあると思うけど、先送りしてしばらくは余韻に浸りたいと思います。

クリストファー・ノーラン監督「インターステラー」2673本目

この映画の「ブラックホールの本棚」の場面も、一生残る場面だったなぁ。

だけど最初に見たとき私は、「あと一歩」みたいなことを書いてた。もう一歩進んだところにあったと私が感じたのが「メッセージ」で、そこから原作を読んで現代中国SFも読み始めた。人類はまだ経験していないことに対して謙虚に観察と実験を続けるべきなのだ、きっと。

ガルガンチュアに突入する場面は、ガラガラといろんな破片がぶつかってうるさいけど、「2001年宇宙の旅」みたいだね。データを取るために自ら生身でブラックホールに飛び込むのって、これほどの自己犠牲があるだろうか?どうしても、たまたまそこに本棚の反対側があるという飛躍の納得できる説明が見つけられないけど、でも、面白いからよし。

次元の違いによって時間が稼げるという理論から、どんどん物語が膨らむ。妄想といってもいいし夢といってもいい。このくらい大きなことを想像して、丁寧に確実に執念深く積み重ねていくことが科学研究だし、映画の制作も同じだ。常に「その先」はあるから、映画で語ることは語りつくしたなんて思わないで、常に前を向いて作り続けてほしいと思います。

インターステラー(字幕版)

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クリストファー・ノーラン監督「インセプション」2672本目

前にも見たけど、「テネット」の公開(明日からだ!)に先駆けてやたらみんな見てるので(だってIMAX上映中だから)私も見てみることにしました。家でだけど。

前に見たのはもしかしたら飛行機の機内とかだったかもしれない。あまり細かいところを覚えてない。最初に見てから10年近く経ってるんだろう。その間に私は2700本くらい映画を見て、この映画の中や外に他の映画の断片を見つける、普通の映画好きくらいの知識はついてきたかもしれません。

マリオン・コティヤールがエディット・ピアフを演じた映画を見たばかりなので、この映画のなかで繰り返し流れる「水に流して」が耳につく。監督はあの映画を見て彼女をキャスティングしたのかな。(Wikipediaを見たら、この曲を使うことはその前から決まってたそうです)「500日のサマー」でゴードン・ジョセフ・レヴィットを、「ローラーガールズ・ダイアリー」でエレン・ペイジを、「硫黄島からの手紙」~「バットマン・ビギンズ」から渡辺謙を。「バットマン・ビギンズ」からキリアン・マーフィーを(あるいはイギリスどうしなのでその前からよく知ってただろうけど)。トム・ハーディはどこから来たのかわからない。

エレン・ペイジはローラーガールズのキャラクターのままだしゴードン・ジョセフ・レヴィットもちょっと弱いキャラを継承してる。でも「借景」とは感じない、もっと大きく広げてるから。

最初の方、デカプリオとエレン・ペイジが「夢」の中で街を折りたたんで町の半分が空から折り返ってくる衝撃的な映像、よく覚えてる。郝景芳「折りたたみ北京」を読みながらこの映像を思い出したんだけど、この小説はこの映画の2010年より後の2012年に書かれたそうだから、この映画の印象が彼女にそんな小説を書かせたのかもね。

アリアドネというあまり見ない名前をググったら、迷宮から主人公を救い出すギリシャ神話の登場人物らしい。なるほど、いい名前だ。(こういうことをきっと町田氏の解説では話すんだろうなー)

そして、私の「マリオン・コティヤール=弱い女性」っていうイメージはこの映画からきてたかもしれない?

この映画そのものは「惑星ソラリス」のテーマを「エターナル・サンシャイン」の仕組みを膨らませて創造してる部分もありますね。亡き妻の思い出を追い続け、悪夢に囚われ続けるデカプリオ。そう考えるとチャーリー・カウフマンって、スタニスワフ・レムくらい斬新ですごい人なのかも(変なだけの映画もあるけどw)。

もしかしたらノーラン監督は、様々なイメージを強力に焼き付けてかき集めてアレンジする人なのかもしれない。てんこ盛りで、巨大なクロスワードパズルみたいに、複雑だけど確実に解が一つだけある。

不思議でSFで革新的なコンテンツって中国の小説とアメリカの映画が圧倒的に先に行ってるなぁ。前に見たときは不思議で難しい映画だと思ったけど、今回は複雑で面白い。全部理解できてはいないと思うし、全部理解しなくてもいいと思ってるけど、こういう映画を見たり小説を読んだりしてると頭のいろんな部分を使う。いろいろ活性化する。刺激されて気持ちが上がる。だから、これほど創意工夫をする監督や制作者のことは尊敬してしまうなぁ。 

インセプション (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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グァルティエロ・ヤコペッティ 監督「世界残酷物語」2671本目

この映画なんで借りたんだっけ?

残酷さではタイトル負けしていて、面白さもわからなかった…。

こんなの感想といえるのか?と思いますが、見たぞという記録を残しておきます。 

世界残酷物語(字幕版)

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