映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロマン・ポランスキー監督「ポランスキーの欲望の館」2687本目

 イタリア資本があったのでイタリアふうのエロティックコメディを作ろうという趣向だったのか。タイトルとジャケットを見ると、おどろおどろしい老人が次々に若い女性をいけにえにするような映画化と思ったけど、原題は「何?」だと聞いて、もっと軽くてチャラい映画なんだなと知る。それでもモスキートと名乗って出演もしてるポランスキーの気持ちはわからないし、いまごろHDマスター完全版を出した映画会社の気持ちもわからない。

ポランスキー監督が想像したイタリアン・エロティック・コメディってことでいいですかね?ロシア人が想像した南の国のおサルさんがチェブラーシカになったくらい、実態とかけ離れた何だかわからないものができたって意味では…(笑)。

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リチャード・フライシャー監督「海底二万哩」2686本目

この監督の作品、意外と見てました。「ソイレントグリーン」は覚えてるけどあとはあまり記憶にない…。この映画は1954年なのでセンスが古くても当たり前なんだけど。「ロリータ」や「邪魔者は殺せ」のジェームズ・メイソン、「M」や「罪と罰」の癖のある悪役ピーター・ローレ、アゴの割れた船員役のカーク・ダグラスなど、配役も正しいのにどうも平板な感じなのはなぜだろう。

完成度の高い潜水艦や、その中のパイプオルガン(!)で艦長がバロック音楽を奏でるあたり、ウルトラマンや仮面ライダーに出てくる天才マッド・サイエンティストだと思えればよかったんだけど、それにしては他の設定が健全すぎる気がして。

ウミヘビやフグをどう調理したところで仔牛やラムに擬製することはどう考えても無理(せめてマグロをチキンとか言えば良かったのに)、というあたり、リアリティを感じられなかったからかなぁ。

それにしても、ツヤッツヤで芸達者なオットセイは可愛かった!

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ブノワ・プショー 監督「グザヴィエ・ドラ バウンド・トゥ・インポッシブル」2685本目

グザヴィエ・ドランは美しくてなんだか特別な子供みたいな不思議な監督であり俳優なのですが、このドキュメンタリーでは彼の現場での様子や、突然脚光を浴びるまでのことが俳優やプロデューサーによって語られます。つかみどころのない人だけど、誰から見てもそうなのかも。

やっぱり彼の初期の作品をそろそろ見直してみなければ。

 

ルパート・グールド 監督「ジュディ 虹の彼方に」2684本目

小さい頃大好きだった「オズの魔法使い(私のはシェリーが出る、ホンダがスポンサーだったやつね)」のジュディ・ガーランド版を見直したとき、彼女の壮絶な薬物中毒のことも知りました。この映画では、晩年の彼女にはダメなこともあったけど、素直で可愛い人に描かれていましたね。レネ・ゼルウィガーの自然な人間味あふれる歌声のすばらしさにびっくり。歌手でいけるんじゃないか、という気もするけど、ジュディが降臨してるときだけなのかな?

噂レベルでは、ジュディがバイセクシュアルだったとか、少女の頃に映画関係者に凌辱されていたという話もあるけど定かではありません。でも、LGBT解放のシンボルとして長年「虹の彼方に」が使われていて、そこから虹そのものがモチーフとしてよく使われているのは事実。私は、「オズの魔法使い」にはさまざまな姿かたちの人たちがワイワイ出てきてみんなで仲良く暮らしていたのがけっこう衝撃だったので、そこから来てるんじゃないかなと思ってます。この映画で、おそるおそる彼女に声をかけてくる初老のゲイのカップルがいい味を出していて、オムレツ作りに失敗するエピソードはほほえましいし、同性愛で投獄された過去には胸が痛みます。舞台上で歌えなくなった彼女に向かってアカペラで彼らが歌いだす「虹の彼方に」が実に泣ける場面なんだけど、そういう背景がそこにはあるんですよね。

 

彼女やほかの早逝したスターたちを追い込んだのは、毒親なのかエンタメ業界なのか、彼女の舞台にヤジを飛ばす観客はどうなのか。彼女の名前を関した映画館を画策することは?もっと言うと、彼女を愛して長年ステージに通い続けるファンの期待もそうかもしれない。私たちはただ愛するだけじゃなくて、もっともっとって要求してしまうから…。

卓越した魅力をふりまいて、エネルギーを与えてくれるスターっていう人たちの美しさと苦悩に改めて思いをはせてしまうのでした。。。

ジュディ 虹の彼方に(字幕版)

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クロード・ルルーシュ監督「愛と哀しみのボレロ」2683本目

世界きってのロマンチストな監督(と私は思っている)が戦時下の恋や家族を描くとどうなるのか。不思議な音楽映画、なのかな。男女が出会った場面の次はもう結婚式だ。ミュージカルやオペラみたいに、解説で「物語が大きく動き始めるのは20年後のことでした」とか説明を入れつつ、場面場面は孤立してる。KINENOTEとかの解説を読んで、グレン・ミラーやエディット・ピアフを模した設定だとわかってから、少し人物たちが把握できるようになったけど、親と子を同じ人が演じていてもなお、誰が誰かすぐわからなくなる。2回見ると6時間、でもまだ把握しきれないからもう一度見るかどうか迷う。

グレン・ミラーはドイツ人だけどアメリカで成功した人だし、エディット・ピアフはニュースキャスターにはもちろんならなかった。監督が好きな人たちを集めて彼にとっての宝物を作った、というロマンチックさが感じられます。

最初と最後の「ボレロ」が確かに素晴らしい。時代はめぐり、移り変わるけどまた出会い、戻ってくる、というのが、繰り返しの多いこの曲から伝わってくる。

ほかの映画とは違うんですよ。全体的な作り自体が。でも、頭で理解して問題意識を持つための映画じゃなくて、ミュージカルやオペラやバレエみたいに楽しむものとして、この映画の良さや個性を味わいたいなと思いました。 

愛と哀しみのボレロ [DVD]

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ロマン・ポランスキー監督「赤い航路」2682本目

ポランスキーの映画にヒュー・グラントが出てる。何というありえないことだ。船のトイレで倒れていたのはやっぱり、現ポランスキー妻のエマニュエル・セニエだ。彼女がヒュー・グラントをバーのカウンターで罵倒している。おかしい…。気の利いたトークでもしてるつもりなのに寝たふりをしてみせたり。…と手練手管で惚れさせておいて、その後はポン引きのような彼女の夫が現れて、彼女との激しいなれそめを語る。ヒュー・グラントは巻き込まれ役、聞き役の無垢な青年です。

エマニュエル・セニエがとにかく迫力があってすごい。若い頃の北原三枝みたいだ。(その例えでいいのか?)SとMの使い分けの緩急はこの頃からこなしてたんですね。(cf「毛皮のヴィーナス」vs「告白小説、その結末」)

ポランスキーらしい、精神的な圧迫がたっぷり詰まった映画だけど、ヒュー・グラントがお行儀がよすぎるからか、あまりとんでもない緊張の極みまでは到達しないままでしたね。というか、初めて「ローズマリーの赤ちゃん」を見たときは胃から血が出るかと思ったけど、私も慣れてきたのか、「いつものやつだな」という感じ方になっています。

とにかくエマニュエル・セニエの生物としての全盛期が見られてよかったです。 

赤い航路 (字幕版)

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  • 発売日: 2015/08/12
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セバスティアン・レリオ 監督「グロリアの青春」2681本目

グロリアが通うダンスクラブは、中高年の出会いの場なんだろうか。毎回わりと積極的に男性に声をかけるグロリア。笑顔がチャーミングな初老の女性です。夫や妻と別れたり先立たれたりして独身の人たちって、この年代だとどれくらいいるんだろう。素敵だけどちょっと性格が…なんて言ってる場合じゃないくらい、相手を見つけるのって難しいんじゃないだろうか。それにしてもこのオバちゃんはフランクというか、声をかけて来た誰とでもすぐ寝るし、気に入らないと男の家に行ってスプレーガンを浴びせるし。男のほうも、前の家族に縛られてて先に進めない。女の家族は自立しすぎていて彼女はかまってもらえない。みんなそれぞれ、すっきりしないものをいっぱい抱えてて誰に相談もできない、自分だけの一生を生きるのだ。

この映画の場合、彼女が他の人より特に大変ってわけじゃないし、まあまあ自分勝手で尻軽でもあるので、見る人が彼女に共感するのは難しいと思うけど。でもそんなグロリアも自分の歌を捧げる賛歌のような映画なのでした。

この映画を日本で作るのは難しいだろうな。若い女の子が東京に出てきて挫折する映画なら作れそうだけど。 

グロリアの青春(字幕版)

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  • 発売日: 2014/09/03
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