映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

デヴィッド・クローネンバーグ監督「シーバース」2694本目

私は素人だけど「日経アーキテクチュア」を購読してたこともあるくらい建築が好きなので、冒頭からこの何でも完璧に揃った機能的アパートにぽーっとなってしまいます。ベルリンの「ヴァイセ・シュタット」みたいで。でも監督が監督なのでこのあとの展開は覚悟しつつ。

素敵な宣伝に惑わされて訪ねて来た見込み顧客を案内するスマートな営業。一方でこの「孤島に建っている一つの町」といってもいい建物の中で猟奇殺人やら変態行為やらが行われています。その中でナマコのような「寄生虫」が増殖していきますが、襲われる意人たちはあまり本気で戦わずにわりと安易に餌食になったりするあたり、かなり進行に無理がありますが、いいんです主役はナマコだから。

ナマコに魅入られた人間たちはすっかりオバカになって、まだナマコ人間になっていない人間を見つけ次第、老若男女問わず襲い掛かります。ゾンビか?

タイトルのShiversはシーバーという異生物の名前ではなくて「震え」「悪寒」ですね。あんまり内容からピンとこないタイトルのような気がして、今後作られる、もっと悪寒を感じさせる映画にとっといたほうがよかったんじゃないかと思いました。

シーバース [DVD]

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湯浅政明 監督「夜は短し歩けよ乙女」2693本目

 

これ、面白い。

アニメ映画なんだけど、絵の動かし方がとてもユニークで飽きない。主人公の「迂遠な男」の声を謎の実力派ミュージシャン星野源がやってるのも、奥が深くていい。舞台が歌舞伎町とか六本木とかじゃなくて京都の先斗町ってのもいい。先斗町には、知らない人の飲み会にいきなり乱入する文化があるんだろうか?

大酒飲みの女の子の大切な思い出の絵本「ラ・タ・タ・タム」は私も大切にしてきた絵本なので、いきなり出てきてびっくり。ビネッテ・シュレーダーの絵本は4冊持ってるけど全部ドイツ語版なので意味はぼんやり想像するだけだけ。絵が素晴らしいので何十回もじっと見つめてうっとりしたものでした。

この映画はスラップスティックなんだけど、好きな絵本が同じ人が作った映画だからか、また、京都が舞台の百鬼夜行の乙女版みたいな演出が面白すぎるからか、なんかとても好きな映画になりました。 

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

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グレタ・ガーウィグ監督「わたしの若草物語」2692本目

(ネタバレあり)(他の映画の結末まで書いてる)

ギンレイホールでカップリングされていたもう片方の「リンドグレーン」と比べて、やっぱりハリウッド。(こっちはフィクションだという違いも大きいけど)時系列が行ったり来たりするのがわかりにくいけど、気が強くてがんばりやのジョーが作家として大成することを知っている私たちは、原作者が独身を貫いたことを知っていてもなお、ジョーが思う人と結婚したことにほっとしてしまうんですよね。その点において出版社の人の言うことはまったく正しかった。

グレタ・ガーウィグのシアーシャ・ローナンは「レディ・バード」とこの映画のキャラが被っている部分が多いこともあって、なんとなく「またか」感がありますが、4人の女子+母の賑やかにじゃれる感じの楽しさ、かわいらしさは女性監督にしか作れない親密な世界ですね。(これをソフィア・コッポラの場合全滅させちゃうんだよなー、どうしてそうなるんだろうなー)しかし全滅はしないけど、無垢で優しいベスは病気で早逝してしまいます。犠牲といっちゃ言い過ぎかもしれないけど、元気すぎる他の姉妹たちの繁栄の裏に、静かに消える命って運命何だろうか。

一方、同じく「レディ・バード」に出てるティモシー・シャラメには既視感はありません、なぜならあの映画の彼は最低男で今回は王子様だからです。ジェラール・フィリップ亡きあと(だいぶたってるけど)を継ぐ、パフスリーブの似合いすぎる男。パフスリーブではない設定だと思うけど、細さを強調するかのように袖口でたぷんたぷんと余る布切れ。そして大金持ちの御曹司という設定。多少、少年から大人に近づいてきた感じはあるけど、まだこれから男くさくなっていくのかな。楽しみです。

で、ジョーと最後に結ばれる教授、見覚えあるなーと思ってエンドクレジット見てて「あっ!」と声を上げてしまいました。「グッバイ・ゴダール」「パリの恋人たち」でめんどくさい男たちを監督・主演してた彼じゃないですか。今回はすっきりとしたいい男の役。何をもって彼をキャスティングしたんだろう、と思ったけど、俳優兼監督という意味でそもそもグレタ・ガーウィグと似てるので接点はいろいろあるんだろうなー。

あと、最後のほうの場面の自信に満ちた表情を見て、シアーシャ・ローナンって傷つきやすい美少女からすっかり強くなっていて、この先メリル・ストリープ(おばさん)の位置を継ぐ女優になるのかもなぁと思いました。

 

ペアニレ・フィシャー・クリステンセン 監督「リンドグレーン」2691本目

「長くつ下のピッピ」「カッレくんのぼうけん」子どもの頃愛読したわ~。めちゃくちゃヤンチャで賢い子どもたちが大活躍する、ワクワクドキドキな物語でした。

その作者、そういえば女性だっけ。日本人の場合、まあまあ読んだ覚えがある私ですらこんな認識なので、この映画はちょっと説明不足に感じられますよね。結婚したのかどうか、子どもがいたのかどうか、幸せだったのか不幸だったのかも何も知らないので、本を書き始める前の彼女のことだけより、書き始めてからのことも後半の半分くらいで語ってほしかった、というのが本音です。

奔放だとか苦労だとかいろいろ言われてますが、性教育は大事ですね…。厳格すぎるキリスト教徒の家とかだと、「避妊の仕方を男任せにしちゃダメだ」とか、「姦通罪の実態」とか絶対教えないだろうから…。

姦通罪、日本は第二次大戦後しばらくしてからやっとなくなったくらいで、ヨーロッパでもこの頃は当然あったんでしょうね。でも男が有罪で女のほうは何も問われなかったんならラッキーとも言えるのでは。別の宗教の国なら女性のほうだけ死刑とかだと思うので。

海外版は、成功してからの彼女の物語も追加する必要があったかもなぁ。

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ユン・ガウン 監督「わたしたち」2690本目

本当は仲良くなれそうだと思った子たちが、”子どもなら誰でもやってしまうささやかな意地悪”に満ちた教室で、生き延びるために姑息で必死な争いを続ける。

誰かひとりが無謬のかわいそうな主役になったりしないところが良いです。誰も開き直ってガキ大将になったりもしない。英語のタイトルは「私たちの世界」。これが彼女たちの世界だし、ドキドキしながら見てしまうくらい、私の昔の世界でもある。「スクールカースト」っていう言葉が私は心底大嫌いだし、そんなものがあるという前提で振舞ういじめっ子たちや、長じてマウンティングに励む人たちの手にひっかかっちゃダメだと思う。

よくできた海外の教育テレビ番組みたいだ。「叩かれたら、叩き返さなきゃ!」と言われて 「僕もたたいて相手もたたいたら、いつ遊ぶの?僕は遊びたい」と答える弟くんの世界がいいな、私は。

最後の二人の間に、本当の友情の自覚が芽生え始めてる感じがとても良いですね。この時代を乗り越えて生きてきておじさん、おばさんになった人なら共感できるものがある作品だと思いました。

わたしたち(字幕版)

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マイク・フィギス監督「リービング・ラスベガス」2689本目

この監督の作品は初めて。ニコラス・ケイジがしょっぱなからアルコール依存症の借金魔で、この最低な男をこれからどうするつもりだ、という気になります。

彼が出会ったチャーミングな娼婦エリザベス・シューの元締めはジュリアン・サンズ。「眺めのいい部屋」くらいしか見てないので、堕ちたなぁという感じ。この映画のニコラス・ケイジほどではないけど…。

という感じで、二人はいい感じになっていくのですが、ラスベガスの依存症男と娼婦がただこのまま幸せになるとも思えず、不穏な気持ちで先を急ぎます(私が)。一言でいうと、「too good to be true」というかんじ。

その予感を裏切らない結末ですが、最後まで見るとなんとなく、アルコール依存症の脚本家が孤独に耐えかねて自己憐憫の脚本を書いてしまった感じかなぁと思いました。よく見たら、依存症の小説家の自伝的作品で、映画化権を売ったあと自殺してしまったとのこと。それを知った上で見直してみると、自己憐憫のユーモラスさのなかの絶望って大きかったんだろうなと思います。もう回復は無理だって自分を見切ってて、最後に素敵な女の子に愛されたいって思ったのかな。

今でこそ依存症は精神的なもので、我慢強さではないってわかるけど。2020年の眼でこの映画を見直すのは、学術的な意味があるかも…と思ってしまったのでした。 

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ヨールン・ドンネル 監督「ファブリックの女王」2688本目

マーケティング的には、タイトルに「マリメッコ」を入れたほうがいいと思うけど、NG出たのかな?まさかね。

マリメッコって確かに、他のどの生地よりセンスが鋭くて素敵なんだけど、びっくりするくらい高い。綿の布を縫っただけ、って意識があるからそう感じるのかな。ヘルシンキのブティックに行ったときも、迷いに迷って結局何も買えなかった。フィンレイソンやIttalaはたくさん買い込んだんだけどな。(←それはアウトレットに行く時間があったからだ)

だけど女性らしくて華やかで優しいイメージがあったので、これほど強くて鋭敏な女性が創始者だというのはちょっと驚愕です。ファッションの世界ってデザイナーの素顔が一般人から完全に隠されてるので、ドキュメンタリーがとても面白い。

美ってなんなんでしょうね。そのために何かを犠牲にするなんて、命や家族でもあるまいし、それほど大事なものかって気もする。だけど人は美のために狂おしくなる。神様がこの混とんとした地上を見下ろしてたら、人間って不思議だなーって思うかも。だって鳥や花や動物はそんなにがんばらなくても、みんなあんなに美しいんだもん。

 

といういろんな発見がありました。面白かった。

ファブリックの女王(字幕版)

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