映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

チェン・チェン 監督「ムーラン 戦場の花」2861本目

借りたあとでディズニーのじゃないと気付いた。またやってしまった!

予告編がやたらと血なまぐさいので、こんなディズニーはないだろうと思ったらその通りでしたぁ~。アニメ版も見てなくてストーリーを知らないので、ひとつこれで勉強させていただきます。同じテーマの作品を、アメリカが映画化する際のテイストと、中国が映画化する際のテイストの違いを見るのも面白そう。

中国で作られたこの作品も、なかなかお金がかかってるし手が込んでますよ。ムーラン役の女優さんとってもきれいだけど、ちゃんとクレジットが見られるサイトがなくて、名前がわからない…。殺陣はそれほど板についてないので、もともと武術系の人ではなさそう。

しかし、「架空OL日記」のあとにこれを見ると、男→女、女→男の不自然さが気になるようでどうでもいい気もしてきますね(笑)

舞台の北魏は今のモンゴルというより内モンゴル自治区なのかな?文化的には砂漠の勇壮な騎馬民族、かな。

この映画なかなか見ごたえがありましたが、結末が、、、(ネタには触れずにおきます)思わず大元の64行詩まで探してみてしまいましたが、それとも違うエンディング。

いろんなバリエーションがあるんだな…。

ムーラン -戦場の花-(字幕版)

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  • 発売日: 2020/12/23
  • メディア: Prime Video
 

 

住田崇監督「架空OL日記」2860本目

テレビは見てなかったけど、この設定はいったい何だ?(笑)と思って見てみることにしました。何このリアリティ。銀行員って常にお客さんに全身接してるし、やたらと厳しいところがありそうだし、今でも制服着てる銀行が多そうだから、見えないところの女子行員たちの雰囲気ってこうなんだろうな…。というよりむしろ、古き良き(悪き?)昭和のOLの幻って気もするな…。

私のような太古の昔に制服OLやってた者が「あるある」というか「あったあった」と面白がったり、非OLつまり男性会社員たちや、こういう職場で働いたことない人たちが「へぇ~」っていう小ネタを映画一本分集めたもの、なのですが、仲良し5人組があまりに均質すぎて、そこはちょっとリアリティ少ない気もする…「OL進化論」はいつも感心してたんだけど。なんでバカリズムはOLになってみたかったんだろう?多分、すごくなってみたかったからこんなのができちゃったんだろうけど。

まあ面白かったけど、「?」って感じだったなー。

映画『架空OL日記』 Blu-ray豪華版

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  • 発売日: 2020/09/02
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ブライアン・デ・パルマ監督「アンタッチャブル」2859本目

私の頭の中では、この映画(1987年)と「コットンクラブ(1985年、コッポラ監督)」と「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984年、セルジオ・レーネ監督)」がセットになってる。どれも禁酒法時代のニューヨークのギャング抗争がテーマ、というだけじゃなくて、ちょうど私がたまには映画館に映画を見に行ってた時期の作品で、当時の雰囲気に惹かれてどれも多分吉祥寺あたりで見てるから、だな。

ゴッドファーザーシリーズは、私がもっと幼かった頃なので、まさかそんな血なまぐさい映画を見に行くわけないでしょって感じだったし、この3本はどれも、もう少しロマンチックな雰囲気がありました。前2本は最近見直したので、これでコンプリート。

ケビン・コスナーは優等生かつ二枚目、ショーン・コネリーは良いおっさんになっていて、アンディ・ガルシアがまだ警察学校に通ってるというのに肝が据わってて貫禄たっぷり。二枚目といってもタイプがバラバラで、魅力あふれる面々ですね。

アル・カポネを嬉々として演じてるのはロバート・デニーロ。この人は本当に映画が好きなんだろうな‥。どんな役も、彼自身が愛してなりきっているから人間的な魅力があふれ出します。

最大の見どころは「階段落ち」ですよね。全体的にちょっと濃いめの演出が気持ちいいのですが、ブライアン・デ・パルマ特有のアクはあんまりないですね。主役がさわやかすぎるケビン・コスナーだからかな~~? 

アンタッチャブル (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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増村保造 監督「からっ風野郎」2858本目

<ネタバレあり>

増村監督が、三島由紀夫原作を映画化するのに飽き足りず、彼を主役に1本撮ってしまいました。…いや違うな。「潮騒」や「炎上」はこの前だけど、これより後に映画化された作品も多い。「黒蜥蜴」、「憂国」、「音楽」…。他の作家の文学作品も多数映画化してるけど、中でも三島由紀夫は群を抜いて多い。よっぽど惚れ込んでた、というわけじゃなくて東大の同級生だったのかぁ…。(この作品は三島由紀夫原作ではなくて菊島隆三と安藤日出男のオリジナル脚本みたいです。)

三島由紀夫の小説、最近あらためて何冊か読んでるんだけど、天才でありながら人目が気になってたまらず、実力があふれてるのに虚栄心の塊みたいな書き手の心情が面白いんですよ。ヤクザ映画の主役を張って、大勢の人に囲まれてド派手に階段落ちして死ぬというのは彼には最高の気分だったんじゃないだろうか?(エスカレーター、しかも上りだけど)小柄だけど細マッチョで顔が大きく、視線もしっかりしていて映画負けしてません。うまくはないけど、何も知らずに見たら面白い役者だと思ったかも。声が少しハスキーでちゃんと通るのも良い。しかし彼と対峙すると若尾文子のうまさが際立つな…。

この作品は1960年の制作。石原慎太郎だって1965年前後に何本か自分で映画に出演してたし、若者文化って作り手と演じ手がオーバーラップすることが多いから、不思議ではないっちゃない。

でもこの顔立ちとたたずまい、彼にはサムライ姿が似合いそうだな。時代劇にも出たのかな。四十七士とかぴったりな気がする…。 

からっ風野郎

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  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video
 

 

ウェン・ムーイエ 監督「薬の神じゃない!」2857本目

面白かったし、じわっといい映画でした。

しかし論点を整理しておく必要があるな。最後の、インドの製薬会社の製造継続が認められたというテロップで当時のニュースを思い出したんだけど、この映画は(1)知財面から見ると「ジェネリック薬品(として承認されたもの)」ではなくスイスのノバルティス社の特許が生きているグリベックという抗がん剤をインドの製薬会社が許諾なく製造した「にせもの」を中国の業者が密輸・販売した事件であり、(2)保健行政の面から見ると、国によって異なる薬剤の輸入規制や薬価の管理、健康保険の適用に関わる問題でもあります。もっというと(3)日本や多くの国々では特許権は出願から20年間認められる独占権だけど、国ごとに登録されるものだし、システムもそれぞれ若干違う。その当時のインドでは、遅れていたのか、あえてなのか、他の国々のようにはノバルティスの国際特許出願が登録に至っていなかったそうです。この事件では、国策として、先進国に特許使用料を払うより類似品を製造させて国内に流通させることのほうがプラスだ、として製造を認める判断をしたってことですね。特許には強制実施権ってのもあって(めったに認められないけど)、生命にかかわる新薬が高すぎて人がどんどん死んでるような場合や、致死性の高い感染症が世界中に蔓延してるときに、特許料とか言ってないで今は誰にでもタダで作らせろ!とその国の特許庁が指示することも可能。

当時、特許権が生きてる薬を勝手に作ったインドの会社が裁判で勝ったって聞いてすごくびっくりして、これじゃ偽ディズニーランドが平気で営業してる国と同じじゃないかーって思ったものでした。製薬会社の肩を持つわけじゃないけど、巨大企業がバンバン合併しないと生き残れないくらい、製薬業はバクチ並みに当たり外れが大きく、当たった薬品でなるべく利益を貯めておこうと思うのは企業としては当然。

日本は国民皆保険のある幸せな国なんだけど、だからこそ健康保険が赤字にならないよう、いくら製薬会社がお金と労力をかけて世に出しても、保険適用になった薬の価格は、毎年厚労省が見直して下手すると数十%も引き下げられるシステムになっています。それがあるから私たち誰でも、高価な新薬の恩恵に割合あずかれるわけ。

インドのグリベックの製造の裁判では、「国境なき医師団」がインドの会社を強力にサポートしたっていうニュースもありました。どんどんやれやれ、と思う一方、すごい新薬を開発できるのって、ゆったりとした環境で研究開発にお金をかけられる会社が存在するからでもあります。その辺のジレンマがあるから、ビルゲイツみたいな大金持ちが私財をなげうってマラリアやエイズやコロナの研究開発をやらせてるわけだ。製薬会社がドタバタ倒産するのも、世界中のお金のない病人たちがバタバタ死んでいくことも、両方避けたいから。どっちも守らないと共倒れになるから。

「政府は無駄遣いしてて国会議員は贅沢してて、ズルをしてる人だけが儲かってるから、可哀そうな人のためにもっとお金を使ってあげて!」みたいなことばっかり言ってる人が世の中にはいっぱいいるけど、無尽蔵に税収のある国なんてないし(いやドバイならあるかも?)、無駄遣いを正せば可哀そうな病人を全員手厚く治してあげられるほどのお金がどっかから湧いてくるわけじゃない。

だから…というわけじゃないけど、私は、誤解をおそれずにいうと、Twitterで政府や製薬会社の悪口を言ってる人たちより、薬を密輸したり盗んだりして今そこにいる人の命を助ける人のほうが好きです。政府の批判なんかせずに、ヒーローになろうともしないで、違法のリスクを冒して必要な人に必要なものを届け続けようとした、この映画の犯罪者たちを、私は強力に支持するなぁ。

薬の神じゃない! [DVD]

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ガイ・ハミルトン 監督「地中海殺人事件」2856本目

思い出した。クリスティ作品の一番重要なポイントは「動機」だ。この映画は伏線や、伏線に見せかけた「ひっかけ」をたくさん用意してあってなかなか面白いんだけど、最後の最後の解決編で「あ、そういえば冒頭にも事件があったな」と思い出しました。あまりにも第二の被害者と違うタイプの女性だけど、両方とも動機は同じ。犯人は「太陽の下の悪魔」で目当ては金だった…。

マギー・スミスは今よりずっと若いけど、「ちょっと気取った、知恵の回るマダム」キャラはすでに確立されてますね。ジェーン・バーキンが、ビーチや高級ホテルがあまり似合わない不思議で美しいマダムというのも、いい感じでした。 

地中海殺人事件 (字幕版)

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ドメ・カルコスキ 監督「トム・オブ・フィンランド」2855本目

2016年末にフィンランドに行ったとき、スーパーでムキムキな男性の絵がついた「トム・オブ・フィンランド」のコーヒー豆を売ってて、何だろうと思いつつお土産に買って、帰ってからググったら、実在したゲイ・アートのイラストレーターでした。映画はその直後に本国公開されたんですね。映画のことは、2019年に日本で公開されることになって初めて知りました。

彼のマッチョなゲイのイラストがアメリカでメジャーになっていった頃って、クイーンのフレディ・マーキュリーが繊細で中性的なスタイルからマッチョへ変わっていった時期にもつながるのかな。

映画自体は、題材が題材だけにエンタメ性を期待して見始めると、暗めで静かで…「リンドグレーン」とかもそうだったけど、北欧ってところはどうも盛り上げるのが苦手だな。筋も追いにくいのは、フィンランド内ではだいたい誰でも彼の生涯をもう知ってるからかな。ハリウッドで映画化したら、レザーを着込んだマッチョな映画になっただろうから、トウコの地味な日常を感じさせるフィンランドでの映画化で良かった気がする、この映画に関しては。

主人公のトムことトウコを演じた役者さんは、映画の公式サイトに載っている本人の写真に似てるけど、本人はファッションデザイナーかな?と思わせる美的センスと自信をうかがわせる一方、役者さんは線が細い。”いかにも”なゲイばかりじゃない、と共感する上では成功してるかもしれないけど。彼自身はボディビルをやってマッチョになろうとは思わなかったのかな(三島由紀夫みたいに)。

「ミルク」を見た時も、日本から見れば開けた国なのに抑圧がなんて強いのかと驚きました。この映画も、北欧ってなんとなく性にオープンなのかなと思ってた(偏見です、すみません)ので、意外。

フィンランド人がみんな、トムをアメリカ人だと思ってたのも意外。確かにキャラクターは、私たちがみんなアメリカンだと思うような雰囲気があるけど。フィンランドって言ってるのに(笑)

レイザーラモンHGは奥さんがいる(怪しげな化粧品を売りさばいてる)のであれは売用のキャラクターだけど、あと何年かしたら、ゲイじゃないのにゲイを売り物にするのは間違ってるって糾弾されるようになるのかなー。渋谷区は同性パートナーシップを高らかにうたって実にすがすがしいんだけど、その一方で、むかし男友達の家のトイレに並んだ「バディ」を見たときの地下室のいやらしさみたいな強烈な魔力は、もう太陽の下でなくなっていくのかと思うと、ちょっとなんともいえない気もします。

トム・オブ・フィンランド [DVD]

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  • 発売日: 2021/01/06
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