映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョルジュ・パン・コスマトス 監督「カサンドラ・クロス」2868本目

<ネタバレなどいろいろあり>

この映画は「地獄の黙示録」や最初の「スターウォーズ」とともに、小さい頃映画館に見に行った映画として私の映画史のなかでサンゼンと輝いてるので、いつか見直したいなーと思ってました。

今見ると、ヨーロッパ名優大集合ですね。当時知ってたのはソフィア・ローレンだけだったんだけど、バート・ランカスターにリチャード・ハリス(ルドガー・ハウアーかと思ったw)に、まさかのイングリッド・チューリンにまさかのアリダ・ヴァリ(まったく目立たない)、エヴァ・ガードナーの若いツバメがマーティン・シーン、そしてO.J.シンプソン。「アクターズ・スタジオ」創設者のリー・ストラスバーグがすごくいい味あります。ジュネーブからスウェーデンまでのヨーロッパ横断特急が舞台で、出演者もこれほどさまざまな国の俳優が出てるなんて、すごいです。

スイスからスカンジナビア半島は途中にバルト海があるけど、橋でつながれてるみたいだ。途中で行先を変えてポーランドへ向かう…なんて、陸続きのヨーロッパでないとできない設定で面白いです。大人になってからまさか自分がこんな列車に乗ることがあるなんて、当時は想像もしなかった…。監督は6か国語が話せたとWikipediaにありました。映画の言語は英語だけど、それだけ話せたらヨーロッパじゅうの俳優をフィーチャーした横断映画も作れるわな~。(脚本は「マンク」の甥っ子らしい)

カサンドラという名前はポーランドにある設定なんだな。そして向かう先にはかつて強制収容所があったヤノフ(クラクフ?)という町がある。こういう設定は公開当時の私にはさっぱりわからなかったし、この映画が感染症をモチーフにしていることも忘れてた。しかも研究所で培養されていた致死率の高い細菌。ウィルスじゃなくて最近なのでコロナとは違うけど、

マーティン・シーン vs ダンブルドア先生、マーティン若いけど迫力で全然かないません。この場面二人ともいなぁ。その後のマーティン渾身の列車切り離し作戦も熱い。これを見たコッポラが「地獄の黙示録」にキャスティングしたのかな?

この頃の映画って力いっぱい、いい役者を集めてアクションありロマンスあり、映画を見慣れてきた観客たちを楽しませるため力いっぱいですね。いい時代…。

そして結末。もうちょっと一般乗客を助けられないもんか…当時の感覚は、主役が助かることが重要で、「それ以外の一般市民」まで全員助けるという感じではなかったのかな。

当時の私はゴジラ映画でも怖くて眠れなくなるようなチビだったので、列車がどうなるのか怖くてたまらなかったような、うっすらとした記憶があります。3つ後の魂は100まで。私がこの映画を面白いと思うのは、まだ好き嫌いが固まってないうちに刷り込まれたからかもしれません。

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ビレ・アウグスト 監督「ペレ」2867本目

<ネタバレあり>

ビレ・アウグスト監督の映画は「リスボンに誘われて」がすごく良かったんだけど、その25年前に作られていたのがこの映画。これも好きだな。外国の農園の生活って地に足がついてる気がしてずっと見ていたい、というのもあるけど、ペレの諦めない瞳がいい。ろくでもない毎日から駆け出す彼の小さくなっていく姿を見ていると自分も連れて行かれるような気になります。サーカスに入るといって村を出て、本当にサーカスと一緒に帰ってきた子もいたしね。

なんか、「サイダーハウス・ルール」思い出しますね。昔の村には、どこにもこんな小さな独裁者がいて、小規模だけど誰かの心を砕くトラブルがあって、誰かが死んだんだろうな。

アウグスト監督は「ロマンに誘われて旅に出る」ほうの人(を描こうとする監督)なんだな。気が合います(?)。

ペレはアメリカに渡って、賢さと意志の強さでひとかどの大人になって、父を呼び寄せて日曜の朝にはベッドにコーヒーを運んであげた、んじゃないかな。そう思いたいな。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「渦 官能の悪夢」2866本目

<ネタバレ?あります>

すごく変わった映画だ。もしこれが初めて見るヴィルヌーヴ監督作品だったら、「私はこの監督の今後に期待する」とか感想を書いたんじゃないかな。

デヴィッド・クローネンバーグの映画に出てきそうな、”汚い”しゃべる魚は、何度も、何度も、何度も叩き切られる。「殺す者は殺される」。妊娠中絶を、あるいはこの若い女性の中で終わりかけているなにかを表してるんだろうか。と思ったら、自分をぶった斬った魚屋が、彼女の車にはねられる。

「殺す者は殺される」けど、彼女は生き延びる。人の運命は不思議だ。でも映画の終わりは彼女の人生の終わりじゃない。彼女がこのあと魚より魚屋より悲惨な運命をたどるのか、たどらないのかもわからない。魚も言ってるように、人生の不思議は語り切れないまま映画は終わってしまう。…この監督の作品はこのあともずっと、さまざまな不可思議を、勧善懲悪でもなく教訓めいたことも言わず、描き続けてるのかもしれません。 

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ジョエル&イーサン・コーエン監督「ヘイル、シーザー!」2865本目

<ネタバレあり>

なんでコーエン兄弟の監督作品なのに見てなかったんだろう。やたらと評価点が低いけど、見てみたら確かにわかりにくい映画だ。山のようにいろんな事件の端緒が演じられるけど、結末は他の人が語るだけで、その頃には当事者たちはどっか行っちゃってて、「ちゃんちゃん!」とまとまった感がない。チャールトン・ヘストンのようなジョージ・クルーニーがヘイル・シーザーという名のベン・ハーの撮影スタジオから誘拐される、というのが一番大事件だけど、ほかの事件に比べて大きく感じられない。いや、ジーン・ケリーのようなチャニング・テイタムが潜水艦でソ連に亡命するほうが大事件?(その2つのエピソードはつながってるけど)。

フランシス・マクド―マンド、やっぱり好き。ハリウッドにはいろんなスキャンダルや事件があとを絶たないんだろうけど、たいがいの映画は面白い。

そして思う。10年ほど前に映画を集中して見始めた頃、コーエン兄弟やポランスキーやキューブリック、ミヒャエル・ハネケや今村昌平…「この人は!」と思った監督の作品を片っ端から見まくっていた時期が一番幸せだったな~。あらゆる名作を初めて見るという感動の毎日だったわ。最近さすがにたくさん見すぎてるからか、新鮮な驚きがなかなかないな…。 

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クロード・シャブロル 監督「甘い罠」2864本目

ユペールせんぱいの、またひとつの怖い映画。でもあんまり怖くはなかったな。いつものように「悪い」けど。この映画は出生のミステリーというより、気に入らないものを抹殺し続ける強い悪女のドラマでした。

「私は悪に長けてるの」と、表面は善をよそおってる自分の告白など気取って見せるのですが、彼女の策略を見抜ける人は彼女なみには悪に長けてる(知恵が廻る、才能がある)わけで、問題は「ためらわずに悪を成してしまう、良心の欠落」だけです。なんか、極悪人が「私の心の闇なんて誰にも理解できないのよ」とか言うのって、他の人は自分よりばかだと見下してる感じで、かえって愚かであさましいかんじがする…。

そんなリアリティを感じさせる、安定の悪女っぷりでした。

「鬼の目にも涙」っすね…ユペールせんぱい…。

城定秀夫 監督「アルプススタンドのはしの方」2863本目

ゆるーい感じで本音トークが続くような、まったりと見られる映画かなと思って借りたんだけど、なんか文化祭で意識高い演劇部の奴らがやってる自作脚本の劇を見てるような見づらさが湧きあがってきたぞ…。昔の作品だけど「桜の園」はそういう演劇部っぽさを中心に据えた作品。あれは、少女たちがその年齢の力を注ぎぎって演じてるのがすごく清々しかったけど、この映画はなんともいえず痛い。何がそんな違うんだろう。

あと「桐島、部活やめたってよ」で描かれた”スクールカースト”だとか空気だとかも、この映画を満たしている。あの映画も苦手だったなぁ。

多分自主制作っぽく低予算でがんばって作った映画なんだろうな。セリフのある出演者のほかは、野球場の使用料と、エキストラのブラスバンドの子たちだけだし。

ダラッダラ汗かいて、やたらと真っ黒に日焼けするのが甲子園、なんとなく呑まれるような熱気、野球興味なくてもなんとなく母校を応援しちゃうのが甲子園。うるささや汗臭さの設定が弱いから、彼らが巻き込まれるまでに時間がかかっちゃうのかな。

実際のところ、子どもはみんなスターとかテストで一番になることのような、わかりやすい栄光から理解するわけで、バイプレーヤーの渋さとか、中年になってからわかればいいことだ。ハンバーグとかカレーのおいしさを知ってから30年後にあたりめとかカラスミの旨味がわかればいい。高校生の頃って、がんばるのってイケてないし、熱血な大人はウザいって感じるのが普通で、大人に共感できるようになる奴は相当ませてるのだ。この映画は、NHKの「中学生日記」ならわりといいドラマだと思えるのかもしれない。つまり、この作品から中高年が何か普遍的な人間性を学ぼうとか思ってはいけないのだ!

2020年のキネマ旬報ベストテンに入った邦画を見るのは、なんとこれが初めて。去年のうちに1本たりとも見てないなんて、映画好きとは名乗れませんね~。

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ダニエル・シャイナート 監督「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」2862本目

この監督はコーエン兄弟が好きだな?この映画は「ファーゴ」のパロディみたいなもんだな?で、死んだ男の名前は、私には言えませんがそういう意味だったんだな?馬の?

つまりこの映画は大声で笑うことを意図して作られたものですね。おそらく、最高にみっともない死に方って何だろう?という想像から始まったのかな。その発想、嫌いじゃないです。

でもどうしてファーゴほど強烈に響くほど可笑しくないんだろう?多分細部なんだろうな。財布にこだわる子どもはなかなか可笑しいけど、インド系のしつこい女の子はちっとも可笑しくないし、女性警官二人のうち年配のアル中警官はなんで途中から黒い眼鏡で杖をつくようになったんだっけ?

ファーゴの「面白い顔の男にナンパされたの」って話すゆるーい女の子たちが、何でもかんでも「イェーイ」で答えるのとか、女性警官が妊婦だったりするのも、いちいち可笑しかったんだよな。笑いは細部に宿るのである。多分。

死因は…やっぱり…名が事件を表してるんじゃないですかね…。でもジークも妻と結婚する前から”付き合ってた”のに、今までずっと無事だったってのは何なんでしょうねー。

バンドの練習を何年もやってるにしては、あまりにド下手なのを聞いて、怪しいって気づいてもよかったな。 

ディック・ロングはなぜ死んだのか?(字幕版)

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