映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウェス・アンダーソン監督「ライフ・アクアティック」2962本目

なんで音楽がデヴィッド・ボウイなんだ?「ジギー・スターダスト」とか、およそ海の生活との縁が何一つなさそうなんだけど…。音楽担当はこれもDEVOのマーク・マザーズボウだ。(「レベル・レベル」のボサノバ風、なんかとても良い)最後のクレジットの長い楽曲リストを見ると、ボウイ以外にもDEVOとかいろんなアーティストの楽曲が使われてますね。

オーウェン・ウィルソンは「ミッドナイト・イン・パリ」の印象が一番強いし、ウディ・アレンの映画に複数出ているといっても、ウェス・アンダーソンの映画の方がだいぶ出てるようだ。

ウェス・アンダーソン監督の映画はどれも、木でできた人形たちが演じてるような無表情っぽさが前面にあるんだけど、その実、すごくエモーショナルで温かいものが根底にある。すごく語弊があると思うけど、自閉症の子の心の中を知ってその感受性の豊かさに驚いたとき、みたいな気持ち。すごく独特で少しとっつきにくいんだけど、それが「気取り」ではなくて本人の独特な感性なんだと気付いてからは、なんか味方したくなるし、これからも彼の映画を見続けようと思う。宇宙人めいたデヴィッド・ボウイもDEVOのマークも似た感じがある気がする。DEVOを聞いてた中学生の頃の自分も。(成長して世間ずれしたと思ってるけど、今の自分もそうかもしれない)

それにしても、常時トップレスの若い女性隊員についてのツッコミがないままだったと思うんだけど、あれは一体?

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ジャスティン・リン 監督「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」2961本目

友達から、東京走りまくってて面白いよと聞いて、見てみることにした。

みんなエネルギーあるなぁ…頭悪そうなオープニングだけど、この有り余る血気がうらやましい。MadMaxを思い出してオーストラリア映画化と思った、とか言うとオーストラリアに失礼かしら。ごめん。

シリーズ内で同じ人がずっと主役ってわけじゃないんだな。アメリカの「もうこの町には住めない」って、いきなり東京かい!どうもこの作品がシリーズ内で一番人が入らなかったらしい。そしてハリウッドは人口の多い中国語圏へ舵を切るのだ。

焼きそばを口から垂らした老婆、詰襟の学生服、日本語しか喋らない柴田理恵。やたら手が込んだバイキング形式 のカフェテリア。私珍妙なものって何でも好きだけど、珍妙な日本文化が出てくる映画は特に好きです。意味もなく登場する「異常なイケメン男」妻夫木君もよい。

携帯が古い、北川景子も若い。日本に存在しないかんじのパーティギャルズとかも、もう明るくて元気だからいいと思います。サニー千葉も健在!

とにかく走って煽り合って競争する。コロナ禍のステイホームな連休には、ぴったりの作品なんじゃないかと思いました。

ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT (字幕版)

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ジェームズ・アイヴォリー監督「モーリス」2960本目

今日のE.M.フォースター特集、最後の作品。原作は、作者の死後に出版された禁断の小説です。

といっても愛に目覚めた相手と共に生きようとするのか、それとも世間的に自分にふさわしい相手を受け入れるか?という命題は共通してるようにも思えます。相手の奔放さに恋をして、自分の中の隠れていた部分が現れてしまったときに、一生それを隠していくのかどうか。この作品では二人の結末が分かれます。

改めて思うのは、英文学とか純文学とかいうと何か高尚なもののようだけど、結局のところ惚れたはれた、なんだな。それが人間だから普遍性が生じる。マンガやアニメと同じで、いいものも悪いものもある。世界中の難しそうな小説をもっと読んでみようかなと思えるのは、文字よりわかりやすい映像の力もあるんだろうな。

演じた人たちについていうと、「ハワーズ・エンド」ではウィルコックス家の資本主義者の「兄」をやってたジェームズ・ウィルビーはヒュー・グラントに思いを拒まれて、「眺めのいい部屋」でヒロインの弟だったフレディ青年の愛を受け入れると。(入り組んでいる)

マーチャント氏がもう映画を作れないのは残念だけど、ジェームズ・アイヴォリー翁が今も「君の名前で僕を呼んで」のような素晴らしく美麗な映画を作り続けていることが嬉しくなります。さらに次の作品も見られたらいいな…。

 

ジェームズ・アイヴォリー監督「眺めのいい部屋」2959本目

流れでこれも再見。

これを見たころはまだ旅行らしい旅行をしたこともなかったので、ホテルの部屋の眺望が悪いと文句を言うなんて、ワガママというより贅沢だなぁと思ったものでした。

可憐なルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)に同行しているシャーロット叔母はマギー・スミス、ディナーのテーブルには作家ジュディ・デンチもいる(若い!)。ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)の父親はデンホルム・エリオット。フィレンツェのホテルに集うイギリス人たち、これはツアーなのか、それともイギリス系のホテル?

街中の激しいケンカに遭遇して卒倒するルーシー。良家の娘が卒倒するという場面が、20世紀以降の小説にはもう出てこない(と思う)けど、19世紀に書かれたこの小説では卒倒する彼女が弱弱しく上品な淑女として好意的に(騎士道的に)描かれているのではなくて、自立したい女性の失態とされる(少なくとも本人は思っている)。「インドへの道」でアデラがセクシュアルなエローラ遺跡で動転するのも、その後の失敗につながる。彼女たちは「か弱い貴婦人」から「たくましい現代女性」への移行途上にいて、時代を先取りし損ねてひどく傷つくことになる。(…作品横断的にヒロインの造形について語りたくなったりするあたり、英文学科で卒論を書いたやつって感じでイヤですね!スミマセン)

ダニエル・デイ・ルイスはお堅いお堅い男の役が、またうまい。婚約後にルーシーからキスされて真っ赤になるとか…感情を完全にコントロールできるのか。悲しくて泣く演技はみんなやってるから、赤くなるのも不思議じゃないけど。

マーチャント/アイヴォリーがE.M.フォースターを何本も映画化した一方、トマス・ハーディ(4年ゼミで専攻したので対照のために引き合いに出してみる)を扱わなかったのは、フォースターがゲイだった(マーチャント&アイヴォリーはパートナーだったらしい)けどハーディはストレートだったっぽいこと、フォースターは作品がロマンチックな一方ハーディは絶望的なのも多いこと、とかかなと考えたりする。 「テス」を映画化するのはヨーロッパの負の側面を見てきたポランスキーなんだよなぁ。

それにつけても、英国美術の粋を集めたゴシップ小説のような、よくできた作品でした。

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ジェームズ・アイヴォリー監督「ハワーズ・エンド」2958本目

これなぁ、大学のゼミでやったやつ。公開当時にロンドンで見て、けっこうイメージ通りだった気がするけど、あまりに遠い昔なので久しぶりに見直してみます。(押入れの奥で発見した当時の駐在レポートによると92年5月21日にロンドンのCurzon Cinemaというところで見てました!)ああ、懐かしい。そうそう、エマ・トンプソンとヘレナ・ボナム・カーター。カーター演じる妹はまだ少女みたいで可愛いんだけど、夢みがちで誘惑に弱すぎる。一方トンプソン演じる姉は真面目なしっかり者。

「紅茶は何種類もあるんですのよ。スコーンはいかが?」なんて絵に描いた英国ふうの会話、むしろ外国で作った映画なんじゃないかと思ったら、制作国はUK&日本とある。(住友商事がどういう経緯で出資したんだろう?)

家に名前を付けることや、階級がこんなにはっきりしていることは大学生の私には新鮮だった。

過去にひともんちゃくあった一家がお向かいに引っ越してきたときに、「逃げ出したいときに逃げ出せるだけのお金があることって大事」…って会話は原文で印象に残ってて、自分もそうありたいとずっと思ってきた。レナード・バストの年上の愛人ジャッキー"You love Jacky, don't you?" の存在(改めて見ると、髪型も雰囲気も最初からヘレンに似てる)、粉をお湯で溶かしただけのゼリー…ヘレンがレナード・バストに同情してしまってヤバいことになってしまう場面でいつの間にか彼を「レン」って呼んでたこととか…これは映画のほうだな。

裕福で誇り高い階級のひとたちの心の中に "panic and emptiness"しかない、って言うのは原書にあった。ハワーズ・エンドにシュレーゲル家の家具やじゅうたんがぴったりフィットすることとか…大学生のときの驚きや違和感は、外国だからとか階級があるからとかじゃなくて、まだ世間知らずだったからで、今みるといろんなことが普遍的に見える。金持ちのひとことで破産してしまったレナード・バスト夫妻への仕打ちを恨んで姉の結婚式で暴れる妹は、ネットで巨悪を糾弾する人に通じるものもある。正義といえば正義だけど、たくさんの人を傷つけて、結局誰も助けてない…。

真面目なメガネ女子(とは限らないが)が熱中する英国文学はこんな、スキャンダラスな小説なのでした。原作者E.M.フォースターは「モーリス」の作者でもあり、ゲイだったことが知られてるんだけど、この小説は結局、銀行家の生き方が破滅につながり、家を愛し家庭に生きるその妻の世界が家族を包み込むというストーリーなんだ。ゲイの男性が書くものは、強権的な男性をきびしく糾弾して女性にやさしいものが結構多い気がする。(ペドロ・アルモドバルの映画もそうだ)もしかして彼らは、自分たちを女性のほうに投影してるのかな。…なんておことを今なら思ったりする。

映画も本も、若い頃からいろんなものに触れていると、年をとってからまた触れ直すことで、自分の成長も見直せるな。あの頃もっと映画を見て本も読んでおけばよかった…。

結論として…アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンは、「日の名残り」ではアレだったけど、前世ではちゃんと結ばれていたんだな(違う)

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ジェームズ・ホエール 監督「透明人間」2957本目

1933年の作品。最新版を見たけどどうも怖くなかったので、一番古いやつを見てみます。

これは、面白い。透明人間はほんとうに見えません。包帯を取っていくと何もない…というときのワクワク感!脱色作用のある植物を使うなら、最後にはアルビノになるだけという気もするけど、この手の透明人間は小さいころから知ってるのですっと入っていけます、というか期待通り。(←勝手なもんだ)

普通に食べたものが消化されるうちに透明になるのか、血液は、筋肉は、骨は、全部透明なのか、とか考えずに見ればOK。最後の最後にやっと本人の顔が見られてなんか納得してしまいました(←非科学的!)

まことに身勝手なことこのうえない鑑賞者ですが、この作品は好きです。まったく怖くはなかったけど。ここまで期待通りということは、きっと昔見たことがあるのかもしれない。。。 

透明人間(字幕版)

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中川信夫監督「地獄」2956本目

アマプラで見かけて、あまりにド真ん中のシンプルなタイトルが気になってました。冒頭の見慣れない「新東宝」のロゴも、おどろおどろしい。

音楽というか音響効果は、ウルトラマンとか昔の怪獣映画みたいな、出はじめの電子音とかが使われてる。場面ごとのつなぎが、「卒業制作」みたいにこなれてない。

とか最初は細かいツッコミを心の中で入れながら見てたけど、これはシンガポールの教育的テーマパーク「ハウパーヴィラ」か、あるいは丹波哲郎の映画の前身か、というものすごい成り行きになっていって、子どもの頃に見たら眠れなくなって一生のトラウマになっただろうな、という気持ちでいっぱいです。これは、恐怖映画の一種?トンデモ映画というやつ?悪魔のような友達は「カリガリ博士」のメイクを真似たのか?

ほかのみなさんの感想を見ると、やたら点数が高い人もいれば、大好きといいながら低い点をつけてる人もいて、みなさん珍妙さを存分に楽しんでおられるようだ…

新藤兼人作品のようなものを予想していたのでショックが大きかったけど、いつかまた見たくなるかもしれない。

(いろんな地獄が出てくるけど、別府には全部あるな)

地獄

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