映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督「アリス」2998本目

ヤン・シュヴァンクマイエルの作品は2本見ていて、「独特の美学に目を奪われるけど好きってわけじゃない」などと感想を書いてました。この作品はわりととっつきやすくて、可愛らしさや子どもらしさが感じられる方だと思います。

造形作家の個展を見てるようで、「ウサギをこうしたのか」「なんで小さくなるドリンクは青いインクなんだろう」「小さくなったアリスは出来合いのお人形なのか」など、意外性を楽しんでいるうちに終わってしまいます。

原作がそもそも若干悪趣味で、シュヴァンクマイエルはそれをさらに悪意アップしてるわけじゃないので、安心して見られます。

個人的には、アリスちゃんの着てるピンクのワンピースが可愛くてたまりませんでした!!

アリス

アリス

  • クリスティーナ・コホウトヴァー
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石井輝男監督「ねじ式」2997本目

「ゾッキ」を見たら、なんとなくこの映画を思い出したので見てみました。(なんで思い出したんだろう?私が思い出したのはもしかして「無能の人」の方かも。これもそのうち見直してみよう)

見始めてみたら、最初におどろおどろしい「舞踏」の人たちが出てきて、イメージと違った。ひたすら、昼間からダラダラしている男の物語だと思ってたけど、可愛い女たちに対するエロい妄想が爆発したような映画だった。

浅野忠信がまだヒョロっとしてて若い。藤谷美紀は、売れない漫画家とつきあったりしなさそうな、いいおうちのお嬢さん風。その後たくさん現れる女性たちは、みんな童顔で目がキラキラしてて可愛らしい。それが、この世界は狂気ではなく若い男の妄想だと示してるような。

最初から最後までセピアというか、赤黒の二色刷りみたいな画面も不思議。浅野忠信が、全然似合わないかと思ったらそうでもない。静かに壊れている、リアルなアールブリュットみたいな不思議な美しさもある。(「第七の封印」と植田正治の写真を組み合わせたような砂丘の楽隊の場面があったけど、完全に借り物ってのはあんまりよくないんじゃないかな)

ラミン・バーラニ監督「華氏451」2996本目(KINENOTE未掲載)

奇しくも来月のNHK「100分de名著」でこの作品を取り上げるということで、さっそく見てみました。1966年のイギリス映画「華氏451」がすごく好きなので、どうリメイクされたか興味津々。

”悪書”を焼き払うというストーリーだけど、未来が舞台。現代より後の時代に設定すると、紙が全部焼き払われてもテキストデータが簡単にコピーできるので成立しないと思ってたんだけど、どうやって説得力を持たせるのか?…どうやら、人間はすべて、前提として洗脳されてるみたいだ。1966年版はそこまで人間を管理しきれてなくて、紙の本の物理的存在が中心となってたっていう違いがある。

だから、「私はxx」と書物のタイトルを名乗る、その書物を全編暗記した人たちは出てこない。あれが好きだったんだけどねーー。

読むべき書物は聖書と「白鯨」と「灯台へ」。白鯨はともかくヴァージニア・ウルフはそんなに教科書的な作品なのか?(読んだことないけど、女性の権利運動で有名なヴァージニア・ウルフだし)「怒りの葡萄」やカフカは悪書らしい。1966年版でもそうだっけ?

犯行グループの人たちは「ウナギ」と呼ばれてる。これも日本人にしてみれば違和感あるな…。

見覚えのある女の子だと思ったら、「クライマックス」で踊ってたソフィア・ブテラだ。こわもてのマイケル・シャノンも「ナイヴス・アウト」や「シェイプ・オブ・ウォーター」他ちょくちょく見る顔。マイケル・B・ジョーダンはあまり私は見てないな。それより、さっきまた見た「バニーレーク」のキア・デュリア兄さんが見たい。と思ったら、「昔はジャーナリストが自分で取材をして何か月もかけて記事を書いていた。今は自動化されたテキストの見出しだけだ」と訴える、元ジャーナリストらしき老人の役だった。気骨があるいい役。

思想警察を描いた作品だけど、文学的なにおいがしなくて、未来SFの雰囲気なのがやっぱり違和感があったかな~。

華氏451(2018)(字幕版)

華氏451(2018)(字幕版)

  • 発売日: 2018/10/16
  • メディア: Prime Video
 

 

オットー・プレミンジャー監督「バニーレークは行方不明」2995本目

<ネタバレあります>

「My Best Movie」に何度も選んだことのある、大好きな作品。BSプレミアムシネマにかかったので、久々に見てみることにしました。

最高にスタイリッシュなオープニング。結末を知っているからこそ、俳優たちの一挙手一投足を見逃さないよう、食い入るように見る。冒頭のどアタマでお兄ちゃんが”どこかから”戻ってきたとき、まだ揺れているブランコの下にある小さいぬいぐるみを、いまいましそうな表情で拾い上げる。それを彼は自分の鞄の中に片付けて引っ越し業者の人たちと一言二言交わして出ていく。

キア・デュリアが「2001年宇宙の旅」で異次元に迷い込む宇宙飛行士だと気付いたのは、あの映画を何度か見た後だったけど、印象的な青い瞳がこの白黒作品ではわかりにくいですね。でもなんともいえず怪しい雰囲気が素敵です。今ならキリアン・マーフィーに演じてほしいかも。(でも無名の俳優が演じたほうが得体が知れなくて面白いかも)

その一方でローレンス・オリビエの信頼感、安定感って欠かせないですね。この映画の中で唯一、信じられる存在。

終盤、お兄ちゃんの様子がおかしくなって妹がしっかりしだすのが、あまりにも突然で、紙の裏表をひっくり返したように対極的なのが、つじつまを愛する鑑賞者として見ていると白けてしまうかもしれません。もしかしたらこの映画は、今なら「スマホを落とした…」みたいな、大規模なオーディエンスを驚かせ、喜ばせる目的で作られた作品なのかもしれません。今見るから最新の作品とのテイストのギャップが醸し出す「味」が熟成されて魅力を感じるのかな。

あまり魅力を感じない人の気持ちもわかるけど、やっぱり私の目には今でも、ものすごく引き込まれる素敵な映画なのです。

バニー・レイクは行方不明 (字幕版)

バニー・レイクは行方不明 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

竹中直人・山田孝之・斎藤工監督「ゾッキ」2994本目

こういうのを「エモい」って言うんですかね?「音楽」にドハマリしたので、同じ大橋裕之が原作のこの映画にも期待して見に来ました。(監督でも役者陣でもなく。このルートを辿ってくるのは多分王道ではなさそう)結果、じわじわ好きです。

ダメとまでは言い切れないけど、凡俗で普通で、ちょっとズルくて自分に甘めで、たまにブチ切れたり逃げたりするい人たちの暮らす町で、ちょっとドキっとするようなことが起こったり、長年モヤモヤを隠したまま生きてたりする。私は凡俗なので肌が合う感じがして、この町に私もしれっと住んで、昼間から缶ビール飲んだり、働いたりサボったりして暮らしたい。

この映画を作った人も好んで見る人も、人間のしょうもなさが好きで、映画の中でそういう人間たちを描くことに喜びを感じる人たちだと思うので、監督が3人いても、メジャーな俳優がたくさん出てても、私から見ると、誰も「悪目立ち」してなくて自然に見えました。

こういう日常的でじわじわくる映画って、割と映画評論家の人たちが好きじゃないですか?「火口のふたり」とか。この映画も、まさかの高評価(失礼)だったりするのかなぁ。

アップリンク吉祥寺(渋谷は5/21で閉館)では毎日上映後にトークショーをやっていて、今夜のゲストは漁師を演じた勝矢と笠原秀幸。あの漁師たちのハッピーバースデー、良かったなぁ。荒くれだけど人がよくて。さりげなーくピエール瀧が復活していたのも個人的には嬉しかった。撮影で滞在した蒲郡のことや山田孝之監督(「服を着た全裸監督(笑)」)のエピソードとか面白かったです。

「ミニシアターエイド」に寄付してもらった「未来チケット」で見たのですが、サポートしたアップリンク渋谷は閉館。その後立ちいかなくなった映画館がほかにもあるかな。たまには遠くの町のミニシアターにも出かけてみたいな(緊急事態宣言が終わったら、、、)

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「第三世代」2993本目

この作品は大人の男女が多数でてきてまともな会話を交わしたりするので、一見すると群像劇とか人間ドラマみたいな普通のジャンルの作品に見える。でも、誰かが会話してる裏で他にも聞き取れるほどの会話が常時流れ続けていたり、なんだかわからない効果音が鳴っていたりと、やっぱり変。ドラッグ漬けでドラッグ以外何もしていない女性を見てたら、ギャスパー・ノエ監督の「クライマックス」のベルリンから来たドラッグ漬けのプシケを思い出してしまった。昔も今もベルリンは悪徳の都なんだろうか。

一見筋が通っているようで、なんとなく追っかけてもどうせわからない気がするけど、さらさら流して見てみる分には、ファッションや部屋や家具のドイツっぽい機能美に浸ってみたり、監督の妄想の世界に遊んだりするのは楽しい。

それにしてもファスビンダー監督の頭の中ってどうなってたんだろう。どう普通じゃなかったのか。いくら見てもさっぱりわからないのが、魅力なんだけどね…。

 

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 監督「13回の新月のある年に」2992本目

1978年の作品。ファスビンダー監督って、今ほんと見るのが難しいのでつい最近まで見たことがなかったけど、最近図書館めぐったりしてがんばって見てました。が、これはどこにもなかった。ソフト化されてないこういう映画を追加してくれるからU-NEXT…(涙)

ファスビンダーの私のイメージは「死に死にした映画を作る人」。この作品も、私にはちっともわからない理由で牛の首を次々と切る映像をえんえんと流したり、ぼそぼそとつぶやくような独白がえんえんと続いたり…すでに鬱状態にある映画、という雰囲気で、つられて自分の中に闇が広がっていきそうです。

後半少しだけ出てくる彼の娘(U-NEXTでは主役のフォルカー・シュペングラーと並んでサムネイル画像に映ってる女性)を演じたエーファ・マッテス、見たことあると思ったら、「キンスキー 我が最愛の敵」でクラウス・キンスキーについて語ってた女優さんだ。

ファスビンダー監督の作品は、一場面がずるずるずると長いんだけど、場面切り替えはパキパキとしていて、終わりは「ちゃんちゃん」って感じなんだよなぁ。なんでそういう風にしようと思うのかわからないけど、暗ーい気持ちがかちっと終わるので、意外と引きずらない。

ちっとも理解はできなかったけど、やっぱり面白い監督だなぁと思いました。