映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・ブニュエル監督「銀河」3056本目

毎月あれほどDVDをレンタルしていたのに、U-NEXTに加入してからもう何か月も一枚もレンタルしてない…そしたらTSUTAYAから「新作でも何でも5枚レンタル無料!」クーポンが来ました。そういうことならVODに入ってない作品を借りに行っちゃうぞ、ということで渋いのを5枚借りてきました。

この作品はジャケットが怪しいタロットのパッケージみたい。信心深さが若干疑わしい老院と若者が巡礼の旅をしている形をとっているけど、彼らが遭遇するできごとは”異端裁判ロードムービー”といったところです。

ルイス・ブニュエルって年がら年中ずっと宗教のことを考え続けてたのかな。でも重くない。この作品も他の作品も、みんなどこかユーモラス。ちょっと引き気味で広い室内全体を捕らえるカメラは、宗教色のうすい「欲望のあいまいな対象」とかみたいに、軽い。

キリスト教異端審判を描いたこの作品とかから見るルイス・ブニュエルって、「ライフ・オブ・ブライアン」や”まさかのときのスペイン宗教裁判”などのモンティ・パイソンと比べてみて、本当に神に背を向けてるように思えないんだよなぁ。モンティ・パイソンはアンチクライストでないにしろアンチキリスト教だと感じてしまう一方、ルイス・ブニュエルはアンアンチ聖書、アンチ教会だけど誰よりも信心深かったりするんじゃないか?いや、カトリックの国々で生まれ育ったブニュエル監督と、プロテスタントのパイソンズという違いなのかな。

やっぱり面白かった。(DVDが途中で何度も止まってしまったので見てない部分があるかも)

ウディ・アレン監督「マジック・イン・ムーンライト」3055本目

コリン・ファースの役柄に既視感がありすぎるなぁ。でもソフィの霊感を信じるようになってからの後半は、完全ウディ・アレンの憑依状態になりました。ということは英国紳士はニューヨーカーが頑固になっただけってことか…?

エマ・ストーン可愛いですね。明るくてさわやかな上に、白のワンピースと花で飾った小さい帽子、という服装が可愛すぎる。エル・ファニングの可愛さに通じる。小さい女の子みたいなあどけなさ…(ウディ・アレンの小児性愛を糾弾するドキュメンタリーを思い出してしまった。彼は間違いなくヘンタイだけど、映画は面白い。もしかしたら、面白い映画を撮る人のほとんどがヘンタイで、ヘンタイをみんな捕まえたら退屈な映画しか生まれなくなってしまったりするんだろうか)

といってもこの作品は、最後にどんでん返しがあるほかは、ストーリーにそれほどヒネリがなく、会心の作!ってほどではなかったかな。コリン・ファースの英国紳士キャラに頼りすぎた部分がある。ケイト・ブランシェットが堕ちていく女をやる、みたいな意外性があると冴えるんだ。いっそのこと、最後まで偽中国人でいてくれたほうが良かったってことか?

 

園子温監督「東京ヴァンパイアホテル」映画版3054本目(KINENOTE未掲載)

連続コンテンツ版としてAmazonプライム初期、2017年に公開されたものは当時見たけど(感想は書かなかったようだ)、映画版として再編集されたようなので、見直してみます。その後「ポーの一族」も読んでバンパイアの基礎知識もつけたし(?)、この映画に森七菜が出てたと聞いておぼえてなかったし。しかしかなり長かった、10シリーズもあったので5時間はくだらないはずだけど、2時間ちょっとに縮めたらしいので、かなりはしょったんだな。

シリーズで見たときも、「こりゃひどい(いい意味でも悪い意味でも)と思ったけど、やっぱりひどいな(笑)、でもバイオレンスはそこそこ残してある一方、エロスは全廃されてます。冨手麻妙はほとんどハダカだったような記憶があるけど、一切脱衣しませんでした。出演者は全員”怪演”ですね、安達祐実も中川翔子も、言われてもわからない斎藤工も、わかりやすい満島新之介も、いつもながら鬼気迫る果帆も。。みんなこういうブッ飛んだ役をやるのって、きっと役者みょうりなんじゃないかな。

で、あかりという名の森七菜は、どうやら出番を全部カットされたんじゃないかな。。。残ったのはほとんど、ホテル内の阿鼻叫喚だけだった。(あとルーマニアの場面と、オープニングの居酒屋~街中)

だからといって、シリーズのほうを全部見直すのはエネルギーがいるというか、魂を抜かれそうなのでやめときます。 

 

ジム・ジャームッシュ監督「デッドマン」3053本目

これまだ見てなかった。ジョニー・デップはキャラが濃いというか存在感が強いから、モノクロの地味さが感じられない。服装のせいもあるけど、まるでウェスタンに見えない。

ディキンソン社長はロバート・ミッチャムなんだけど、年を取って精悍というより本当に企業の会長とかに見えるようになってる。最初「見たことあるけど誰だっけ」って思ってしまった。

そしてウエスタンなのにイギー・ポップがやっぱり出てて可笑しい。

オープニングクレジットの音楽がニール・ヤングっぽいなと思ってたら本当にそうだった。ウェスタン映画に完璧にハマるカナダ人。

無為に人が死ぬところが、ウエスタンはみんなそうだけど、タランティーノ映画とか思い出しますね。 

ノーバディという名の民族混血の先住民が、俺はどっちつかずだと言ってたのに最後は先住民の集落にある、祭祀を行いそうなものものしい建物に入っていけたのはどういう理屈だったんだろう。彼もまた、ウソつきで泥棒だったのかな~

デッドマン(字幕版)

デッドマン(字幕版)

  • ジョニー・デップ
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神代辰巳監督「棒の哀しみ」3052本目

30年近く前の作品。そうそう、昔はやくざさんはパンチパーマだった!髪型を見るだけで、誰とぶつからないようにすればいいかわかった時代でした。甲子園球児の坊主頭みたいにわかりやすかった。いつから誰もパンチにしなくなったんだろう。インテリやくざと呼ばれる人たちが出てきて、チーマーとか半グレとかが組織暴力へ移行するようになってからかな。文化人類学だわ…。

奥田瑛二は、鼻っ柱が強くてしょうもないけど色気のある男を演じさせたら一流。白竜もなんとなくリアリティがあっていいです。怖い役しかしない俳優ってイメージがあるけど、私は1984年に日比谷野音で行われた内田裕也のロックフェスでミュージシャンの彼を見ている。あんまり歌は歌ってないのかな。

奥田ヤクザは、ひたすらひとり言を言い続けるのが面白い。彼の解説もあって、当時の日本のひとつのやくざ文化を勉強させてもらった感じで興味深い作品でした。

「風呂に沈める」「シャブ漬けにされる」ってのは今もあるんだろうか。針と糸で適当に傷口を縫えばうまくくっつくんだろうか。(どれくらいリアルで、どの辺がフィクションなんだろうなー) 

棒の哀しみ

棒の哀しみ

  • 奥田瑛二
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ホウ・シャオシェン監督「珈琲時光」3051本目

動かないロード・ムービーみたいな感じ。20年近く前の作品なので、携帯は折りたたみ式でネットにはつながらない。喫茶店で人は本を読んだりPCを広げたりして、待ち合わせは携帯で話す。JRの駅まわりが、なんとなく古めかしい。浅野忠信がびっくりするくらい変わらない。

一青窈が足跡をたどっている江文也というのが実在の人物だと途中から気が付いてググってみたら、日本が台湾を併合してた時代の人なのね。

ストーリーがないというか、起承転結を作る気もなかったんじゃないかな?私が台北のどこかに1か月くらい住んでみたいというのと同じで、自分が一青窈っていう妊娠した女の子になって台湾の昔の人の足跡をたどったり、喫茶店に入ったり都電を乗り継いだりしてみたかったんじゃないか。大好きな小津の気分で。時間が止まったかのように。 

珈琲時光

珈琲時光

  • 一青窈
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アルフォンソ・ゴメス=レホン 監督「エジソンズ・ゲーム」3050本目

 直流/交流戦争か。エジソンが実は偉いだけの人じゃなかったことは、割と多くの人が「そんなの常識」だと思っているけど、ニコラ・テスラはイーロン・マスクが自分の電気自動車を彼にちなんで名付けたくらいの知られざる天才であることも、まあまあ知られている。でもウェスティンぐハウスは知らない人が多いのでは?電機業界のことをある程度知ってても「原発作ってなかったっけ?」くらいしか知らなかった、のが私だ。

エジソンと争って勝ったのが彼らだったのね。マニアックな題材といえるかもしれない。英文科卒の私と数名の人たちが「博士と狂人」でちょっと盛り上がるみたいなもんで。

作品としては「字が多い」感じ。…台詞で複雑なものごとを説明しようとする部分が多いのは、昔の人情物の白黒映画ならいいんだけど、科学技術の場合はEテレみたいに図解してもらわないと、映画を見てる人たちの集中力は続きにくいと思う。

眠くなってないのにどんどん頭がアサッテの方向へ向いてしまう理由のもうひとつは、カンバーバッチをはじめとする俳優たちの喋り方が、リアルなのかもしれないけどみんな平板だからじゃないか?(難しい内容を抑揚をつけてしゃべられても、かえって辛いか)

他の方々の感想は、その業界に詳しい人が書いたのを読むとすごく面白いですね。標準化戦争ってのは古今東西、人智と技術と運がせめぎ合うテクノヘゲモニーの世界ですから…。この映画、ビルゲイツvsジョブズかなんかみたいな感じでビジネスライクに描けばもっと面白さが増したかも?(いろいろ考えてるけど全部just ideaだな)

エジソンズ・ゲーム(字幕版)

エジソンズ・ゲーム(字幕版)

  • ベネディクト・カンバーバッチ
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