映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロジャー・コーマン 監督「赤死病の仮面」3166本目

おどろおどろしいですね~。昔のヨーロッパ映画という感じです。伯爵ヴィンセント・プライスのアクの強さ、フランチェスカを演じるジェーン・アッシャーのあどけなさ。ちょっと個性的な童顔で可愛い…。これは時代のアイコンになるキャラクターだわ。

致死率が圧倒的に高いけど、コロナウィルスを今はどうしても思い浮かべてしまう「赤死病」。絶対感染しないと信じる城のなかに閉じこもって、酒池肉林(いいすぎ?)にふける伯爵。この悪役っぷりがすごい。

<以下ネタバレ>

視聴者の共感を集めた主人公がやられる映画はわりとあるけど、世界が滅んで赤死病や青死病や黄死病の死神たちに支配された、というほどのアンハッピー・エンディングはけっこう珍しいのでは?死神さんたちも、いじめる人間がゼロではつまらないでしょう…。

とにかくジェーン・アッシャーが可愛かったです。

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市川準監督「トニー滝谷」3165本目

続けて見ると、見えてくるものがあるなぁ。

この作品では西島秀俊がナレーションをやっている。主役のトニー滝谷はイッセー緒方、美しく壊れた妻を宮沢りえ。彼女は「ドライブ・マイ・カー」のセックス中毒(のような感じ)のかわりに洋服を狂ったように買いまくっている。生前ほかにも男がいたらしい気配も「ドライブ・マイ・カー」と同じだ。いやになるくらい、村上春樹は同じことを何十年にもわたって書き続けている。

続けて見ると重畳的に、重なってくる、畳みかけてくる。重い。

この作品は76分しかなくて、監督が徹底して「余分なものを足さない」演出をするとこうなる、というお手本なのかも。でも、足そうが足すまいが、まとめて見ればその辺は薄まるのだ。

村上春樹の持つ底なしで永遠の闇に引き込まれそうになってる。しばらく海の底を漂ってから、浮上するのを待つしかないか…。

トニー滝谷

トニー滝谷

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松永大司 監督「ハナレイ・ベイ」3164本目

吉田羊はいい。村上春樹の主人公は、目立たない人じゃなくてぱっと見はなやかで美しい人たちが似合うんだな。かっこいい人生を送っている人。でも心の中の暗闇は深い。村上作品は最初から今まで全部、大事な人を突然失った真っ暗闇を埋められず、あの世とこの世の間みたいなグレーの空間に漂い続けてる人が主人公なのだ、とやっと気づく。他の登場人物は、大事な人(純粋すぎて闇にとらわれてしまった)の喪失に関係がありそうな、屈託がなくお金と権威を持つ男。暗闇に光を注ぐ女性。

この作品では闇に持っていかれたのは息子で、システムとか豊かさの側の悪の人間は出てこないように見える。でもやっぱり喪失の物語だった。

ノルウェイの森からずっと村上作品を好きじゃないのに読み続けてる自分もまた、グレーの空間に捕らわれたままなんだろうか。まあまあ頑張れてる、明るくやれてる、と普段は思ってるけど本当はどうなんだろう。

村上作品は怖いのだ。読んでるうちにそういう世界にずるずる引きずり込まれてしまう。映画もこうやって続けて見てると、はまりこんでしまって、戻ってこられなくなっちゃうのかな…。

でも続けて見てみます。どこにでも連れてってくれ。

ハナレイ・ベイ

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大森一樹監督「風の歌を聴け」3163本目

「ドライブ・マイ・カー」を見たので、昔の村上春樹原作作品を見てみたくなりました。「ノルウェイの森」は(なんか違うなぁ)と感じたけど「バーニング」は面白かった。この作品は初めての映画化だというだけでなく、1979年の出版からわずか2年後の1981年、監督は大森一樹でアートシアターギルドという、当時のアングラ感の強い制作体制で、どう仕上がっているか興味あります。

「僕」=小林薫、「女」=真行寺君枝は当然のようなキャスティングだけど、ジェイのマスターに坂田明ってのはATG的すぎる上、鼠を巻上公一という大胆なキャスティングは意外とはまってるのかもしれない。キャラと圧が強くて、苦労人というよりはお坊ちゃんっぽいこの感じ。ヒカシューは嫌いだったけど、声も通るし、彼は役者でやっていけたのかも。(意外と映画に出てるな、知らなかったけど)

何より不思議なのは、小林薫は村上春樹の主人公のイメージに近いんだけど、独白をそのまま流すとATG映画(昔のアングラ映画というか)そのものだということ。フリージャズを流すこともサックスプレイヤーの坂田明を出演させることも、たとえば新藤兼人作品でよく邦楽を使ったりすることを考えれば、様式をなにも外れてない。村上春樹ってそもそもはアングラの世界だったのかな…。考えてみれば、春樹作品には癒しはないし、主人公があんなに筋肉質の超イケメンってこともないので、「ドライブ・マイ・カー」のほうが異端の映画なのかもしれません。

混乱してきた…。

真行寺君枝のアンニュイでクールな感じ、ATGっぽい…。このくらいの年齢の女性って、自然にきれいに咲いた花みたいだな。自分を美しく見せようとする必要がないというか、美しさを持て余してるようなかんじ。今の若い子も生物学的に同じはずだけど、テレビとかで見る子たちは完成されすぎてる気がする。

この映画はまさに村上春樹作品なんだけど、世の中をハスに構えてニヒルに見ている感じがちょっとイヤミで、あと、なんともいえず…面白くない。(すみませんこんな言い方)

でも、真行寺君枝がきれいで、LPレコード店とドリーム号が懐かしくて、カリフォルニア・ガールズはやっぱり名曲で、あと、巻上公一が思ってたほど嫌いじゃなかった。

 

 

ヨアキム・トリアー監督「母の残像」3162本目

ユペール女史の出演作品を片っ端から「マイリスト」に入れておいたのを、ときどき思い立って見てみます。この映画は英語だけどノルウェー、フランス、デンマーク、アメリカ合作とのこと。

イザベル(役名も)を亡くした夫を演じてるのは、見たばかりの「ミラーズ・クロッシング」で実に渋くて味のある主役を演じたガブリエル・バーンじゃないですか。もう一人の老齢の男はデヴィッド・ストラザーン。「ノマドランド」でフランシス・マクド―マンドを家に呼んだ彼か。みんないい顔してるな~。

ジェシー・アイゼンバーグは見るたびにソーシャル・ネットワークを思い出してたんだけど、今日から二宮和也にしか見えなくなってしまった。

…役者の顔の話ばかりしてしまいましたが、この映画のテーマは今をときめく「ドライブ・マイ・カー」に似ています。「母の残像」のほうが悲壮になってもおかしくないのに、あっちのほうが深く心に残るのは、演出のしかたや監督のポリシーとかの違いによるものなんでしょうか。改めて、母を・妻を失った男たちの物語って今まではこういう風に作られてたよなー、と、おさらいのように感じてしまった部分もありました。

母の残像

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  • ガブリエル・バーン
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ラッセ・ハルストレム 監督「砂漠でサーモン・フィッシング」3161本目

<なんとなくつい結末を書いてしまった>

映画を集中的に見始めた頃に、この映画の予告編を飽きるほど見た記憶がある。結局、公開後10年もたってしまった。ハルストレム監督の作品は「犬のような私の生活(邦題違うって)」「サイダーハウスルール」「ギルバート・グレイプ」「ショコラ」「マダム・マロリー」などけっこう見てる。この作品はテーマからして荒唐無稽でコミカルな内容なのかな?と思ったら、荒唐無稽だけどコメディではなかった。アマゾン奥地にオペラハウスを建てる「フィッツカラルド」を思い出していいんだろうか。でもイエメンにはオイルマネーが潤沢にあるので、人類が火星に行くようなことを実現してしまえるのでした。

そして人里離れた土地の妙齢の魅力的な二人…。最初はバカげていると思えた鮭計画を、壮大な砂漠緑化計画の一端として実現させるためにも、1人では足りず、必要なパートナーは砂漠に残ったのでした。。。

今なら、戦地から戻ったイケメンの心変わりとか他の女が出てくるとか、ジュネーヴに行ってた妻に他に男がいたとか、なにかヒネリがあるかなと思ったらありませんでしたね。(なんて心のねじくれた視聴者なんだ私は)

 

マイケル・ムーア監督「ロジャー&ミー」3160本目

かのドキュメンタリー作家マイケル・ムーアが生まれたのはこういう経緯だったんだ。GMの工場城下町で、工場の仕事をしている一家に生まれて、マスコミで働いた後に工場が閉鎖されたことでドキュメンタリーを撮り始め、GMの社長になんとかして取材を取り付けようとするけど何度突撃しても阻止され、クリスマスコンサートでスピーチをする彼に最後にやっと直接対決できた。けど想定問答のような乾いた二言三言だけだった。このときのフラストレーションがマイケル・ムーアに火をつけたのかな…。

この作品の制作は1989年。その後のGMは倒産寸前~再上場、と復活したと認識してるけど、フリントはどうなったんだろう。ググってみると2010年にGMがフリントで750人を再雇用したとか2015年にフリント工場に再投資とか、直近では2020年にフリントのトラック工場がコロナで部品不足なんて記事も見つかるので、工場はその後少なくとも一部は復活したように見えます。マイケル・ムーアが追っかけてたロジャー社長はこの映画のすぐ後、1990年に退任したらしいので、その時点で多少は方針が変わったんだろうか。

マイケル・ムーアにしてはまだマイルドな作品でした。この人の作品の情動操作感は好きじゃないけど、目の付け所がすごいし確実に面白いので、これから先も見て行こうと思います。

ロジャー&ミー(字幕版)

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  • マイケル・ムーア
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