映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジュリアン・シュナーベル 監督「永遠の門 ゴッホの見た未来」3189本目

「潜水服は蝶の夢を見る」など、私のわりと好きな作品をたくさん撮ってるシュナーベル監督。ゴッホは幸せに生きた人ではないってわかってるから、見るのがちょっとツライなぁ(「潜水服」もだけど)、でも、ゴッホが見た本物の糸杉が見てみたいと思って見てみることに。

ゴッホって37歳で亡くなったんだよね?この映画の撮影時のウィレム・デフォー63歳は彼のお父さんくらいの年齢だ。苦悩するゴッホの容貌はこんなふうだったんだろうか?という解釈もあるだろうけど、まだお肌つるつるなのに病を得て青白く、若さと狂気が同居していたゴッホ像が見てみたかったな。

なんだか、やっと天国に行けてよかったね、という気持ちになる終わり方でした。

彼のように葛藤して、有名になることもなく亡くなって、今も誰にも注目されていない天才画家がたくさんいるのかもな…。

 

ジェド・ロススタイン監督「WeWork / 470億ドル企業を崩落させた男」3188本目(KINENOTE未掲載)

WeWorkの評判や、ソフトバンクがなぜか出資してしまった話は見たことがあったけど、このドキュメンタリーでやっと状況が理解できました。アダム・ニューマンなぁ…ITというかアメリカのベンチャー界のビッグマウスとしてスティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクに次ぐ巨頭だなぁ。私が血と汗と涙を流して稼いだお金は、こういう会社には投資したくないわ。

同列に語ると怒る人も多いと思うけど、ジョブズも一度はアップルから放逐された男だ。ビジョナリーはビジョンを語るのが役割で、それを実現させる超絶に優秀なスタッフたちがいない限り、ただのビッグマウスで終わる可能性が高い。中でもイーロン・マスクは宇宙に至る巨大なビジョンを語るけど、アダムのWeWorkは「シェアオフィス」の一言で終わってしまう、小さすぎるビジョンだ。どうすれば、そんな単純なことが客観的に見られなくなっちゃうのか?

シェアコミュニティ…そういうものの一員として楽しくやっていける人が、まぶしくも思える。この映画の中にもたくさん出てくる、生き生きしてフレンドリーな若者たち。私は古いのかなぁ。

もっと小さいコミュニティでも、さらに大きいコミュニティでも、同様のことは起こり続けるんだろう、これからも。

マーヴィン・ルロイ 監督「悪い種子」3188本目

<ネタバレあります>

映画の紹介文にすでに、「8歳の少女が殺人事件を起こす」と書いてあるし、ジャケット写真を見るだけでネタバレ感がありますが、少女の母がやけに気にかけている連続殺人犯の女性の話やタイトルから、この作品のテーマが”犯罪者の遺伝子”だということもわかってきます。

すごくスリリングで面白い。犯罪の原因として「遺伝」をテーマにするのも、彼らの演技も。遺伝を単純にとらえるのはとても危険だし不正確で、犯罪傾向の遺伝子は、血液型の遺伝子みたいに単純な計算で発現を予測できるようなものじゃないと思うけど、今ならこれほどあからさまに犯罪の遺伝を描く映画は作られないんじゃないかな。だいいち、犯罪者本人であっても刑を受けて服役することで更生を目指すわけなので、原因が遺伝子だとか言ってしまったら、子孫どころか本人の更生もありえないような話になってしまう。

放送禁止用語がドカドカ出てくる昔の映画を見たようなムズムズ感があるけど、白黒映画の時代の、丁寧に作られた作品で見ごたえがありました。

終わった後に出演者たちが出てきて挨拶をするのは、「これはフィクションです」という強いメッセージなんだろうな。実際、これがあることでお嬢ちゃん役の子は学校でいじめられるリスクが少しは減ったかも、という気がします。

悪い種子(字幕版)

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三池崇史 監督「龍が如く 劇場版」3187本目

友達(女性)がゲームにハマって、歌舞伎町の名が出るたびにいちいち「龍が如くみたい」って言うので、試しに見てみます。

上京以来ずっと歌舞伎町は近くて遠い存在…。よく通るけど、奥までは行かない町。歌舞伎町が舞台の映画とかドラマってけっこうあると思うけど、思ったほどベタではなかったな。2007年にはまだコマ劇場があったけどドンキはもうできてた。今ならトーホーシネマズのゴジラは必須だな…。

で、この映画は、面白かったですよ。ツッコミどころによって構成されたような映画ではあるけど、いろいろ現実よりユルい架空の歌舞伎町だし。でも、これゲームだとどうなってるんだろう?逆にそっちが気になるな…(やらないけど)

 

マッツ・ブリュガ― 監督「誰がハマーショルドを殺したか」3186本目

1961年に国連事務総長が乗った飛行機が落ちたのか。衝撃的だな。平和の使者のような人が…と思うけど、大きな利害が彼にかかっている人もいたのか。

監督が映画冒頭からインチキ臭い、という理由で、内容もマユツバものかなと感じさせるけど、見せ方が取材された事件の真偽に影響するわけじゃない。ハマーショルドの死亡を伝える姿がニュース映像に残っているJ.F.ケネディ自身、2年後に暗殺されてるからなぁ。この時代の各国の諜報機関が隠れてやっていたことが、私たちの想像を超えていた可能性は、否めないと思います。私は陰謀論者ではないけど、エドワード・スノーデンは今も逃げ続けてる実在の人物だし、「マイアミ・ショウバンド」っていうアイルランドのアイドルグループが英国軍に虐殺された事件も史実だ。この映画で提示していることも、可能性の一つとして考えればいいんじゃないでしょうかね。

「予防注射によってアフリカの人たちにHIVウィルスを蔓延させようとした」という話は、感染者と同じ注射針をそのまま使い続ければ簡単に感染するのがウィルスなので、十分な滅菌処理ができない土地で、予防注射を介した感染が起こった可能性はある。現地人を実験台にすることは、戦争中にドイツ軍も日本軍もやってた。ありえないほどバカな戦略も、権力の手先としてなら実現できてしまうことがある。

ほぼ無傷の遺体も変だけど、その襟元にはさんであったスペードのエースのカードはほとんど、つまらないミステリーの演出みたいだ。センスのない番組が、誰のNGも受けずに放送に乗ってしまって、批判が殺到することがあるように、上層部がのちに恥じるような稚拙な戦略が通ってしまったこともあったのかも。どんな立派な会社にも、確実にバカはいるし。

国連事務総長の暗殺とか、実に無意味でコスパが悪い、あたまのわるい作戦だ。ある民族の人たちを根絶するという、まさかと思うようなことが実際にとんでもない規模で行われたくらいだから、集団催眠みたいなものがそういう作戦を通してしまうのかもしれない。そう考えると、ネルソン・マンデラが天寿を全うできたのはずっとロベン島に閉じ込められてたからなのかも。

「こんな話嘘っぱちだ」とみんなが言ってると、悪い人たちが安心して「しめしめ」ってほくそ笑むから、「嘘くさいけど、事実である可能性がまだ1%はあるので、今後も注視してやる」と言いたいです。

 

ダーレン・アロノフスキー監督「π パイ」3185本目

ジャケットのイメージから、1930年代くらいの、フリッツ・ラングとかと同時代くらいの作品かと思ったら、「ブラックスワン」とか「マザー(私だけ、全然理解できずにトンチンカンな感想書いてたやつ)」の監督のデビュー作じゃないですか。

映画冒頭、モノクロなんだけどやけにスタイリッシュなフォントでクレジットが流れて、背景は「マトリックス」みたいな数字の羅列、でも音楽が打ち込みっぽくて、初めて最近の作品だと気付きました。遅いよ!といっても1998年、もう23年も前でした。

で、この作品ですが、なんとなくトーンがきつくてあまりちゃんと見られませんでした。「鉄男」もこうだったな。2回通しで流したけど、感想をちゃんと書けるほど凝視できなかったので、このくらいにしておきます。

きっと「ブラックスワン」「マザー」につながる、強迫神経症的な世界を描き続けてるんだろうな。入り込めないのは、自分にそういう部分があまりないからかな…。

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本多猪四郎 監督「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」3184本目

「白い帽子の女」に続いて、ブラピつながり(!?)で見てみます。(彼が小さい頃に見て衝撃を受けたとWikipediaに書いてあった)

感想は、この時代、子供向けパニック映画みたいな、怪獣やばけものと人間、あるいはそういったもの同士が戦う映画が数限りなく作られた中で、作りは他と同様だけど「ばけもの」が分離独立して巨大化したフランケンシュタインだという点がユニークでした。決してつまらなくはない。面白いけど、バリエーションが必要だと人はこんなものまで作るのか、という点でとっても興味深い作品でした。

通常サイズのフランケンシュタインは、素直なゴリラの子供みたいで可愛かったです。(人間から作ったはずのものが、なぜこんなに毛深くなるのかは、ちょっとナゾ)