映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ブレイク・エドワーズ 監督「ピンク・パンサー2」3430本目

「博士の異常な愛情」のピーター・セラーズが好きなんだけど(ハイパーで饒舌で、まさにマッド・サイエンティスト)、彼の出演作はVODにはあまり出てなくて、久々にDVDをまとめ借りしたのでやっと「2」を見ることができました。DVDをどうしても英語音声に設定できず、日本語吹き替えで。

空手の名手のケイトーって「グリーン・ホーネット」のブルース・リーの役名じゃないですか。ここでは、やたら雇い主に技をしかけたがる、おかしな日本人武道家。大泥棒のサー・チャールズはクリストファー・プラマー。似合う・・・。

もろもろ、素敵な部分も微妙な部分もあるけど、ピンク・パンサーでのピーター・セラーズのギャグは私にはツボです。賢そうな表情をして、とことんうっかり者を演じる。「チャンス」では、一周回って知性が気になって笑えなかったんだけど、この映画は好きです。もっと長生きしておバカ映画をもっと作ってほしかったな、ピーター・セラーズ・・・。

ジョー・キャンプ 監督「ベンジー」3429本目

たぶん、生まれて初めて劇場で見た洋画。(その次がスターウォーズかな。邦画はゴジラやヘドラ、もっと小さいときに何本か見た)ジョー・キャンプ監督って、ベンジーの映画しか撮ってない・・・

典型的なアメリカの住宅地の、ちょっと育ちのよさそうな家庭の犬の話だと思い込んでたけど、山のボロ家から出てきた。テーマ曲が始まるまで無音なので、最近よく見てるアメリカ1970年代B級ホラー映画かと思った。

まさかの野良犬。それも、もっふもふの可愛い子じゃなくて、薄汚れたような、思ったより小さい犬だ。そして音声がなぜか全部アフレコだ・・・映像のB級っぽさと合わせてテレビドラマみたい!生活音がまったくなくて、なんともいえない低予算感。この映画は撮影用のマイクがなくても撮れるじゃないか。

街の人々に、それぞれ別の名前で呼ばれ、朝はドクターの家、おやつは警官から、そのあとはダイナーに寄って・・・。なんて自由でハッピーな犬なんだ。テーマ曲も「I feel love」だし、劇中音楽もレイドバックなカリフォルニアの若者ふう。これは、自由を謳歌することを、いぬの姿を借りて描いたラブ&ピースなベトナム反戦映画だ(適当)これもまた、アメリカン・ニュー・シネマのひとつなのか、あるいは低予算ゾンビ映画のパロディ?

ベンジーが住む山の中の館に、男たちがやってくる。これは普通、殺人鬼やゾンビが登場する流れ・・・でもこの作品では、こいつらが悪者。ここでベンジーがヒーローへと変貌します。すごい演技力。ここから先は完全に、ベンジーの感情あふれる演技が主導していきます。低予算とはいえ50万ドルの製作費のけっこうな部分が、ドッグトレーナーやベンジーの出演料に使われたのかもしれない。

全体的にシンプルでチープなんだけど、構成や構図がとてもよくできていて、家族で見てあたたかくハッピーな気分になれる映画ですね。

ティファニーのほうは死んでしまったかと思ったら、生きててよかった。(←完全に感情移入している)大団円として、自由犬ベンジーを「こんなにいい犬ならうちで飼おう」となるのが時代を感じさせます。(あくまでも「2匹さえよければ」という条件つきだけど)今は、ノマドランドのデイヴィッド・ストラザーンに一緒に住もうと言われてもノマドを続けるフランシス・マクドーマンドの時代。いやー面白かった。見てみてよかったです。

大林宣彦監督「可愛い悪魔」3428本目(KINENOTE未掲載)

DVDなのに古書の匂いがする。少しカビっぽいような…。よほど前に借りてから時間が空いてるのかな・・・。

これは普通に映画かと思って借りたけどKINENOTEには記録がない。テレビの「土曜ワイド劇場」で1982年に放送された”テレビ映画”らしい。大林監督作品のなかでは「HOUSE」の仲間という印象。可愛い(いや怖い)アリスちゃんを演じた川村ティナは今50歳か・・。彼女が成長した姿が秋吉久美子?と思ったら、別人でむしろ被害者という設定だった。渡辺裕之も峰岸徹も赤座美代子も若い。

ちっちゃい女の子が人を呪うのって、「悪い種子」がモデルなんですね。あれかー。アガサ・クリスティにもあったし、キャリーとか各種ホラー映画にもあるモチーフですが、これは大林作品なので、死体は人形のようだし、死をもたらす美少女に制裁めいたことは一切ありません。せりふは棒読みっぽいし、テレビ的な規模間の中の大胆な演出。この後に続いたのは実写じゃなくて美少女が登場する残酷なアニメというべきじゃないかな。だって水辺の場面とかでも、丘の上の家や空は不自然な色合いの絵になってて、リアルに見せようっていう意図があまり感じられない。

「13日の金曜日」のラストみたいな、湖上のボートの場面もある。トラウマ系のホラー映画が好きな人だったんだな・・・。すごく作りが荒いというか雑なんだけど、特殊な面白さがある。そして出てくる少女たち、大人の女性たちが、すごくキレイで美しいんだよなぁ。

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曽根中生監督「BLOW THE NIGHT 夜をぶっとばせ」3427本目

1983年の映画か。不良女子高生が頭を赤くして、長いスカートで地面をズルズル引きずってた頃の文化を伝える作品となっています。

ストリート・スライダーズはハリー作のパワフルな曲もいいけど、蘭丸の書いたデリケートな曲も好きだった。国分寺のスタジオで練習してるって噂は聞いてたけど、実際私たちが練習してた隣でハリーと蘭丸が練習してるのが聞こえてきたときは驚いた。

映画に戻ると・・・この主役みたいな女の子いたなぁ。今の高校生から見るとこれが高校生、いや中学生とは信じられない大人ぶったメイク。でも家庭や学校に居場所を見つけられずにヒリヒリした心を抱えてたんだろうなぁ。

可愛かずみがやたらグラビアのスカウトに名刺をもらいまくってるけど、あの頃は誰にでも声をかけるスカウトマンが大量にいた。西武新宿で電車を降りると、歌舞伎町の何かのスカウトに声をかけられることがあったけど、今考えるとついていかなくてよかった。バブルの頃はよかったと思う人もいるだろうけど、若い子たちが誰からも何からも、まだ守られてなかった時代だ。

そんな時代の空気を久しぶりに吸ったような気がしました。

 

増村保造 監督「兵隊やくざ」3426本目

これも評価の高い、ずっと見たかった作品。勝新太郎が主役でこのタイトルなので、かなりヘビーな暴力の多い映画を予想してた(典型的な苦手分野)けど、非常に軽妙でとにかく面白い映画でした。暴力の場面も多いけど、残虐さを強調するのではなく、いじめの不条理さなど、あくまでも人間を描いていて、高評価もなるほどです。

勝新は小さいころに見た「座頭市」の印象が強いんだけど、この映画では、強面なのに小さい男の子みたいに真っすぐで、強くて、なんとなく丸っこくて、これは男にも女にも愛されただろうなぁ。中村玉緒がその後、不祥事の絶えない夫のことを「それでも私はかわゆうてならんのどす」(表現はうろ覚え)と言ってたのを思い出します。

インテリ丸メガネの田村高廣といい対比になってるんだけど、彼が天衣無縫な勝新に弟のように目をかけるのが、まるでBL(って書くと、途端になんかいやらしくなるのはなぜだろう)。

そして、「社長シリーズ」等でも「お色気担当」の淡路恵子の女っぷり、むんむんしてます。そのベースにある無常観。思うに、日本の働く人々のメンタリティって、兵隊や遊女のような、上に逆らえない前提で抑圧の中で花咲こうっていう感覚が根っこの部分にある。今はどんな人もこの時代よりは自由なのに、会社を辞めたら死ぬみたいにしがみつきがちなのって、理屈では説明がつかないよな。なんでみんなこんなに権威を畏れちゃうんだろ(自由の身になったからこそ、そう思う。もっと早く辞められたのにな、って)

前半はいじめ映画って感じなんだけど、後半の大反撃~大脱走が痛快で、腹の底から面白かった!って言える作品になってます。増村保蔵って若尾文子とか出てくる黒い映画のイメージだけど、何よりこういう、体の芯にくる面白みが身上の監督だったんだな。すごい映画でした。大満足です。

兵隊やくざ

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イスマエル・ロドリゲス 監督「価値ある男」3425本目

三船敏郎の海外作品への出演で知られてる作品を借りてみました。これは・・・予想よりはるかに珍妙だ。(そこが最高)

「テキサスあたりで撮った、メキシコが舞台のハリウッド映画」ではなくて、タイトルから何から全編スペイン語のメキシコ映画じゃないか。1961年。すごいのに出たんだなぁ。アメリカの早川雪舟や満州の李香蘭も、これほどのアウェイ感はなかったんじゃないか。「ヒロシマ・モナムール」の岡田英二なんて、撮影地は日本だもんな。

この映画のなかの彼は、容貌になんの違和感もなく、口パクだけどちゃんとスペイン語でセリフを言っている。ときどき、立ち居振る舞いがやっぱり日本人的だなと感じるけど、めちゃくちゃ個性の強い主役なので、日本というより彼という男の特異性にも見える。

ここでちゃんと検索してみたら、日本から中南米への移民はメキシコが最初で、今年(2022年)は125周年らしい。映画の中にもアジア系の容貌の俳優が出てきますね。メキシコで日本人をメキシコ人として映画を撮ることは、こっちで思うより自然だったのかもしれない。

中国映画で、残酷なイメージの西太后を田中裕子が演じたように、この役をやるだけで”粗暴で無神経”な性格付けがされてしまう悪役を、あえて名声に傷がつきにくい外国人演じさせようという意図もあったのかも。

とにかく粗暴な役柄。でも黒澤映画で見覚えのあるミフネでもあります。何回か見たら完全にメキシコの俳優で作ったメキシコ映画に見えてくるんだろうか。

メキシコで彼がどう捉えられていたのか?「Mexico Toshiro Mifune」でググると英語のコンテンツがたくさん見つかります。当地では稲垣浩監督の「無法松の一生(英語では「リキシャマン」、1958年。ベネチアで金獅子賞。原作は1938~40年に書かれてる。1954年のフェリーニ「道」より前)」で知られていたとか、オアハカあたりの先住民にそっくりだったとか、紋付き袴でメキシコの空港に降り立った彼はすでにスペイン語で台本をすべて暗記していたとか。なんて面白いの。無法松って荒くれ者の悪役ヒーローだから、トルハーノのイメージと一致しますね。

ところで、この映画で彼が勝ち取った「マヨルドーノ」は「村の祝祭を取り仕切る、名誉ある族長」のような意味だけど、1990年代にメーリングリスト管理ツールとして名をはせた「Majordomo」(メイジャードーモ)と同じ語じゃないですか!ラテン語由来で「家長」の意味といわれてるけど、スペイン語の辞書を引くともっとたくさん意味が出てくる。何一つ接点のなさそうな2つの言葉が実は同じ語だったなんて面白い。(ツールを開発したのはBrent Chapmanという人でのちにGoogleやSlackでも働いてた現役ITコンサルタントだ。メキシコやスペイン語とのつながりは見つけられなかった)

 

石井輝男 監督「ゲンセンカン主人」3424本目

つげ義春の妻、藤原マキが書いた絵日記みたいなエッセイ本を読んだとき、見たいなと思った映画。1993年。30年近く前の作品です。バブルな時代だから、この映画の”何もない感じ”が嘘くさく感じられたかもしれないけど、今見ると”昭和の頃に作られた映画”のようなおもむきを感じるな。もう平成だったのに。

「李さん」を演じた横山あきお、懐かしい。久しぶりに見た。彼もその家族(妻と二人の子)も、何もしていない。主人公の佐野史郎の家のキュウリを盗んだり五右衛門ぶろを沸かしたりする以外、日がな一日何もしないでいる。

「紅い花」は美しい話だけど、映画だと語り過ぎちゃうので、おそろしく突き詰めたつげ義春のマンガを見てるほうが世界が広がるなぁ。

「ゲンセンカン」は面白い。実写映像にすることで勢いが出る。おどろおどろしくなりすぎず、いい作品になったと思う。

「××百店会」って小冊子、何度か都内でももらったことがあるので、池袋百店会もありそうな話だ。川崎麻世のインテリ気取り、岡田奈々はまだこのときも本当に可憐で、これもよかった。

いまVODで提供されてない作品のなかでは、十分楽しめる(過度に時代がかっていないし、暗すぎずマニアックすぎない)映画だったと思いますよ。