映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ケリー・ライカート監督「ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画」 3453本目

ライカート監督作品って、巻き込まれがたのアンチヒーロー(ミシェル・ウィリアムズがその典型)がいつも主役というイメージがあるので、”加害者”が主役って意外。

犯罪の場面そのものが描かれるのも珍しい。ジェシー・アイゼンバーグ演じるジョシュが、普通の小僧から犯罪者の顏になっていく演技がなかなか重い。この監督は、”揺れる心”に焦点を定めた映画を作る人だとわかってきたけど、この作品で描かれるのは事件後の”疑心暗鬼”か。それにしちゃ爆破までがそこそこ長いけど。

監督が行きたい方向が少しだけ見えてきて、「ちょっと関心のある監督」から「今後の動きが興味深い監督」になってきました。

ケリー・ライカート監督「ミークス・カットオフ」3452本目

Cut offは「ショートカット」=近道ってことだな。ミークの近道。

ある一家が荒野で道に迷っているところから始まる。道案内に雇ったミークという男のうさん臭いこと。まるで目的地どころか、水や食料のあるところにもたどり着けそうにない。馬も人間も飢餓で今にも倒れそうだ。そこに言葉の通じない半裸の先住民が表れて、壁に何か文字を書きつける。それは道案内のヒントなのか、それとも味方に自分の居場所を知らせる書置きなのか。

ライカート監督作品4本目だから、私も学習すりゃいいんだけど、また結末を期待して見てしまって拍子抜けする。答えを決して与えないのがライカート監督だった。なんか、ケン・ローチとかダルデンヌ兄弟みたいな、社会派の映画監督みたいな手法に思えるけど、ライカート監督の作品にそういうメッセージ性は感じない。もっと、どこで何をしている人間の内面にもある疑いと信頼のバランスや、それを崩しにかかるさまざまな事件とか、そういった「不安定さ」をヤジロベエみたいに描くんだ。なんともいえず、落ち着かない。彼女の作品を見ることで何か自分が学んだり目を覚ましたりしてるのかというと、そういう気もしない。

なんとなく揺さぶられたのは確かなので、次、最新作も見てみることにします。ふぅ。

ミークス・カットオフ

ミークス・カットオフ

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ケリー・ライカート監督「リバー・オブ・グラス」3451本目

<ネタバレあります>

フロリダが舞台のインディペンデント映画といえば、カラフルな「フロリダ・プロジェクト」を思い出すけど、こっちはまったく無彩色で、晴れていてもなんとなくぱっとしない。

「草の川」と呼ばれているのは、フロリダ半島の東岸突端近くにあるマイアミに対して、その西側に広がる「エバーグレーズ国立公園」の辺りだろうか。私は半島の中ほどのケネディ宇宙センターと、その内陸部のディズニーワールドしか行ったことないけど、それでもけっこうバイユー(沼地)でワニとかもいた。あんな場所で暮らす人たちの物語。

子どもをほったらかしてる女も、イキがってるだけの男も、なんともいえずズルズルとうっとおしい。最後の最後にそれをスパン!と振り切るのは女のほう。その銃声が男に傷をつけたのかつけなかったのかは、映画では語られない。「ウェンディ&ルーシー」でウェンディが山で寝てたときに襲われたのかどうか、わかるような描き方をしなかったのと似てるな。

ものすごく間違ってるかもしれない極論を言うと、生活に倦んでる地方在住のコージーは、舞台を日本に持ってくると「ここは退屈迎えにきて」になるのかな。って思いました。

ケリー・ライカート 監督「オールド・ジョイ」3450本目

ミシェル・ウィリアムズがこの作品を見て「ウェンディ&ルーシー」の出演を監督に申し出た、と聞いて見てみました。

昔からの友達に急に誘われて、二人で山奥の秘湯へドライブに出かける。誘われた方は、それほど乗り気じゃないように見えたけど、行ってみたらソイツの方が癒された。・・・って話だった。(まとめすぎか)

最初は、1.知ってる俳優がいない、2.人気のない山道をドライブ、というところから、最近よく見てた”トラウマ系B級ホラー”の匂いを勝手に感じ取って、みょうに緊張して見てたのですが、だんだん、私自身ときどきやってる「友達から急に誘われてキャンプ」だなと気づいて、自分もマークの車に同乗してるような気分になっていきました。彼らが入る、何の変哲もないドライブインが、私たちが立ち寄るような街道沿いの蕎麦屋に見えてくる。

マークが連れてきた犬の名前はルーシー。(本当の名前らしい。)犬以外はこの後の「ウェンディ&ルーシー」との脈絡はありません。

最初、するする見てたらそのままオチなく終わってしまったので、何か見落としたかなと思って二度見。そしたら、何も見落としてなかったんだけど、彼らのかわす何気ない会話の映画だったんだな。10代の頃の遊び仲間の一方はずっとヒッピー、もう片方はカタギになって地域のために働いてる。行く道がどんどん分かれていったけど、久しぶりに会えてよかった。このあと二人はまた何年も、ひょっとすると何十年も会うことなく、もしかしたら「あいつ死んだらしいよ」という便りがどこからか来るだけかもしれない。世界中の8割くらいの人が共感できるテーマだ。たいがいの人が仕事や生活に追われてるから、この映画をヒッピーのカートの側から語る人は多分少ない。実際彼は何をしてる人って設定なんだろう。でも私はカートのほうになりたいんだよな・・・。

アイヴァン・ライトマン 監督「パラダイス・アーミー」3449本目

ビル・マーレイが出てるなら見なければ。と思って見たけど、なんとなく、今見なくてもいい映画だったかもしれない。80年代の軍隊の映画が見たいなら「トップ・ガン」見た方がいいし。ベトナム戦争終結後、比較的平和な時代だったから作れたお気楽な映画だった。この頃はまだ、戦後生まれの日本人がアメリカの軍隊のコメディ映画を笑いながら見ていられた時代だった・・かなぁ。(私が世界情勢に無知だったからかも)

 

ケリー・ライヒャルト 監督「ウェンディ&ルーシー」3448本目

ミシェル・ウィリアムズは悪運に見舞われる普通の女性を演じるイメージが強い。これもそうだった。

彼女はひとり、愛犬ルーシーを連れてボロボロの愛車でアラスカを目指している。失職し家も失って、当地で仕事を見つけようと思っている。・・・二人で旅するロードムービーだと思って見始めたので、すでに寂しい気持ちになる。装備や資金が十全じゃないので、ルーシーのご飯にも事欠き、万引きを試みて捕まっている間にルーシーがいなくなり、車も動かなくなって廃車にするしかない。

林で野宿したときの場面は、彼女が暗闇で目を覚ますと男が「顔を見るな」と言い、その後くどくどと自分の窮状を話して去る、彼女は激しく動揺してトイレに駆け込む・・・という状況から考えると、男にレイプされている最中に目を覚ましたのかと思ったけど、KINENOTEのみなさんの感想を見ても、英語でググっても、ほとんどの人がそうは取らなかったみたいでした。彼女は物音ひとつ立てず寝てたのに、わざわざ起こして「顔を見るな」って言う必要はないし、いきなり自分の不幸を寝てる人に語りだすのも不自然だけど、未遂に終わったと見ればいいのかな。ここで被害があったかなかったかで、彼女の不幸の度合いが違ってくる。

この監督も、たぶん、安易なカタルシスを提供するつもりのない人で、万引きしたスーパーの人も自動車修理工場の人も、誰も大目に見たり値引きしてくれたりしない。(老いた警備員だけは情を感じてくれている)ウェンディがこんなに困ってるくらいだから、この町の人はみんな生活がキツキツなんだ、きっと。あえて金髪のロングヘアでスリムでセクシーな女性じゃなくて、もっさりした普通の女性にしたのは、女性プレミアムのないところでどうやって女性が生き延びるか、という問題提起もあるのかな。

貨物列車にもぐりこんで街を出たウェンディは、いろいろあってもまだ元気そうで、きっと仕事さえ見つかればアラスカかどこかに定住して強い母になって家庭を守っていけそうにも思う。若い分、「ノマドランド」よりはこの先に希望が持てる気がするのでした。

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ジェイソン・ライトマン 監督「ゴーストバスターズ アフターライフ」3447本目

<ネタバレあります>

これも機内でとびとびに見ました。これは予想より面白かった。

フィービーちゃんのメガネは、イゴン・スペングラー(ハロルド・ライミス)だったのね。この子の大真面目な頑張りがよかったし、CGのイゴン博士もいい、めちゃくちゃお爺さんになったレイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)とピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)もやっぱり良かった。

でも、すぐ潰れるチビ・マシュマロマンたちの可愛さや、ゴーストバスターズの一人がゴースト出演するのには負ける!(イゴン博士自身が退治されたらどうしよう、とちょっとドキドキしてた)

この映画も、割と大胆に破綻してるんですよ。フィービーちゃんが機器をさらっと修理して、友達と一緒に練習もなくすぐに駆使できたり、謎の改造車やバッテリーが永遠にもつ機器類もデタラメだし、祖父から受け継いだ電話番号がずっと使われてるばかりか、ちょうどデスクにいたスタンツ博士とすぐ話せるとのも旧バスターズがちょうどいいところに現れるのも。

その上、若い出演者はわりとみんな地味だし、ゴーストはそれほど迫力ないし。でも見終わって満足感があるのはなんでだろう。人間関係の描き方に無理がないからかな?いや、もしかしたら最初の「ゴーストバスターズ」の人たちが出てきたので嬉しいだけかもしれません。うーん、ノスタルジーを感動と思ってしまうおばあさんになってしまったのかな、私も。。