映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミッチェル・ライゼン 監督「黄金の耳飾り」3466本目

「ミッドナイト」がすごく良かったライゼン監督の後期の作品。主役のレイ・ミランドは「恐怖省」「失われた週末」「ダイヤルMを廻せ」等の彼だ。(”黄金の耳飾り”をするのは、彼なのだ)そして黒塗りでジプシー女を演じるのが、御年47歳のディートリッヒ様。なりきって、目を大きく見開いて、ちょっと変な発音の英語でしゃべる。彼女のコメディエンヌとしての才能が生かされてる、と思います。

現代劇で見慣れた彼らが、1人は本物のジプシーとして、1人はジプシーを装ったイギリス兵として、ストーリーを動かしていきます。ジプシー多数によるグループが登場するけど、たぶん本物は一人もいない。これたぶん、まったくの空想物語なんだろうな。ヨーロッパの森では、細かく引かれた区切られた国境に関係なく、ジプシーというか、ロマと呼ばれる人たちが移動しながら暮らしているので、中にはどこかの脱走兵をかくまってくれた人もいたかもしれない。あらゆる部分でリアリティは感じられないけど、こんな夢をみた瀕死の脱走兵もいたかもしれないよね。

いつもは端正な二人のジプシー仮装も楽しめました。

黄金の耳飾り(字幕版)

黄金の耳飾り(字幕版)

  • マレーネ・ディートリッヒ
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エド・ウッド監督「グレンとグレンダ」3465本目

KINENOTEの評点の平均がちょっと見たことないくらい低い、現在39.2点(笑)。あのエド・ウッドの監督作品だしな・・・。彼って史上最高にナルシストだし自意識過剰でひとりよがりだけど、そこが面白いのです。素晴らしい人が素晴らしい映画を作るだけじゃなくて、ダメな人がダメな映画を作って、それを何十年もあとに見ることができるって、ほんとに興味深くていい。(書けば書くほど失礼に見えるのが辛いけど、ほんとに面白いのです)

1956年には性転換の医療技術は今より遅れてたはずだけど、今でいうトランスジェンダー、心は異性という人たちにとっては革命的な解決方法に思えただろう。悩み続けている人や周囲の人たちに、映画という形で啓蒙を図ろうとしたエド・ウッド監督の気持ちもわかる。彼自身、女装癖のある異性愛者だったとWikipediaにあるので、生涯をかけた言い訳というか、周囲へ理解を求める説明としてこの作品を作ったのかな。

私は女装癖べつにいいと思うな・・・。可愛い男性もきれいな男性もいいと思うし。エド・ウッドに、妻と子ども連れで堂々とおしゃれして闊歩する「りゅうちぇる」の姿を見て元気づけてやりたかったよ・・・。

 

 

フリッツ・ラング監督「ブルー・ガーディニア」3464本目

1953年にラング監督がハリウッドで撮った作品。

ロマンチックな音楽のオープニング、主題歌はナット・キング・コール、映画の黄金時代って感じです。主演はアン・バクスター、登場する女性は三人ともブロンドでキュート。舞台劇みたいにちょっとしゃれた会話のやりとり、ほんの少し緊張感がある日常。

アン・バクスター演じるノーラが誕生日に振られて、さっそく口説いてきた画家と過ごすレストラン「ブルー・ガーディニア(青いクチナシ)」の舞台では若きナット・キング・コールがにこやかに歌っています。なんか豪華。泥酔した彼女は画家のアパートで、もうろうとしたまま抵抗して、記憶のないまま帰宅。

作品中の女性のファッションにこだわる監督は多いけど、この作品の女性たちはキュートで親しみやすいけど、常に髪をまとめてきちんと眉を描いていて、ハイヒールが似合います。電話交換手として立ち働く姿も素敵。

自分が泥酔状態で人を殺してしまったのでは?と恐れ続けるヒロインにすごく惹きつけられる・・・けど、解決に至る部分は短いしあっさりしてるし、その後あらゆるサスペンス映画を見てしまった私たちには物足りなく感じられます。。。でも、ラング監督が描きたかったのは、追い込まれるヒロイン像だと思うので、その部分の出来が素晴らしいのでやっぱり見て損はない映画だと思います。

 

フリッツ・ラング監督「無頼の谷」3463本目

今週はいつものU-NEXTをオフにして、Amazonプライムのウォッチリストに溜まった作品を片っ端から見てみます。これはディートリッヒ様がなんとフリッツ・ラングが監督した西部劇だそうです。三つ巴。ディートリッヒ&ラングというドイツ勢がアリゾナの砂漠で出会った?・・・思い返してみると、ラングはほかにも何本も西部劇を撮っている。(「西部魂」とか見たわ)彼がハリウッドに行って西部劇を撮るなかで、重要な役どころを演じられる女優として、よく知っているディートリッヒをキャスティングした、というところかな?

制作は1952年でカラー作品だけど、色あせたような赤茶っぽい色彩です。しばらくはアーサー・ケネディや地元の(設定だけど)悪い奴らが強盗したりしていて、普通~の西部劇です。ときどき歌が挿入されて(その時間はセリフや現場音なし)、歌詞でストーリーを語らせています。

床屋である言葉を口にした男に、突然となりで髭剃りをしてもらっていた男が襲いかかる場面、素晴らしくスリリングですね。拳銃を持っていたけど取り落とし、そこにあった剃刀を手にして、取っ組み合って手をついた棚の上のものを壊し、最後は外へ放り出される拍子に窓を破壊してしまう。このあたりの細かい演出の出来の良さがやっぱりフリッツ・ラング。

ディートリッヒの女友達ドリー役の女優、クレジットがないけど誰だろう。ハスキーな声で歌うように彼女について語りながらゆるやかにピアノを弾く。大人でちょっと荒れてて・・。

ディートリッヒは西部劇ではいつもだけど、全男性のアイドル、女性の敵(笑)。よく考えてみたらこのとき彼女51歳です。すごい!せいぜい30歳くらいの役どころですよ。彼女の恋人フレンチ-(「砂塵」では彼女自身がフレンチ-って名前だったので、ちょっと混乱)を演じたメル・ファーラーは当時33歳くらい。ちょっと軽くて愛嬌があって、すごく女にもてそうな男です。

その後のストーリーは、男二人とディートリッヒという三角形ができたり、それ以外の男たちは荒くれ者で結局味方じゃなかったり、という、ありがちな成り行き。この映画の見どころはやっぱり床屋の場面だな。

目を見開いて、わずかに口角を上げて、少し上目遣いで人を見るときのディートリッヒ様が誰かに似てると思ったら・・・ヤマザキマリだった。意外すぎる・・・

BJ・マクドネル監督「スタジオ666」3462本目<KINENOTE未掲載>

デイヴ・グロールが原案で、フー・ファイターズがアルバムを録音するために洋館スタジオ入りする設定のホラー映画、と聞いて、すぐに見てみることにしました。ニルヴァーナではキレキレのドラムを叩き、カート・コバーン亡き後はギター&ボーカルで自分のバンドを率いた多彩なデイヴ・グロール、その才能は音楽にとどまらなかった・・・。

スタジオの番号が666ってところがね。「シャイニング」とか好きなんだろうな。この映画のことはバンドの英語のWikipediaに少しだけ書いてあった(horror comedy filmらしい)。公開直後にメンバーの一人が亡くなったらしいけど、コメディということなので安心して?見ました。

冒頭から、すごいスプラッターぶり。亡くなったメンバー、ドラムのテイラー・ホーキンス、普通に、快活にメンバーとしてそこにいます。不吉のかけらもない。

メンバーが次々と謎の死を遂げますが、ギャグですね確かに。そしてセリフの9割はデイヴ自身だ。このバンドってずっと彼のワンマンバンドだったのかな・・・。

ストーリーは、怪しげな洋館を音楽スタジオにしたものにメンバーだけが籠って、ひたすらリハーサルをしたり録音したり議論している中で、洋館の秘密を発見してデイヴ自身が何かに取りつかれて、彼以外のメンバーが次々にひどい殺され方をする、というじつに乱暴で残虐でバカバカしいもの。デイヴの悪役っぷりはなかなかのものだし、彼以外のメンバーのそれぞれの性格も生かされているようで(ラミは女好きでちょっとスピリチュアル系、ポールは真面目でネイトはバーベキュー好き、等)、ちょっと悪趣味なファンアートをリーダー自らやっちまったような感じ。

このノリは1990年代にロック好きの人たちが見てた、悪辣な小僧たちが人をディスり続けるアニメ「ビーヴァス&バットヘッド」とかに近い気がするな。

映画としての出来はなんともいえないけど、ファンでなくても一種の音楽映画として面白く見られました。

シアン・ヘダー 監督「CODA あいのうた」3461本目

フランスのオリジナル版を見ていいなーと思って、それで満足してたんだけど、アメリカ版も評判がいいのでアマプラ無料に下りてきたところで見てみることにしました。

オリジナルでは家族の仕事は漁業じゃなくて酪農だったんだな。そしてアメリカ版のタイトルCODAはChildren of Deaf Adults。「ヤングケアラー」という含意が感じられる言葉です。

ハッピーエンドっぽいけど、このあとみんなどうするんろうな。

音楽教育を受けず、音楽活動もほとんどしたことがない”歌うま少女”が音大に行っても、クラシックの音楽性と合わなくて困ったりしないかな。アメリカの音大ならポピュラー音楽科とかあるんだろうか。(要らん心配)

家族はどうするのかな。普段の生活はともかく。兄ちゃんがすぐに結婚して奥さんが最低限サポートしてあげられたらいいけど。(これも要らん心配)

どうしても気になって「エール!」を早送りしながら見直してみたら、同じ部分もあり、タイミングだけずらしている部分もあり・・・。主役の女の子は歌手だそうで、さすが声の出方が違います。オーディションのときの選曲が「パパ、ママ」と呼びかける歌なので感動の度合いが高まっていて、私はオリジナルのほうが好きかも、と思いました。(別の映画のネタバレ的なことを書いてしまって申し訳ありません、、)

コーダ あいのうた(字幕版)

コーダ あいのうた(字幕版)

  • エミリア・ジョーンズ
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永井聡監督「キャラクター」3460本目

<ネタバレあります!>

エンドクレジットの中に「企画 川村元気」とあって納得した。この映画、キャラクター設定はいいと思うんですよ。必要以上に残虐なのも、最近の少年マンガはみんなそうだから(鬼滅の刃でさえ)驚きはない。でも、刑事が何の前触れもなくめった刺しにされて死んだり、刃渡り40センチくらいありそうな刃物で急所(肝臓とか)を刺されれば(オウムの村井みたいに)一刺しでも失血死するのに夫婦が生き延びたり、警察と同時に家に向かったのに到着する前にめった刺しにする時間があったり。いろいろ、観客の感情をコントロールするためだけの不自然なサプライズが多くて腑に落ちない。

菅田将暉はこれより後にテレビで放送された「ミステリと言う勿れ」(最近テレビドラマを見るのだ)での髪型と同じなので妙に見慣れてたけど、彼はいつも良いです。FUKASEすごく良いですね。彼の動物みたいな純真さが大人として見ると変わって見えて、いい意味ではまり役でした。

お腹の中の赤ちゃんについては、過去のある村の事件の話が出たときからわかっていたので、やっぱりなという感じ。

面白いかと言われたら面白かったけど、こんなに必然性のないストーリー運びではなぁ。

FUKASEにはもっと映画に出てほしいです。彼はほんとに面白い。

キャラクター