映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スコット・クーパー監督「アントラーズ」3578本目<KINENOTE未掲載>

ギレルモ・デル・トロが製作している作品って、どれも恐ろしくて哀しくて愛おしいという印象。この映画にもそういう部分があります。

他の作品もだけど、なかなかエグい。かなり猟奇的。親子関係が壊れている、という精神的な部分を超えて、伝説の鬼(のようなものになってしまった人間)が現れて暴れます。その鬼性は遺伝?なんらかの形で伝染するもの?

そして、鬼となってしまった人間は退治されるしかない・・・。という、やっぱり切ないお話でした。

教師と子どもの関係がもうちょっと深まったりすればよかったのにな、という気持ちもちょっと残りました。

フランク・キャプラ監督「オペラ・ハット」3577本目

ある日突然、大富豪の遺産を相続したディーズは、最近の映画にはまるで出てこない、竹を割ったようなストレートな男。自分の善悪の物差しが一本すっと通っていて、判断したことはすぐにその場で口に出す。こんな甥がいれば私も遺産を残したいです。(※遺産があれば)

キャプラ作品は本当に、セリフが最高に面白い。特に、酩酊状態で帰宅した翌朝、彼が”忠実な召使い”と交わす、木で鼻をくくったような会話。それから、この頃の映画って主役が憎たらしい奴をスコーンと殴り倒したり、ヒロインがトップニュースのために芝居を打ったりという悪いこともやるのが、今見るとけっこう新鮮。どちらも「根はいいやつで、最後にはお互いに心を開く」という大きな展開があって大団円になるのですが、今って「いや、そうは言っても」みたいな、うがった見方がわりと大勢になってしまって、素直に映画を楽しむのって難しくなってしまった気もします。この頃は、作り手が観客の受け止める力、映画の真意を理解する力を、今より信用してたんじゃないかな。

1936年のアメリカってそういう世の中だったんだな・・・。

オペラハット(字幕版)

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ロバート・バドロー 監督「ストックホルム・ケース」3576本目

人質に取られて犯人を好きになる話、それ自体は既視感がある。「悪人」とか、。そして、この映画は「ストックホルム・ケース」という事象そのものを、すごくまっすぐに真ん中に取り上げた作品だなと思う。熱くてちょっと抜けててどこか憎めない犯人にイーサン・ホーク、外国にもこんなイメージ通りの真面目な銀行員がいるのか、と思うような人質にノオミ・ラパス、コーエン兄弟の映画に犯人役で出ててもおかしくないような、もう一人の犯人がマーク・ストロング。という素晴らしくフィットしたキャスティング。よくできた作品だなぁと思うけど、驚きや意外性はあんまりなかったかな、と思いました。

 

ジェームズ・ブリッジス 監督「チャイナ・シンドローム」3575本目

1979年のアメリカ映画。アメリカは開発当初から現在に至るまで、原子力に一番詳しい国ではあるけど、こんなに昔に、原発事故をここまで正確に予測した映画があったなんて驚く。正確さにも驚くけど、これを世に出す勇気もすごい。こういう映画を作り続けられるかぎり、アメリカって国はやっぱり強いと思う。全体的におおざっぱな国や、目の前のことには緻密だけど自然や”自分が予期しなかったこと”のような責任外のことには無頓着な国で、大事故が実際に起こるんだろうか。

ジェーン・フォンダが、”かわいこちゃん”と”社会派”のはざまのような役柄。こういう役、やりたったんだろうなぁ。(ロジェ・ヴァディムとは合わなくなるはずだ)ジャック・レモンは若い頃のスクリューボールコメディ(だっけ?時代が違う?)より「ミッシング」とかの癖があって重厚な役の印象が強くて、この映画でもど真ん中でがっちりと作品を支えて、持たせています。ジェーン・フォンダ記者も、(プロデューサーでもあるけど)マイケル・ダグラスのカメラマンも、事故の外側でくるくる動き回っている役割でしかないから。

歴史から人は学ばない、なぜなら生々しく記憶できる世代はすぐにいなくなってしまうから。映画からも学ばない。当事者に近い人ほど、絵空事だと思って見ていたのかもしれない。この映画を高く評価することは、その後の人間のおろかさを際立たせてしまうことでもあるように思えます。

 

ハル・ハートリー監督「ネッド・ライフル」3574本目

サイモンが年とった。1997年の「ヘンリー・フール」から17年後の2014年の作品だからな。

ヘンリーとフェイの息子ネッドが、馴染みの牧師に感化されて敬虔に生きようとする、というのも、どこか想像通りでみょうに安心感がある。ネッドにつきまとう、賢そうだけどちょっと壊れててちょっとエロい女性スーザンが、この3部作完結作の最重要人物。

愛と敵意は紙一重。表情に感情が出てこないネッドと違って、スーザンは体全体で演技します。この女優さん、オーブリー・プラザっていうのか。印象強いなぁ。この個性を最大に生かせるような作品がそうあると思えない・・・あるとしたらホラーか・・・「チャイルドプレイ」に出てるようだけど、あの映画ではどうだったんだろう。

13歳でおっさんと恋をして、一生追っかけ続けるという人生も、あるのかもなぁと妙に納得しました。

ネッド・ライフル

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ハル・ハートリー監督「フェイ・グリム」3573本目

「ヘンリー・フール」の登場人物を使って別の作品を映画化したのかな?と思うくらいトーンが違う。サイモンもフェイも、なかなか登場しないヘンリー・フールも、あたまいい人たちみたいになってて、彼らが愛する怠惰な日常じゃなくて、国家の大義のために命を張っている。まぁパロディなんだろうけど、「レオン」に影響を受けたか、「スパイの妻」に影響を与えたか、そういうスパイアクション映画の一種になってしまっています。そうやって演技してると、フェイは知的な美しきスパイに見えてくるし、サイモンはインテリに見えてくるから面白い。

でもやっぱり、ヘンリーが書いた「告白」はただの駄文で、周囲の勘違いに巻き込まれただけ、というほうが私好みだったかも~~。

でも、続編いきます。

フェイ・グリム(字幕版)

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ハル・ハートリー監督「ヘンリー・フール」3572本目

面白かった。主役が女性ならエイドリアン・シェリー、男性だとこうなるのか。サイモンは鋭い感受性を持った男だけど教育をあまり受けていない。彼の書くものは卑猥だとか言う人もいるけど、読んだ者の心をざわつかせる。後の評価から考えるとボブ・ディランのようだけど、卑猥なものを書く低賃金肉体労働者ってところはチャールズ・ブコウスキーに近い。

このサイモンのキャラクターがいいんですよね。「ヴィヴィアン・ガールズ」を妄想したヘンリー・ダーガーとか「シュヴァルの理想宮」を立て続けたシュヴァルとも共通する、アウトサイダー・アート作家のようで。

ハル・ハートリー監督作品では、ちょっとダメでやたら変わっていて、でもどこか憎めない人たちが至極真剣に日々くらしているけど、みんなどこかからやってきて、その後どうなるかもわからない。家族だったらめちゃくちゃ腹立ちそうなやつらだけど、なんだかとても好きだ。彼らのその後が見てみたいから、続編「フェイ・グリム」も見てみようかな。評点ひくいけど。。。

ヘンリー・フール

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