映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

バーラ・ハルポヴァー 監督「SNS 少女たちの10日間」3609本目

Skypeがかかってくるときの音がトラウマになりそうだ・・・

内容は予想通り。長年、痴漢にもセクハラにもパワハラにもいろいろあってきた方だと思うけど、どんな人にも美しい面とみにくい面があって、自分より下に見ている人に対して平気でみにくい面を見せる人は多い。すごいなぁ、今の言葉を世間にさらされたらこの人どうするんだろう、と何度思ったことか。・・・でもこの映画の結末を見たら、彼らは「自分はちょっとやんちゃしただけで、赦されるべき些細なことだ」と本気で思ってるのかもしれない。ばれたら開き直るだけ。

それにしてもチェコはロリコン大国なんだろうか。それとも世界中こんなもんなのかな。唯一「脱げ」と言ってこなかったまともな男性は、そのまま会話を続けたらお互いの理解を深めて1年後にまじめな恋愛に発展して、その後二人で待ち合わせたところを警察につかまったりしないんだろうか、結局のところ未成年の誘拐と疑われるだろうから。

「日本の女性と結婚したい」という欧米男性のなかには、年齢より若く見える女性を好む人も多くて、この映画で少女たちを脅す男たちとあまり変わらない人もいるのかもしれないな。

悪におぼれる人たちって、良い行動しかしない多くの人たちの想像を超えてくる。どんな悪も(ばれなければ)自分だけは許されると思ってエスカレートする。人間の本質は変わらない。賢くなってとことん自衛しつづけるしかない。とにかくまず、いますぐそこから逃げろ。と言うしかない。

10日間で数千人の男たちが”少女たち”にコンタクトしてきたというけど、氷山の一角なんだろうな。私の家の近所にも、これを読んでくれている方の隣にも多分いるのだ。

SNS-少女たちの10日間-(字幕版)

 

小谷承靖 監督「ピンクレディーの活動大写真」3608本目

アカデミー賞に背を向けるかのように「サザエさん」に続いてピンクレディと昭和にさかのぼってみる。

1976年にデビューしたわずか2年後、1978年12月公開の映画初作品。すでに「ペッパー警部」「SOS」「カルメン77」「渚のシンドバッド」「ウォンテッド」「UFO」「サウスポー」「モンスター」「透明人間」と大ヒットが続いたところ、つまり全盛期。

劇中、あまり脈絡なくステージ衣装で楽曲を歌う場面が次々に出てくるなかで、「サウスポー」ではすごく小さいセパレーツの、ラメだらけのブラとトランクスで野球をするっていうのが、あまりにも露出しすぎでなんか変なかんじ。

それにしても、このとき20歳くらいのミーとケイ、よく声が通るしダンスはキレッキレ。ジャストカウントで動くミーと、食い気味に先走って踊るケイ、懐かしいなぁ。韓流の歌って踊れるアイドルなんて足元にも及ばない巨大アイドルでした。

劇中劇(1)でミーとケイは仲良し姉妹。ミーは妹でOL、ケイは姉で看護師。二人どういうわけか同時に同じ男性に恋をするんだけど、これが田中健なんだな。姉妹げんかのセリフが漫才みたいにベタで、落ちがない・・・。田中邦衛や石立鉄男、秋野大作がギャグドラマをつないでいく感じも昭和のテレビ感が強い。

劇中劇(2)ではピンクの大きな着ぐるみが出てきてサーカスでモンスターと呼ばれます。この曲はマイケル・ジャクソンの「スリラー」のパクリかなと思ったら、スリラーは1982年なのでパクったとすればマイケルのほうか(笑)。このピンクのモンスター、サーカスで芸をやらせようとするのも今ではアウトだし、いろいろと何から何まで突っ込みどころばかり。そいつが本当はモンスターじゃなくてエイリアンで、UFOに乗ったらピンクレディは透明人間になってしまう。もはや三題噺の羅列みたいになっています。テレビだ、これは。ただ、宇宙船だのなんだののセットはけっこうよく作ってあって、昭和の豊かさを感じます。ちゃちくない。

劇中劇(3)はウエスタン。”西部劇の歌姫”ドレス姿かわいい。ヒーローは岡本富士太です。途中からカウガールスタイル、そしてまたドレス。西部の荒くれものの中に、なぜか大林亘彦。なるほど、どうりでとことんデタラメだったんだ・・・(一部演出してたみたいですよ)

だいいちタイトルの「活動大写真」っていうのが、製作者たちの戦前のセンスです。そしてターゲットは子どもなんだろうな。当時映画館かテレビでこれを見てたら、くだらないけど楽しいって思ったんじゃないかと思います。昭和のアイドル文化をフィルムに残した功績は認めてあげたい・・・。

 

青柳信雄 監督「サザエさん」3607本目

1956年公開、江利チエミを主役に作られた実写版のサザエさん。面白かったー。サービス精神旺盛な娯楽映画です。

江利チエミ、屈託なくおっちょこちょいのキャラクターがぴったりです。このキャラだと母フネ(きれいだなと思ったら清川虹子!)が口うるさくなるのも無理はない。父波平(表札は「松之助」。演じてるのは藤原釜足)もアニメそっくり・・・。カツオは坊主じゃないけどキャラ通りで、ワカメちゃんは松島トモ子だ。

原作ではマスオさんとはお見合い結婚らしいけど、この映画ではサザエさんが就職しようとして、職場(の隣のオフィス)で知り合うという設定。若かりし小泉博がメガネなしで登場するので、私たちから見るとマスオさんというより「どこかのイケメン」って感じ。サザエさんが一目ぼれするのも無理はない。

「ジャズ」歌手の江利チエミが主演なので、サザエさんがジャズ歌手を夢見る場面が何度か出てきます。しかし歌っているのは明らかにラテン音楽。メキシコっぽいドレスでスペイン語の歌を華やかに歌い踊る彼女はとっても素敵。コーラスにダーク・ダックス。江利チエミもダークの3人ももう故人かぁ。

髪型は前髪と、左右の横~後ろの髪をそれぞれグリグリに巻き上げてるみたいですね。違和感ありません。「巻き」が頭にフィットしてきっちりまとまっているからかな。アニメやマンガだけ見ると、わりと無造作なおだんごヘアに見えるけど、実際はかなりきっちりセットしたプリンセスみたいな頭でした。これをセットできるサザエさんは意外と几帳面か??

サザエさん

サザエさん

  • 江利チエミ
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片山慎三 監督「さがす」3606本目

この映画と「空白」がダブって見えて(伊藤蒼=伊藤蒼、古田新太≒佐藤二朗)、なかなかこちらを見るに至らなかったんだけど、やっと見ました。あっちは父が娘の軌跡を追い求め、こっちでは娘が父を探す。

死しか見えなくなった人たちの行きつく先って、もう本当に他にはないのかな。とか、探さない方がいいことがあったとしても、我慢できずに探してしまうもんだ、人間って。とか、しんみりと考えてしまう作品でした。

さがす

さがす

  • 佐藤二朗
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クラレンス・G・バッジャー 監督「あれ(IT)」3605本目

ITといってもピエロの恰好をした怖いやつではありません。「バビロン」を見たので、探してこれも見てみました。今から100年近く前に作られたなんて信じられないくらい、ストーリーもカメラワークも洗練されていて、とっても面白かったです。

クララ・ボウ演じるベティは、ひたすら元気で無邪気で勢いのあるデパートガール。今見てもすごくチャーミングで、その魅力を「あれ(IT)」と呼ぶなら、現代でも完全に通用します。比べるものでもないだろうけど、若い頃の高峰秀子とかドイツ時代のマレーネ・ディートリッヒみたいな、アイドル的な魅力。

キャラクター「ベティちゃん」のモデルが彼女だと言われても「つばさ」ではあまりピンとこなかったけど、この映画のクララ・ボウは役名がそもそもベティだし、見た目も「ベティちゃん」そっくり。くりんくりんとした短い髪、とろんとした大きなタレ目、すねたようにとがらせた真っ赤な唇。セクシーというより無邪気に見えるけど、セットの外では酒池肉林を繰り広げてたんだろうか、もはや確かめようがないなぁ・・・。彼女が酒場のカウンターの上で踊ったり涙を流したりする場面は、デビュー作とかに本当にあるんだろうか。YouTubeで何本か流して見てみたけど、見つけられませんでした。

ベティ・ブープのモデルとしてはヘレン・ケインという歌手のほうが知られていることもネットで知りました。ベティ・ブープは歌手という設定だし、ヘレン・ケインの歌を当ててたらしいので関連は確実にあったみたいですね。いろんな女性のいいとこどりで作ったのかも・・・これももはや、調べようがなさそうです。

しかし、源流をたどってみても、この頃のハリウッド映画ってほんとうに清潔で耽美的当時のハリウッドの「影」の部分なんてひとかけらも見つからなくて、不思議な気持ちです。影があるから光の部分はこれほど輝くのかな。でも見てみて満足しました。

デイミアン・チャゼル 監督「バビロン」3604本目

〈若干、結末にもふれています〉

映画館で見ておくべき!という声をちらほら見て行ってきました。20:30開始、終わったら午前0時の歌舞伎町・・・席もけっこう埋まってたし、そんな時間でも街に人があふれてて、コロナ心配だけどその活気が嬉しく思えてしまいました。

で、「バビロン」。下品だという人もいたけど、汚いものを扱いながら品のある作品だなと思いました。荒唐無稽を愛する品性高い人たちが作った作品。アジア系やアフリカ系の役者さんが比較的自然な形で出てたりするあたりが、現代の良識あるハリウッドってかんじ。1915年の「国民の創生」よりクララ・ボウが活躍した1920年代は少し後だけど、ミュージシャンの顏に墨を塗る以上の差別的扱いが当時はもっとあったんじゃないのかな?でも人種差別だけがポイントではないので、そこだけにフォーカスしないで、制作現場のさまざまな苦労や死をからめて総合的に当時の現場のひどさを描いたのかな。

この映画を作ったチャゼル監督の気持ちを想像してみる。「セッション」「ラ・ラ・ランド」「ファーストマン」ときて今回も、世界の頂点に立つスターの目が覚めるような輝きと、泥にまみれるような裏側、という、極端な光と影を描いたことは理解しました。

監督の映画に対する思いが強いことはわかるけど、闇にかなりフォーカスしてるところが「ニューシネマパラダイス」や「フェリーニのアマルコルド」と違う。酒池肉林を描いてもバズ・ラーマンとは違う。栄光の影に大混乱があって踏みつけられた人たちがいて、恐ろしいところだハリウッドは、だから気が狂いそうなくらい強烈に惹かれる、ということを見せてくれた。蜜と毒。

それにしても「イントレランス」みたいに膨大な出演者の数。ブラッド・ピットはだんだんマーロン・ブランドみたいになってきた。マーゴット・ロビーは何にでもなりきるので大好きなんだけど、この作品でも期待を裏切りません。それよりマニーことマヌエルを演じたディエゴ・カルヴァがすごく良かった。若い頃のアントニオ・バンデラスみたいな、見開いた黒目がちな瞳と、呆けたように開けた口。彼の表情で魅了、恐怖、感慨、などさまざまな場面が語られた作品になりました。

結末はアンチクライマックスではあるけど、収まるところに収まったという気もします。ネリーは彼女を型にはめようとする男とは、いくら愛されていてもやっていけないだろうなと思ったけど、実際のクララ・ボウは結婚して静かに郊外で暮らしたらしい。(性に合わなかったかもしれないけど)

以下、役者さんたちについて。

トビー・マグワイアは「サイダーハウス・ルール」や「華麗なるギャツビー」では傍観者の役だったので、この作品でもそうなるかと思ったらとんでもない怪演でしたね。こんなイカレた奴が出てきたらもう八つ裂きにされても仕方ない、みたいな、カタストロフィを予感というより期待させる役どころを嬉々として演じてて、怖いけど楽しかった。

中国系のミステリアスな女性を演じたリー・ジュン・リーのモデルはアメリカ初の中国系スターとなったアンナ・メイ・ウォンという女優さんなんだな。一方で、レッチリのフリーに似た演技のうまい中年の俳優がいると思ったらまさかの本物じゃないですか!ステージでいつもネリーより弾ける満身タトゥーの彼が、破天荒な役者たちをいさめる重役を演じるなんて思ってなかったので、歯並びで確認するまでずっと半信半疑でした。なかなかやるなぁ。

クララ・ボウの映画は「つばさ」しか見たことないので、YouTubeで「It」も探して見てみよう(著作権切れてるので大丈夫)。この映画を見ないと、「バビロン」の映画体験は完成しないような気がする・・・。

ジャック・オディアール 監督「パリ13区」3603本目

「ディーパンの闘い」「ゴールデンリバー(見たのになぜか感想書いてなかった)」の監督なら、タッチは軽めでもかなりシリアスな問題を取り上げてるんじゃないかな?と思ってしまうけど、ちょっぴりクセのある群像劇としてサラっと見てしまいました。

舞台はパリだけど、中心となるエミリーは台湾系で、彼女のルームメイトになるカミーユは女性みたいな名前だけどアフリカ系の男性。カミーユと不動産会社で同僚となる女性ノラは、ちょっとはじけたつもりで挑発的な服装と金髪ボブのかつらで踊りに行ったら、セクシー・ユーチューバーと間違えられて大学にいづらくなってしまう。けっこうみんないろいろ抱えています。でも、自分自身に忠実に生きようとしていて、そこに惹かれてしまいます。

この映画をどう捉えるかは、よくわからない。でも見終わると、彼らのことがちょっと好きになっている。そんな作品です。

不思議だけど、「早春」って昔の映画を思い出してました。岸恵子が”ズベ公のキンギョ”って呼ばれてる群像劇。「パリ13区」のエミリーは自分勝手でかなりユニークだけど、1956年の日本は今よりよっぽど自由で、今のパリに通じそうな人間関係があったようになんとなく感じています。

はじけた金髪のカツラで人生を棒に振った女性を演じたノエミ・メルランは「燃ゆる女の肖像」の画家だ。この映画で見るとちょっとクリステン・スチュワートに似てる?

パリ13区って移民が多く住む、活気のある再開発エリアらしい。東京でいえばどの辺だろう。移民が多くて活気があっても再開発されてない大久保とは多分違う。ニューヨークならブルックリンとかだろうけど、日本にはないんだろうな、きっと、もう。

パリ13区 R-18版(字幕版)

パリ13区 R-18版(字幕版)

  • ルーシー・チャン
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