映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

バーバラ・ローデン 監督「WANDA ワンダ」3728本目

なるほど。全然”名作”ではないけど、なんかすごくいい。私は、こういうどこかボーっとした人のいい女性が大好きなんだ。なんでだろう?と考えてみたら、私なら肩ひじ張って、バカじゃない振りをしたり、バカだと思われないように努力したり、そういうセコイ計算で渡ってしまう世の中を、素のまま平気で流れていける彼女たちがたくましく健康に見えるから、かも。私がもしワンダと友達だったら、ぱっと見、私が彼女にあれこれ世話を焼いて親切にしているように見えるけど、本当はワンダのほうが肝が据わっている、みたいな関係になりそう。

ワンダがハル・ハートリー監督作品の中のエイドリアン・シェリーに見える。失敗ばっかりしてる女たちに、ろくでもない事件ばかり起こる。きっと影響受けたんだろうな?そういえばエイドリアン・シェリー自身が監督した作品「ウェイトレス」も見たな。彼女も1作だけで若くして亡くなってしまった。なんか、大成できなかった彼女たちがいとしいです。

 

スティーブン・スピルバーグ監督「ジョーズ」3727本目

<結末に触れてますが、昔の作品だからいいよね?>

U-NEXTで「ハリウッド映画の一世紀」っていうドキュメンタリーシリーズを配信していて、~1950年代、60年代、70年代、80年代、90年代、2000年以降という6回に分かれているのですが、これが映画好きの魂に響く素晴らしいシリーズなんですよ。監督や主演俳優が多数インタビューに応じていて、見ていると「そうだよねそうだよね、ああやっぱり彼らもこの監督、この俳優が好きなんだ、あの映画にシビれたんだ」といった共感で胸がいっぱいになって、昔見た名作を改めて見直したくなるのです。これ、U-NEXT加入してる映画好き全員に見てほしい。なんならこれを見るために、30日間無料体験やってほしい。(回しものじゃないですよ!)

スピルバーグの出世作がどれほど卓越していたか?1975年っていったら、私好みのB級低予算ホラー映画や「タワーリングインフェルノ」みたいなパニック映画がたくさん作られた時代。当時、怖そうなので映画館には行けなかったけど、何度もテレビで放送されたのを見て震えた記憶があります。

冒頭から、さすがユニバーサル、タイトルのフォントや配置は当時っぽくあまりにもシンプルだけど、画面が締まっていて隙がありません。主役の(「オール・ザット・ジャズ」の)警察署長ブロディをスマートなロイ・シャイダーが演じている、というのが大きいですね。

血は流れるけど、スプラッターではなく残酷描写もない。その辺もスマート。危機感のないお偉方や一般市民、二人目の犠牲者。すっと場面は変わって対策会議室・・・といった場面転換もスマート。

危ない!いや大丈夫。危ない!さらに危ない!どうやら大丈夫。・・・緩急つけますね~。ただ、私の場合、その後サメとの大決闘に至るまでの流れがちょっぴり退屈にも感じられてしまったのは、その後もっと思う存分やりきったスピルバーグ作品をたくさん見てしまったからかな?

警察署長、荒くれ者の海男、海洋学者の3人対巨大ザメの大決闘の場面、息をのむ迫力だけど、今見るとサメのハリボテ感がぬぐえないのと、そもそも逃げればいいサメがなんでこんなにしつこく攻撃してくるのか、という理由が薄くて(最近の映画では動機が丁寧に描かれるものが多いので)逃げてくれサメ、という気持ちになって見てしまいました。(ああ、なんて嫌な観客)

この作品、「白鯨」であれば死闘の末に勝つ”海の男”が、ここでは身勝手な闘争心で結局は身を滅ぼして、知性派の警官と海洋学者が生き延びる点も興味深い。これがやがて、○○が生き残る「エイリアン」などの作品へとつながっていくのかな。(さすがに、何の関連もない作品の結末をそのまま書くのはためらってしまった)

「タワーリング・インフェルノ」みたいに俳優を”見に”行く作品じゃないんですよね。テーマパークの体験アドベンチャーみたいに、出演者と一体化して叫んだり笑ったりする作品。その辺の巻き込み方が、スピルバーグは圧倒的なんだな。

面白かったです。

イエジー・スコリモフスキ監督「EO」3726本目

「11ミニッツ」が”犬死に”を描いた不思議な映画として強烈な印象を残したスコリモフスキ監督。今度はロバ??ロバってすごく可愛いけど、どうもちょっとおまぬけなイメージがあります。この子を彼はどうしようというのか。「バルタザールどこへ行く」で泣いた、とあるので、動物愛にあふれた作品であることは間違いなさそうです。

EOくんは”かわいそうなサーカスのロバ”だったのが解放されて、あちこちにふらふら出かけて人間のろくでもない営みを目撃する。ユペールせんぱい演じるカルトにつかまって逃げ出したのはいいけど、なぜか肉牛と思われる群れの中に取り込まれてしまい、また囲い込まれる運命に。

サーカスの動物は本当にかわいそうなのか?外で暮らすようになったら何が起きるのか?という疑問から想像をふくらませた映画なのかな。

ものごとの因果関係を想像できるのは人間だけらしい。(類人猿のごく一部の個体もこの能力を持つらしいけど)バルタザールもEOも、おそらく「今」だけを考えて一生懸命に生きてるんだろう。

ロバは可愛いし、なんとなく物悲しいけど、いまひとつこの映画の趣旨がストレートには迫ってこなかったです。。。この監督の作品はいつもちょっと難しいな。

ピエール・エテックス監督「恋する男(旧題:女はコワイです)」3725本目

この監督の「ヨーヨー」を先に見たんだけど、パリのしゃれっ気あふれる素敵な作品でした。可愛くて可笑しくて優しくて。この作品も、成長した少年がまだうまく大人の男になりきれず、失敗ばかりするのが愉快です。

とにかく、世界中の女子が憧れる華麗なパリの夜の社交の世界が、これでもかというほど映画全体にわたって繰り広げられます。監督自身の見事なジャグリングを含むサーカスの場面も素敵。ちょっと切ない、幼い頃の憧れが詰まった作品ですね。日本で1963年にこの映画を見た人たちも、この華麗さやどこか郷愁をさそうおかしみに夢中になったんじゃないか?

この監督の作品をふたたび世に出そうと、フランス屈指の映画監督たちが動いたのも、わかる。小さい頃にこの映画を見たりしたら、一生心に残って、ときどき見直したくなると思う。ストーリーもいいんだけど、音を消して別の好きな音楽でも流しながら、彼が歌手にみとれてコーヒーやトーストをめちゃくちゃにする場面とか延々と見ていたい。

一連のフランスの可愛くておしゃれな映画に連なる作品だけど、ファッションを中心にした映画としても見たくなる。(私は自分ではユニクロとか着てるくせに、ファッションデザイナーのドキュメンタリーを見るのもめちゃくちゃ好きなのだ)

うん。いいもの見せていただきました。

ダーレン・アロノフスキー監督「レクイエム・フォー・ドリーム」3724本目

教習所で見せる事故映像のように、この映画(ダイジェストでいいから)をすべての高校生とかに見せたら、好奇心で薬物に手を出す人が激減するのでは・・・(具合が悪くなって保健室に駆けこむ人もいそう)。副題「ダメ!ゼッタイ」、としたい。

そんな中毒映像が続きますが、見慣れてる気もするのは多分、「マルホランド・ドライブ」や「ツインピークス」の見すぎか。デイヴィッド・リンチ監督の作品には絶対出てこない、警察や救急といった正気の人たちが出てくると、ホッとしますね・・・。

青くて丸い目、イノセントな印象のジャレッド・レト(ジム・キャリーかと思う)と、傷つきやすい美少女のおもかげがまだあるジェニファー・コネリー(トップガンではすっかり貫禄を見せてくれた)の二人は、若くて欲が強く、そのために落ちていくけど、母エレン・バーンスタインはやせる薬を医師に処方してもらっただけだ。見栄はあるけど誰でもやってること。ドラッグストアやネット広告で見た「これで痩せられる!」という効果のないお茶やサプリを買うのと変わらない。あの人たちは医師に扮したにせものなのかな。それとも悪徳医師?

ああいうクスリは日本ではそれほど簡単に手に入らないから大丈夫・・・と思ったらそうでもないらしい。若いお嬢さんは、知らない人と飲みに行くときは、どうぞ気をつけてください。。。

 

ピエール・エテックス監督「ヨーヨー」3723本目

すごく美的にこだわった作品ですね。たのしく、うつくしく、ちょっと切なく、完成度が高い。ジャック・タチを思い出すなと思ったら、実際エテックス監督はジャック・タチのスタッフだったんだ。この作品の権利関係をクリアして再発するための運動には、ゴダールやレオス・カラックスのほかにミシェル・ゴンドリーも加わったというのも納得。フランスのロマンチックできれいな映画の系譜、全部好きです。

なにがジャック・タチ的かというと、どこか寓話っぽいコメディで、主役(エテックス自身)が不愛想、練りに練った動き、言葉にあまり頼らないストーリー、絵としての完成度の高さ、とかですかね。

目に留まったところ:

・ずっとさまざまな演奏で流れるテーマ曲のほかに、音で目立つのは調度品や食器、いろんなものがぶつかったり、ドアがきしんだりするノイズ。こういうのにこだわるんだ。

・物のこまかい部分の繊細な動きを追う映像が多い。面白いけど、ストーリーと無関係なディテールがすごく多いので、意外と見ていて疲れる。で、疲れた頃に筋が動くので、全然筋が追えなくて3回見てしまった。最後は2倍速です。ふしぎと2倍速でも情感あふれる映画として成立してる気がしました。

・犬!主が大富豪のときはリムジンでお散歩したり、甘やかされてたけど、主が小さいサーカスの興行主になったら見事な芸をこなしてて、なんて賢い子なの。

・きらびやかなもの、美しいものが好きで、戦争が嫌い。ヨーヨーは両親を喜ばせるつもりで豪邸を復旧したけど、両親が望んでいないことがわかったので、さっと豪邸を棄てて象に乗って出ていく。一番好きなのは家族とサーカス。

TOHOシネマズの劇場内動画でいつも最後に「夢のある、映画の世界をお楽しみください」って言うのが、昔のキネマみたいでちょっとレトロだな、でもこれから見るのホロコーストの映画なんだけど、など思ってたものでしたが、この映画とかはそういう演出がぴったりな「夢のある映画の世界」だなと思います。エテックス監督が愛するサーカスもそういうクラシックな夢の世界ですよね。

これは確かに復刻すべき名作だなと思いました。

ソフィア・コッポラ監督「ロスト・イン・トランスレーション」3722本目

日本に住んでいる外国人の友人が遊びに来ていたんだけど、このあとニューヨーク・バーに行くというので予習(?)として、一緒にこの映画を見てみました。楽しい酒になってくれるといいんだけど。

外国人としてこの映画を見るとどんな気分なのか聞いてみたら、すごくわかる部分もあるけど、自分ならもっと昼間のアクティビティに参加して楽しく過ごすと言ってました。この映画のなかのスカーレット・ヨハンソンはあまりにも主体性がない、と。

私自身の3回目の感想は、「これコメディだなぁ」。その後のコッポラ監督の作品に比べて、おかしな人ばかり出てくるし、主役の二人は孤独をかみしめているけど、彼らには戻る場所があって何も絶望的ではない。(いや、日本人として、欧米人に対する態度を反省してみるべきなんだろうか)

友人がニューヨーク・バーで失礼な日本人にからまれて嫌な思いとかしないといいな、既婚の中年男に口説かれたりしないといいな、などいろいろ心配しています・・・(私は行きませんよ、もうそういう夜遊びをしてみたい年頃は何十年も前に終わりました。。。)