映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

オリヴァー・ハーマナス 監督「生きる Living」3774本目

「生きる」といえば、黒澤明より前に、ブランコの志村喬の「ゴンドラの唄」だ。あの場面をビル・ナイに置き換えた写真を思い浮かべながら、ちょっと半信半疑でやっと見てみました。

感想:よかった。静かに切なく、頬を流れる涙のように温かい作品でした。(表現がセンチメンタルすぎ)でも「生きる」ってこんな映画だっけ?見たのは映画ブログを始める何年も前なのであまり記憶がないけど、公園を作るために奔走する場面が長かったような気がする。この映画では、ウィリアムズはミス・ハリスとの会話のあと、職場に元気に戻って…もう次の場面あたりが葬儀だ。その間のことは回想として飛び飛びに語られる。早くオリジナルも見直さなければ。

ビル・ナイはほんとうまいし素晴らしいですね。役所広司的。彼の歌は「ラブ・アクチュアリー」のクリスマスソングを思い出すけど、歌もまたいいです。堅い役人にしては歌がうまくないか?そこが志村喬との違いだなぁ。

役所に合わない若い娘エイミー・ルー・ウッド、彼女も素敵です。この後、きっと口うるさいお母さんとかイヤミなおばさんとかの役柄で頭角を現しそうな気がする…。

若い新人アレックス・シャープ、誰だっけと思ったら、パーティで女の子に話しかけようとしてたあの少年だ。シカゴ7裁判にも出てたようだけど、エディ・レッドメインのほかはサシャ・バロン・コーエンが濃すぎて印象が…。

オリジナルではあだなが「ミイラ」なのね。ゾンビは1953年当時には言われても「?」というくらいの普及度と描かれてるけど、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」も1960年代だもんな…。

そもそも黒澤映画って、太い筆を使って濃い墨で描いたような圧迫感があって、リメイクするからにはそれとは違うものを作るのが当然、だいいち舞台がロンドンなので、熱さを感じさせない役人たちが登場するのも当然。余命を悟ったあとに人は何を思いどういう行動をとるのか?というのは普遍的なテーマなので、もっと他の国々のバージョンも見てみたい気がしてきました。

生きる LIVING

生きる LIVING

  • ビル・ナイ
Amazon

 

山崎貴監督「ゴジラ-1.0」3773本目

アマプラ無料で見られました。映像効果で受賞した作品だけど、この監督や吉岡秀隆と私はあまり相性がよくないので、家でおずおずと見てみます。

ゴジラと戦うことと、戦争で戦うことは、全然違うと思う。戦争は、命より大事なものがあると誤解してしまった大人たちの大きなケンカで、ゴジラは戦争などやっていたおかげで生まれてしまった、狂暴で哀れな大きい恐竜のようなものだ。それと、ゴジラと戦う日本人たちが、なんか”悪と戦う人たち”みたいで、かっこ良すぎてちょっと嫌だ。映像効果も、なんかリアルでうわーと思ったけど、今までのゴジラ映画より格段にものすごい、とは感じなかった。

自爆攻撃の場面は、アメリカ人ももうあれを見ても911を思い出さなくなったのかな。

ゴジラ-1.0

ゴジラ-1.0

  • 神木隆之介
Amazon

 

ダーレン・アロノフスキー監督「ザ・ホエール」3772本目

面白かった。よくまとめられていて無駄がなくて、いかにも戯曲が原作という感じがします。アパートの一室という一か所だけが舞台で、さまざまな人々が彼の住む部屋を次々に訪れる。オンライン授業で顔も出さず、誰にも知られることのない彼の隠れる部屋に、どうやってみんなたどり着くんだろう?閉じられているようで、実は開かれている彼の部屋。

ピザ屋は呼べば来る、「ニューライフ」という新興宗教の若い宣教師は呼ばなくても来る、10年間会っていない娘も呼んだら来る、その母つまり元妻は娘を追って呼ばないのに来る。ニューライフとのたまたまのつながり、若い宣教師のエピソードなど、部屋の中で物語を展開するために必要な偶然が多くて舞台っぽいなぁと思うし、鼻っ柱の強い秀才(で不良)の娘が、なんだかんだ言いながら関わってくる態度も、余命わずかと知らずにやっているとしたら不自然なくらい濃いけど、鯨のような父チャーリーの人間性を際立たせるためなら納得できる。

この話、前世紀なら、執行が1週間後に迫った死刑囚の独房が舞台になるだろうか。がんでなく肥満による疾病が死因なのはどうしてだろう。彼が自分に対する罰や罪の意識を着込んで着込んでいまの体形になった、という表現なんだろうか。

なぜ主役はブレンダン・フレイザーになったのか、と考えると、彼の青い無垢な目が大事なのかなと思う。大きな着ぐるみを着ていても、どこか素直で愛嬌を感じさせる顔。

主人公のボリューム感とは逆に、テンポよく軽妙に見られて、ひとの生死にかかわる重さを感じさせないまま最後まで見ることができました。

園子温監督「0cm4」3771本目

園監督の映画を片っ端から見てた時期があって、これを渋谷TSUTAYAのレアものDVDコーナーで何回も探したけど、常に貸し出し中だったっけ。10年ちょっと前か、映画を集中して見始めた時期。渋谷でもはDVDの扱いをとうとう止めるんですってね。その前に新宿TSUTAYAが止めたし、私もDISCUSをやめてU-NEXTばかり見てる。DVDをプレスしたりジャケットの色合わせや校正をして印刷したりするのって、まとめてやらないといけないので在庫管理大変なんですよね。VODはとても便利だけど、大昔の出演者とかに改めて許諾とるのってものすごく大変だろうな。

この作品、色あせた昭和の頃の写真みたいな映像だと思ったら、永瀬正敏演じる主人公が色覚障がいという設定なのね。園子温にしてはスタイリッシュっぽい映像だと思ったら、ファッションデザイナーのショーのために作った映像なのか。永瀬が若い。今30そこそこの新進気鋭の若手俳優たちは、60歳になったときどんな面構えになってるか、楽しみな気がしてきます。

MVくらいのボリューム感の作品で、映画として感想を書くのはちょっと合わない気がするけど、なんとなく勢いばかりがあった2000年代をちょっと思い出せました。

ダニー・フィリッポウ 監督「トーク・トゥ・ミー」3770本目

オーストラリア版「コックリさん」か。オーストラリアの若者は、こんな恐ろしい体験を純粋に楽しめるほどみんな精神が図太いのかしら。(いやフィクションでしょう)

この映画の怖さは、人間が霊あるいは狂気に取りつかれると、どうなってしまうか、という部分なのかな。どんな恐ろしい他人に出会って被害を受けることより、自分が怨みを残して死んで悪霊になることのほうが、世界でいちばん、何より怖い。生きても地獄、死んでも地獄。この映画はその怖さを端的に描いたものかな、という気がします。テンポが良くてパキッと短く終わるのは良いですね。MVやCM出身の監督は、こういうキレのいい映像を作るなと思います。いい部分もあるけど、大きく膨らまないうちに終わってしまった感じもあるので、次回作に期待します!

渡辺一貴 監督「岸辺露伴ルーヴルへ行く」3769本目

「世界で最も黒い黒」って、実際に追求している人たちがいるのだ。むかし三鷹光器という会社を取材したとき、スペースシャトルに搭載する望遠鏡の内側に、彼らが開発した、炭を使った塗料を塗ると、完全な漆黒に近い闇を作ることができて、宇宙の光をもれなくキャッチできる・・・か何か。でもそれと、心底おそろしい「サトゥリヌス」などを含むゴヤの「黒い絵」や中野京子「怖い絵」を連想させる絵画を結び付けたのが新鮮。ジョジョはほとんど読んだことないけど、面白い感覚の人だなぁ。

ぼーっとテレビを見てたら「動かない」シリーズ9作目をやっててちょっと気になったので、まずこれを見てみます。(ドラマの他の回も見てみよう)

NHKドラマ→映画化。ルーヴル。荒木飛呂彦。なんかつながってくるな。この人NHKの「日曜美術館」に何度も出てるんですよ。よっぽど美術好きなのかと思ってたけど、このシリーズでも関係性があったんだな。NHKは4Kでルーヴルの内部を撮ったりして以前から縁があるので、やりやすかったんじゃないだろうか。

そしてこの映画は、「スパイの妻」と同様、まずNHK(4K)で先行放送してからの劇場公開か。そうするとこれはNHK番組の二次使用(多分同一ではなくほんの少しどこか変えてある)という形で二次使用料が入るし、そもそも製作委員会にエンタメ系の関連団体「NHKエンタープライズ」が入っていて実質そこが映画版も製作しているので、この作品ではだいぶ副次収入が上がっただろうな。このお金は、不払いも多い受信料を補って番組制作の原資になるし、TVドラマのままではいくら面白いものを作っても海外で見てくれる層が薄いので、このやり方は私は賛成です。

さて,、中身の話。ドラマ9話、毒ばっかり食べさすイタリアンやアワビ密漁の話はなかなかテンポよくて面白かったけど、この映画はちょっと間が多いですね。ちゃんと(いい意味で)おおげさな演出なんだけど、なぜかTV版より没入感がうすい・・・。題材のせいもあるだろうけど、うちのテレビは全体的に画面が暗くて細部が良く見えないのだ・・・。テーマは面白いけど、毒料理のほうがエンタメ性高かったかな。

ドラマシリーズも見てみます。

 

ブレント・ウィルソン 監督「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」3768本目

これまだ見てなかった。ビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」は、ポップ・ミュージック歴代名曲ベストテンに入るくらいの名曲だと思ってます。短い曲のなかに、理屈でなく感覚だけに訴える緩急が詰め込まれていて、今でも聴くたびに鳥肌が立つ。ブライアン・ウィルソンはまさに天才だと思う。映画はこの曲から始まります。

ポップさで同様にベストテンに入りそうな「カリフォルニア・ガールズ」なんて、エディ・ヴァン・ヘイレンだって歌ったしレニングラード・カウボーイズ+ソビエト赤軍合唱団も歌ったくらいで、この映画のブルース・スプリングスティーンの言葉では「彼がカリフォルニアを再定義した」ことであの曲が明るく楽しいアメリカの象徴となったのは事実。多幸感があって、曲が終わるまでの時間が天国みたいに思える。冒頭がウエスタンだと本人がこの映画で言っているのを聞いて初めて、全くその通りだと気づきました。イントロだけ聞くと、駅馬車がゆるゆると走ってきそう。

最初に聞いたとき、なんて音程のいい人たちだ、ということと、複雑なコードを使った和音の美しさに驚いた。この映画では、ブライアンの人生の苦難だけじゃなくて、音楽的に何がどうすごいのか、彼が今いかに幸せに音楽をやり続けているか、も語ってくれているのが、すごくいい。悲しく切ないドキュメンタリーじゃない。

ビーチ・ボーイズを聴いていると、遠くなった自分の青春を思って泣ける、と語った人もいた。それもわかるな。小さい頃憧れたけど結局実現しなかった、素敵なビーチの夏・・・なんていうのも、ある意味遠くて泣ける。ほんとに、この人がこの世に生まれてきて、マジックの込められた楽曲をたくさん作ってくれて、今もやり続けてくれてありがとう、と語る人たちに私も加わりたいです。ブラボーでした。