映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

原廣利 監督「帰ってきたあぶない刑事」3858本目

舘ひろしも柴田恭兵も70代。さすがにおじいさん感ありますが、立ち姿も身のこなしも相変わらずカッコいい。何を食ってたらこんな70代になれるのか。いや食べ物だけじゃなくて、たゆまぬ自己研鑽というか、オフィスワークとかしないで毎日ジムに通うとかしてないとこれは保てないだろうなぁ。

昔つきあってた女性の娘、「俺の娘かもしれない」土屋太鳳29歳と並んでも、色っぽい構図になります。”無理があるよ”という意見の人もいるでしょうが、これはひたすらアウトローでカッコいい刑事たちというファンタジーなので、こんなにカッコいい老人が存在すると思って、この世界にひたって楽しむのが正解じゃないかと思います。

その一方で、三枚目的にはじけすぎている浅野温子。この作品の初代”マドンナ”(私も語彙が古いな)だったんじゃなかったっけ?

ニュージーランドで探偵事務所をやってたけど、警官を殴って横浜に逆戻り・・・というのも、このシリーズでは自然な流れ。悪役をつとめる早乙女太一もとっても良いですね。彼は若い頃から、ういういしさがなくて、紛争地域出身の若者みたいに大人だった。この映画の中でも、こんな若い悪の総裁が存在するかも、と思わせるたたずまいです。

警察署(湾岸署だと思っていた)の中に柳葉敏郎を探してしまったのは、どこかで「踊る大捜査線」と混同してるからですね。こっちの方が10年も古いんだけど。両方好きだったな~~。仲村トオルも杉本哲太も(この二人はまだ50代)安定の演技。しかし木の実ナナはもういない…。こういう映画は撮れるときに撮らないともう作れなくなっちゃうから…。

この続編はさすがにもう無理かなぁ。最後にちょっとしんみり。

 

「第2回日本ホラー映画大賞受賞作品」3857本目<KINENOTE未掲載>

第2回作品も、さっそく見てみました。

 『絶叫する家』比嘉光太郎
シンプル。小ネタとしていいと思います。

『笑顔の町』小泉雄也
空き家を占拠しているホームレスをいたぶった若者たちに、笑顔の逆襲。暴力や殺戮より笑顔が怖い?

『The View』中野滉人
第1回も同じ部屋の中で撮ってた。低予算というより、5歩四方くらいの低面積作品だ!アイデア勝ち。

『NEW GENERATION/新世代』三重野広帆
これ、誰がいい人?と考えると混乱するけど、視点の変わり方も面白かった。

『学校が嫌いだ』奥田悠介
これは難しい。アウトサイダー・アートのような感じの絵とノイズ。これはホラーなのか?この映像自体が怖いけど、新しいジャンルってことなんだろうか。

『いい人生』川上颯太
だいぶメンタルがやばい男女の、傷つけあう純愛、みたいな感じ。きれいな作品でした。

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太
15分ていどの短い作品だけど、ほかの作品と比べると暗闇と沈黙が多くて、ちょっと集中力が途切れてしまった。ブレア・ウィッチ・プロジェクトやリングの呪いのテープみたいな趣はよく出ていました。

ネットで最新情報を調べたら、第1回の受賞作がすでに「みなに幸あれ」として公開済、第2回のこれも年明けに公開らしい。いい流れじゃないですか!劇場版「みなに幸あれ」もU-NEXTにもう入ってるようなので、見てみなければ。

 

「第1回日本ホラー映画大賞受賞作品」3856本目<KINENOTE未掲載>

U-NEXTにこんなのが入ってたので見てみました。これ毎年やってるのね。第1回は2022年。7本入って105分、1本あたりの長さはまちまちです。それぞれ感想書きますね。

『私にふれたもの』監督:藤岡晋介・武田真悟
よくできた短い映像でした。ふれる必然性はあるような、ないような。怖くはなかったかな。

『その音がきこえたら』監督:近藤亮太
電話の向こうで暗くしゃべる旧友の映像がいい感じにホラーです。でもストーリーは重くない。
『傘カラカサ』監督:ヤマモトケンジ
からかさおばけだ…。OLの女の子が料理下手とか、最初にやられる女の子の素性が本当は存在しない?とか、注意があっちこっちにいってしまうけど、傘は怖かった。
『招待』監督:三重野広帆
お化け屋敷的ホラー。怖がるほうの警察の人たちの行動がよわすぎるけど、女子高生は怖かった。
『closet』監督:中野滉人
この人は何の締め切りに追われてるんだろう。迫ってくる足はなかなか怖かった。
『父さん』監督:平岡亜紀
会社に行き、忘れ物としたといって帰ってくる父さん。LINEにメッセージ送ってしまうのはなぜだろう。
『みなに幸あれ』監督:下津優太。
お年寄りが突然固まった状況は、なんかとても怖いですね。相当アンモラルな方向へ向かう人でも、お年寄りをいためつけるのはためらうので、よくそっちに踏み込んだ、ずるい、という気がするくらいでした。

 

クォン・オスン 監督「殺人鬼から逃げる夜」3855本目

何と言ったらいいんだろう、つまらない映画なんだけどとっても面白かった、というような気持ち。主役のろう者の女の子ギョンミがあどけなくて可愛いので、かわいそうでずっと見てしまう。意味もなくただ殺人を続ける男は、クレイジーさや怖さはあまりないんだけど、ただしつこくて、それが面白い。終始、舞台は夜で、街灯が足りない夜道を若い女の子が単独で歩き回る映像が不安をあおる。

面白くなくはない。くだらなくはない。やたら血が出たり無暗に人がたくさん死ぬこともない。とはいえ名作じゃないんだけど、どういえばいいのかな、この映画の面白さは。

まったく平凡な日常のなかに怪物が走ってくる「グムエル」みたいに、この映画も平凡で何もない日常のなかに、突然殺人鬼がいる。追ってくる。という違和感が面白いのかも。

 

メアリー・ハロン監督「ウェルカム・トゥ・ダリ」3854本目

奇矯な天才…。

少し前の一時期、美術館に展示するようなアートにすっかり興味をなくしてしまった時期があって、「No art, no life」ばっかり見てたのですが、巨匠と、小さな施設で自分だけのために毎日絵を描き続ける人との違いって、あるようでないのかもしれない、と、この映画を見ても思います。すべては、たとえば「正常0」と「異常1」のどちらかではなくて、0と1の間に無数にある点のひとつひとつなんだろうな。

アート作品の値段やよしあしも、世界の全人口と同じ数の物差しがあって、0と1という数字だけが端っこに書かれていてあとは空欄なんだと思う。

この作品の中のダリは、まるで破滅型のロックスターみたいだ。私は今は印象派や形のはっきりしない作品も楽しむようになったけど、最初に好きになったジャンルがシュールレアリスムで、ダリは大好きな画家のひとりだったし、傷ついて赤ん坊みたいに丸くなっている彼を見ると、ガラでなくても抱きしめてあげたいと思ってしまう。アーティストがみんな幸せで満ち足りていたら、世界を震わせるようなアートも生まれないんだろうけどね…。

しかし、「ウェルカム・トゥ・ダリ」も原題の「ダリランド」も、なんとなく愛が足りないというか、物見遊山なだけという印象だな。映画の中身はそういう感じではないのに。

 

マーヴィン・ルロイ監督「東京上空三十秒」3853本目

「若草物語」と「悪い種子」「心の旅路」「哀愁」の監督か。「悪い種子」が混じっているだけで、なんとなく疑い深い目つきになってしまうけど、人の心のひだを丁寧に描く監督だ、と思う。この作品も、舞台としての戦争をしっかり描いているけど、愛し合う二人の思いが中心に据えられています。

この作品はリアルな空中戦の映像で有名らしい。確かに、構図を先に決めて緻密に撮った本物の映像みたいに見える。それにしても、日本で見るには少々刺激的なタイトルです。スペンサー・トレイシーの戦争映画といえば「日本人の勲章」も日本人が見るにはなかなか切ない作品でした。救いなのは、この作品もそれも、日本人を鬼畜のようには描いていないところですね。むしろ、嫌いではないけど国同士の闘いだから、とつぶやく場面すらある。これが普通の兵士の心情に近いんじゃないかと思うので、無理やり戦意をあおるより現実的なプロパガンダなのかも、と思います。

この、つぶやく兵士たちと同じ表情を、つい最近見ました。今、しごとがらみでアメリカの軍隊の人たちと話すことがあるのですが、最初は表情がとても硬かった。自分たちは嫌われているんじゃないか、憎まれているんじゃないか、と怖れているような。前に、アメリカのケネディ宇宙センターに行ったとき、「Riding Rockets」っていうエッセイを書いた元軍人の宇宙飛行士のサイン会をやっていて、「日本から来ました!すごく面白かったです!」って言ったらすごい微妙な顔をされたこともあった。エッセイの冒頭に、彼の父親も軍人で日本人嫌いだったと書いていたからだと思います。今の私たちはアメリカと軍事同盟を結んで完全に「味方同士」になってるけど、沖縄の基地の問題は進行中だし、ヒロシマ・ナガサキという地名に彼らがなんとなく敏感になっていることも感じる。現役の軍人さんの中には、親子代々軍人をやっていて、親の世代に日本の悪口をさんざん聞かされてきた人も多いんだろうと思います。

この映画を見てると、(蒋介石の)中国とアメリカは日本という共通の敵をはさんでつながっている。今はこの中国と日本が入れ替わった形だけど、元の位置とは微妙にずれている。日本は敗戦国だし、どうひっくり返っても軍事力でアメリカには勝てないから言うことを聞いてるけど、あまり忠実なではなくて、ちょっと疑わしいと思われてるかもしれない。

それでも、個々の人たちに敵意とか恐れとかを持てないんだよな。敵同士として出会ったわけじゃなく、彼らにも私にも、相手を傷つけたり陥れたりする意志はなくて、むしろ、両方とも、正しいことをまじめにやっていこうとしている人たちだから。私が戦争から遠い世代だから?(伯父が全員戦死したりしてるんだけど、母が語るB-52はとても遠く感じてた。)

原発も戦争も大反対。だけどそこにあるものの周りには人間がいる。否定してもそこにある。何があるか見てみよう。と、最近は思うようになりました。

もうちょっとあちこち行って見てみようかな。。。

東京上空三十秒(字幕版)

東京上空三十秒(字幕版)

  • ヴァン・ジョンソン
Amazon

 

三木聡 監督「大怪獣のあとしまつ」3853本目

すがすがしいくらい評点が低くて、並みいるレビュアーのみなさんの誰もほめてない(笑)。おかげさまで、期待度0で見ました。

無駄に下ネタが多くて下世話、無駄にキャストが豪華。しかしそもそも、「大怪獣のあとしまつってどうするの?」というテーマ自体が、映画でもドラマでもなく「デイリーポータルZ」とか「虚構新聞」的で、立派な映画会社や立派なキャストに目がくらんで期待しすぎるとバカをみる、という設定ミスだと思います。

最近とても忙しくて、まじめにじっと映画を見る心の余裕がない私にはちょうどいい、「あーバカだなー」くらいの作品でした。(にしてはお金かけすぎ)

そんな私もやっぱり高い点はつけられませんが(笑)