映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フランク・ロダム 監督「さらば青春の光」3988本目

かなり前に見たので感想を書くのは初めて。たぶんVHSでも借りたんだろうな。しかしアクセント強いな!全然何言ってるかわかんないや。舞台はブライトンだけど、この主役のフィル・ダニエルズ、聞いた名前だと思ったら、Blurの「Parklife」で語りをやってるおじさんだ。生粋のコックニーだから選ばれたはず。イギリス英語にはだいぶ慣れたつもりだったけど、初心者の気分だ。

海辺の大乱闘を蹴散らす騎馬警官。暴徒にはこれが一番効くのだ。(これ後にウエストロンドンで実物を見たけどインパクトすごかった)大乱闘ちょっと怖いけど、こんな風に感情やエネルギーをぶちまけるのって気持ちいいんだろうな。大けがしたり死んだりしても、どこかカッコよく思える。この映画が今も若い人たちを惹きつけるわけだ。

「We are mods」の大合唱とか(これきっとフットボールの応援のフレーズの応用とかかな)「Bell bo-----y!」とか、懐かしぃ。ベルボーイ、エースのスティングは実際モッズのムーブメントにいたことなんかあるんだろうか。なんかなさそうな感じがする。やっぱり、しょぼさや弱さ、乱暴さも含めて、フィル・ダニエルズのジミーが最高だな。なんて可愛いんだ。モッズコートもスクーターも。

初見のときは、ジミーに肩入れしすぎて、ステフひどい女!と思ったし、バイクを大きい車につぶされたジミーに同情したし、ラストでは絶望しそうになりました。今回冒頭を見直してみたら、ああ彼はこのあとふっきれてちゃんと年をとってParklifeをやったんだな(途中から違う)ともとれますね。

音楽にしろセリフにしろ、なんか絶妙にひびくものがありますね、この映画。何度も繰り返し見たくなる。

これと「トレインスポッティング」は時代と場所が違うけど相似だし、アメリカにも似た設定のドラマはたくさんある。どれもたぶん好きだな…。

リチャード・レスター 監督「ジャガーノート」3987本目

「ジャガーノート」って元はヒンドゥー語で、ヴィシュヌ神の化身のひとつ、破壊をもたらす強烈な力をもつものらしい。英語化しているらしいので、こんな人から電話をもらったら不吉です。船の名前が「ブリタニック」なのも、タイタニックを思い出して不吉。冒頭に若きアンソニー・ホプキンスが映り、反射的に「犯人はこいつです!」と叫びそうになるのを抑える。(「羊たちの沈黙」は、これよりずっと後)

この監督の作品は「ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!」しか見てないや。これは1974年の作品。タワーリング・インフェルノを思い出すなと思ったら、同年の作品でした。あっちには華やかなスターがいるけど、こっちはもっと地味な技術者たちが中心。プロの仕事にとりかかる男たちが、一人、また一人、と荒波や爆発にのみこまれていきます。なんか硬派な映画だなぁ。

ほかの俳優を見ていくと、オマー・シャリフは威厳があって二枚目だけど緊迫感がいまひとつ。爆弾処理の達人リチャード・ハリス(パイプをくゆらせてるのが時代。爆発物を扱う人なのに)は今はまだちょっとヤマっ気があるけど、その後おだやかな表情のダンブルドア校長となるのだ。個人的には、ガキを救って爆死するインド系のスタッフが気の毒でなりません。ガキがバカで腹が立ちつ…(あけすけな物言いですみません、全視聴者を代弁したつもり)

赤と青の、動脈と静脈みたいなビニール線のどっちを切るか?…ここに至るまで、すべてに既視感がなんとなくあるのは、実際に過去に意識せずにテレビ放送とかで見たかもしれないし、舞台が船じゃないだけで、リメイクかと思うようなテレビドラマがいくらでもありました。おそらくこれが元ネタなんだろうな。新鮮味は今みるとないけど、逆に安心して映画の良さをじっくり楽しめます。これが基本で王道。やっと見られてよかったです。

宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」3986本目

いっこうにVODに降りてこないので、久々にTSUTAYA DISCASでDVDをレンタルしました。

これ、原作読んだ記憶があります。よく覚えてないけど、確かにまったく別の作品だ。主役はコペルという名前だったはず。普通の少年が嘘をついたりいじめをしたりして自分の中の悪に気づく物語だったような。

こちらの主役は真人(まひと)という少年。不思議なアオサギや、ゆばあばみたいな老婆数名、きれいな女の人、ボーイッシュな女の子、など、ジブリ作品で見慣れた感じのキャラクターがどんどん出てきて、ファンタジーの世界が広がっていきます。全くのジブリ新作ですね。戦争や火事といったできごとに翻弄される少年が(パンズ・ラビリンスの少女みたいに)逃げ道を探してダークな道に足を踏み入れる。返信するアオサギ、群れて集まるカエルや鳥たち。ジブリのファンタジー映画のクライマックスみたいな過剰なイメージがぽんぽん飛び出すので、これが小説「君たちはどう生きるか」と関連していると思って見ると、ただ途方に暮れてしまいそうです。

つごう3回通しで見て、やっと、ああやっぱりジブリの映画だ、と思いました。タイトルはイメージだけで内容とは関係ない、というか、この書籍が登場する瞬間があって、そこから映画のタイトルを取ったってことだな。たとえばクラシック音楽の曲名をタイトルにした小説や映画があるのと同じ。

で、人は自分の中の善と悪の両方を抱えたままよどんだ世界を生きていくものなのだ、というのがこの映画を見たわたしの結論。なんかツイン・ピークスみたいです。個人的にはわりと共感します。自分は清廉潔白で完璧に正しいと思っている人こそが、他の人たちを傷つけたり貶めたり、攻撃したり殺したりするんだ。自分が人を傷つけていることを自覚することからしか始まらないことがある。

見るまで時間がかかってしまったけど、見てよかったと思います。

 

ダニー・ボイル監督「28年後…」3985本目

<結末に触れています!>

英国で発生したウィルスが本土で蔓延していて、一本道だけでつながっている小さい島に生存者が避難して暮らしている…っていう設定が、なんかいいです。全世界に目を向けたりしないで、極力ちいさい世界で完結している。日本と相似でもあります。本州に対して、たとえばこの生存者の島は、淡路島とか佐渡島みたいなスケールだろうか。日本の場合、南下すると本州につづいて九州、南西諸島があるので、逃げて逃げて石垣島に落ち着いた、とかもアリかも。

ダニー・ボイルが監督すると、カットがキレキレでいいですね。トレインスポッティングの「ロンドンで一番汚いトイレ」とかすごく記憶に残ってるんだけど、この作品でも、撃たれて倒れたゾンビを下から捕えたショットとか、動きがシャープだし、いい意味で「おお!」と思わせるこの感じが好きです。俗なものの中に崇高なものが現れるような美しい映像も好き。

アーロン・テイラー・ジョンソンって、「アンナ・カレーニナ」を見たときは端正で気品高い二枚目だと思ったけど、その後のスキャンダルや、「ブレット・トレイン」の役柄(みかん)とかで、気品とは逆でしぶとい彼の姿を見るにつけ、個人的にはすごくいいなと思うようになりました。(ヴィゴ・モーテンセンやゲイリー・オールドマンが演じるとチンピラ役が生きる、みたいなことで)

パパを置いて少年は独り立ちして新しい仲間(悪そうな)を見つけて、次回作は「28年と28週後」かな…。なんか旅の仲間の物語になっていくみたいで、楽しみになってきました。

28年後…

28年後…

  • ジョディ・カマー
Amazon

 

アンヌ・フォンテーヌ 監督「白雪姫 あなたが知らないグリム童話」3984本目

面白かったですよ。

”白雪姫”そのものを期待して見始めたけど、全然出てこないじゃない?と思いながらぼんやり見てたら、途中でやっと寓意がつかめました。(私にぶい?)

やたらとクレアが色白であることを指摘してたり、モード(イザベル・ユペール)が義理の母だったり、りんごや毒のじゃまをするこびとたちがいたり。7人のこびとは、大きな男どもなんだけど、それぞれ子どものような心をもっていて、そのへんがこびとと呼べないこともない。

クレアが確かに若くて無垢で、だからこそやすやすと、何のためらいもなく男(こびと)たちと体をかわすのも、まあありそうなこと。若さや美しさだけでなく、その自由さも激しい羨望の対象となります。

イザベル・ユペールは、まぁ悪い魔女とか白雪姫の義母とかを演じさせるなら最初に頭に浮かぶキャスティングでしょう。少なくともフランスでは。あるいは全世界で。彼女の極悪っぷりを見るのが好き……。

それにしても評価が低いですね。私はこれを見て初めて、継母が白雪姫の若さ・美しさだけでなく本質的な純真さや自由さ、寄ってくる男ども、そういうの全部に嫉妬心を燃え上がらせる気持ちが、わかったような気がして、納得したんだけど、そういう見方をしたのはどうも私だけですね?

逆に、イザベル・ユペールに極悪女以外の役を演じさせてみてほしいな。何か新鮮な役どころ、ないかしら。

 

ジャン=ポール・サロメ 監督「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」3983本目

イザベル・ユペールの金髪は違和感を感じてしまう、長年ブルネットの彼女を見続けてるからなぁ。

この映画、鉄の女が政敵から暴行を受けたが、自作自演だと言われて四面楚歌に陥る、という話で、これを演じられるのって彼女くらいしかいないなぁと思います。

見てるとどんどん苦しくなるな。世の中には、何を言っても信じてもらえない人っていて、私もひとごとと思えない。吐きそうになってても「全然酔わないね」って言われて上司に酒をつがれる、泣いててもウソ泣きって言われる。「顔に出ないね」と言えば相手の気持ちをおもんばからなくてもいいと思う人がたくさんいるので、ほんとに辛いときは黙って一人で過ごすようになる。思うに、女性が強姦されて大騒ぎできるようになったのはわりと最近で、戦後すぐの映画とか見ると、泣き寝入りが普通だし、結婚できなくなることを恐れてあえて黙る人も多かったんじゃないかと思います。

自作自演する人も実在すると思うけど、それなら服を引き裂いたり、泣き叫んだりして、裁判官や大衆にわかりやすい被害者を演出するのがふつうだ。勝つためにやるわけだから。人が自分で自分を「はずかしめる」形で暴行するのって、よほどの変態でもなければ耐えられないし、それで勝ち目が増すわけじゃない。これはパッと見だけで、筋が違うよ。

大企業やマスコミやなにかの権力が彼女を追いやった?違うよ。いかにもなストーリーや、わかりやすさ、自分の狭い知識で納得できる結末を強烈に求め続ける一般大衆のひとりひとりが、小さい石をもって彼女に投げつけてるんだと思います。

…ところで、イザベル・ユペールがまた日本で舞台をやります。以前「ガラスの動物園」を見たけど、今回は「Mary said what she said」という舞台で、スコットランドのメアリー女王を彼女ひとりで演じます。ふだん行かない劇場の公演情報ってまず気づかないけど、たまたまネットで見つけてよかった。一番高い服着てはりきって行ってきます。

 

 

アンソニー・ファビアン 監督「ミセス・ハリス、パリへ行く」3982本目

これはまたハッピーな映画だなぁ!

ミセス・ハリスを演じるレスリー・マンヴィル、昨日までやってたNHKドラマ「母の待つ里」(原作浅田次郎。すごく面白かった)でおばあさんを演じた宮本信子のきれいな笑顔を思い出します。でも見たことあるなーと思ったら、「ファントム・スレッド」でダニエル・デイ・ルイスの怖い姉を演じてた人だ、この映画でのイザベル・ユペールに匹敵する役。本当に演技のうまい俳優って、極端な役を交代できるからすごい。

そして結局のところ、ディオール万歳!な感じで宣伝効果もあるよなぁ。

ランベール・ウィルソンの期待を外す感じ、うまい。ナターシャはちょっとエレン・ペイジ(現エリオット・ペイジ)に似てる(まゆげがすぐ八の字になるところ)ような。

この原作が書かれたのは1958年で、ハリスおばさんシリーズの続編がほかに2作、書かれたようです。これ痛快だから売れただろうな。

なーんとなくストレスたまってるから、ホラーとかスプラッターとか見ようかと思ってたのに、逆にこんなピースフルなのを見てしまって、逆によかったです。