映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウェス・アンダーソン監督「奇才ヘンリー・シュガーの物語 他3篇」4015本目<KINENOTE未掲載>

ネトフリで一気にいろいろ見てます。これはウェス・アンダーソン監督の短篇4つ。最初からパステル調の書割がもうウェス・アンダーソン。この人の作品とは合うものと合わないものがあります。ロアルド・ダールも得意分野ではないのでちょっと不安。

でも最初の「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」はすぐに入り込んで楽しめました。ベネディクト・カンバーバッチの画面吸引力。(ネットでバズってる、この人がテレビ番組でランダムに言ったことを組み合わせて刑事ドラマに仕立てる動画、何度見ても涙が出るほど笑える)デブ・パテルも良い。真面目だけどうさんくさくて。

続く「ねずみ捕りの男」、主役の怪しげなネズミ捕りの男を演じるのは、いつも端正なレイフ・ファインズ。うますぎて誰だかわからなかった。なんとなくオチのないお話。

「白鳥」白鳥はあとのほうに出てきます。「ねずみ捕り」にもいたルパート・フレンドという四角い顔のイギリス人俳優、こどもの口調がうまくて可笑しい。しかしこの作品はけっこう厳しい子どものいじめがトピックで、最初からどこか物悲しくなってしまいます。結末には非現実的なひねりがあるけど、現実では単に悲しい結末しかありえないんだろうなと、やっぱり悲しい気持ちでしんみりと次に進みます。

「毒」またカンバーバッチ登場。この人なかなか一流のコメディアンだな…蛇の下で固まっている彼は、もう半分死んでいるかのような硬直ぶりです。

…という4作品でした。ウェス・アンダーソンってロアルド・ダールだったんだな、と気づかされた作品たちでしたね…。

ライアン・ジョンソン監督「ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン」4014本目〈KINENOTE未登録〉

<一部、後半のストーリーに触れています>

久しぶりにNetflixに登録して、見たかった作品をまとめて見ています。

2作目の「グラス・オニオン」は手の込んだ小道具がたくさん出てきて、解くためというより見せるためのパズルストーリーみたいな感じだったけど(楽しかった)、今回は郊外の小さな教会が舞台で、ムードはずっとシリアス。ダニエル・クレイグが演じる探偵ブノワ・ブランは髪が伸びて、もはや007ジェレミー・れなーを連想させません。主人公の生真面目な司祭を演じたジョシュ・オコナーはなんとなく既視感があるけどKINENOTE上の出演作品はどれも見てないようです。誰と勘違いしてるんだろう、私。

シニア司祭はジョシュ・ブローリン、教会の人々にはグレン・クローズ、ジェレミー・レナー(グラス・オニオンに名前だけ出てた)、アンドリュー・スコット(モリアーティだ)、トーマス・ヘイデン・チャーチ等々。

時系列順に映像が流れるんだけど、途中どーんと時間が飛んでいる…ということが最後にわかります。これ系よくあるんだけど、しっかり記憶して伏線を回収するということが苦手なので、二回通しで見ました。このシリーズは「本当らしさ」よりエンタメ志向ですが、この作品はあまりきらびやかじゃない分、一瞬ありそうな話に思えるけど、よく考えるとまあありえないか。

次もあるのかな。年末年始のおたのしみ映画にふさわしい、楽しく見られる作品なので、どんどん作ってほしいです。

佐藤慶紀監督「新宿タイガー」4013本目

U-NEXTがTVで見られなくなっていて、アマプラばかり見てます。

ボブディランと、TLC(懐かしい!)のドキュメンタリーを見たあと、これを見つけたので早速見てみました。

おなじみ、新宿タイガー!上京以来、新宿を中心として暮らしてきた私にとって彼は歩く新宿名物で、彼をフィーチャーしたタワレコの冊子もよく覚えてます。語呂とか存在感としては”横浜メリー”に近いけど存在感がかなり違うのは、職業や性別が違うからでしょうね。むしろ、吉祥寺で梅津かずお氏を見かけるといいことがある、というのと似た存在感です。

微妙に町の感じが違うと思ったら、2019年の作品なんですね。コロナ直前の、にぎやかで、今ほど整理されてない東京。もう6年も前だ。

こんなにカラフルでキッチュなものを体中にまとってるのは心根の明るい人だろうと思ったら、ほんとに明るい、よく笑いよくしゃべる人ですね。この当時はまだ新聞配達員だったけど、Wikipediaによると2020年に引退して、今は集金業務をやっているらしいです。

こんなに映画好きで、映画界に顔が広いとは全然知らなかった。私があんまり映画館行かないほうだったからなぁ。あと、ゴールデン街には数回しか行ったことがないし。

「どん底」「ぼるが」「DUG」とか、今もある店をのぞくと、長い時間をかけて熟成させてきた”新宿らしさ”がある。そのなかにタイガーさんもいる。日本中の田舎から就職や進学で出てきた若い人たちがごちゃごちゃと集まる町。

夜のタイガーさんは女優の店を回る、女好きだけどスケベじゃないおじさんでした。ゴールデン街は高級な町ではないと思うけど、しょっちゅう飲み歩くにはそれなりにお金もかかるだろう。お友達が、彼はもともと裕福な家の出だと話してたのを見て、納得する部分もあります。

タイガーさんに見とれる子どもを叱るお母さんは、タイガーさんじゃなくてたとえば派手で可愛いドレスのアイドルでも叱るのかな。でも「くまモン」だったら叱らないかもしれない。誰の中にもあるそういう物差しは、存在自体は普遍だけど、どのくらい細かくて、どのくらい長いのか、その目盛りのありようがその人なんだろうな。タイガーさんは自分の物差しを試される存在ではあります。見てよかった。

新宿タイガー

新宿タイガー

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コリン・ケアンズ監督「悪魔と夜ふかし」4012本目

人を食ったような作り方ですね~

かなりリアルに1970年代のアメリカ(あるいはオーストラリア)のTVショーの雰囲気を作り上げています。「ブレアウィッチ」も「カメラを止めるな!」も経て、ふぁうんどフッテージ・ホラーは過去へ。日本でも小津映画ふうのゾンビ映画とかが作られてくるんだろうか。(あまりうれしくない)

それっぽいなーと思いながら見てるので、面白いんですよね。面白さってなんだろう、と考えてみると、ストーリーやプロットじゃなくてもいいのかな、という気がしてきます。そして、ホラーとコメディの境界がどんどん薄くなってきている。サタデー・ナイト・ライブの中のビデオ作品を見てるみたいです、この作品とかは。

ホラー映画って、怖がってる間は怖いけど、冷静に見るようになると、エンタメ映画の新しい方法論を常に探索し続けるのがホラーなので、そんなことを考えながら見てもなかなか面白い作品でした。

悪魔と夜ふかし(字幕版)

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ロブ・ジョンストーン 監督「ボブ・ディラン/我が道は変る 1961-1965 フォークの時代」4011本目

ボブ・ディランってよく知ってる気がしてるけど、ノーベル文学賞を受賞するほどの歌詞をちゃんと読んだこともなかった。このドキュメンタリーの中で流れる歌は多くはないけど、詞はえらく鋭くて、そうかやっぱりすごいんだなぁと思う。

「Subterranean Homesick Blues」のビデオはMTVの時代に何度か見たけど、これもまた強烈にカッコよくて、当時自分が音楽少女だったらどんな影響を受けただろう?と考える。見た目や雰囲気はブランキー・ジェット・シティのベンジーに似てる。詩のスケールの大きさは違うか。

ボブ・ディランがいくら才能をもって素晴らしい歌を書いて歌ってきたといっても、一流の文学者として認められたいと思ったことは多分なかっただろうから、欲しがっていない人にノーベル賞を授与するのっていいことなのかな、という気はする。

というか、ノーベル文学賞受賞者の本は一度は読んでみるよう心掛けてるけど、ボブ・ディランを知ろうとするとき、何をすればいいんだろう。ボブ・ディラン詩集があるのかな。音楽なしに詩だけ読むべきなのか。逆に音楽を聴くとき、和訳がないと意味の半分もとれないだろうな。結局途方に暮れてしまう。

私が彼を知ったときはすでにおじさんで、今はもうおじいさんだ。彼を知り、彼の世界を理解するのには、長い時間をかけないと難しい気がしています。

 

ジャック・ヒル 監督「フォクシー・ブラウン」4010本目

タランティーノ監督のミューズ、パム・グリアの往年のヒット作、「ジャッキー・ブラウン」のすぐあとに見なかったのはおそらく、当時はVODで見つけられなかったor提供されていなかったのだと思います。今U-NEXTのTVアプリが調子悪いので、スクリーンが大きい方のPCで見ました。なんとなくこのB級感、小さいスクリーンで楽しむのもオツです。

いやあとにかく美しい人ですね。しかしアフリカ系の人も、絶世の美女と呼ばれる人には欧米系の遺伝子も入ってますよね。彼女はほかに東アジアやネイティブアメリカンも入っていると語っていたようです。シャープで綺麗で、実在しないような身体のカーブ、ほんとに、美しい人間をイメージして作り上げたような人です。表情や声も甘ったるいところがなくてカッコいい。

ストーリーはとてもシンプルで、愛する人を奪われる、身内に裏切られる、体を張った潜入捜査、長年のうらみつらみを”ファゴット”にぶつけて快哉をさけぶ。敵はズルくて、やたら弱い(笑)。でも、見ててスカッとするのは確か。カラッと明るい気持ちで楽しめる作品でした。

やっぱり、タランティーノ監督にはもう少し粘ってもらって、「キル・ビル」には梶芽衣子に出てほしかったなぁ…。

 

関根光才監督「フロントライン」4009本目

U-NEXTのTVアプリの調子が悪くて、「ホテルローヤル」をAmazonプライムで見たのですが、終わったとたんこれがオススメで出てきたので見てみます。

ていうか個人的にあまりにもタイムリー。私はそろそろ老後のたのしみシーズンに入りつつあって、来年大きなフェリーで世界一周の旅に出る計画をたてているのだ!やっと、あのダイアモンドプリンセスの案件のインパクトが薄れて、私もちゅうちょなく予約ができる今日このごろ、といっても毎年インフルエンザは流行るし、私も仕事に穴を開けられないので人混みでは今もマスクをしますが。

あの当時は、「こんな時期に外国から大勢遊びに来るなんて」「そんな感染者のたくさんいる船から患者を陸に下ろすなんて」「国は何をやってるんだ、医者は何をやってるんだ」など、排外的で批判的な感情が、かなり広範囲に広がっていました。あのとき偉そうにそういうことを言った人たちが、この映画を見て、まるで最初から彼らの味方だったような気分になって納得するんだろうな。おそらく、この頃批判してた人たちの心のどこかにも、同情や共感が気絶した状態で隠れてたのかもしれない。人の態度は、くるりとひっくり返る。

この監督の作品は、1「太陽の塔」2「生きてるだけで、愛」3「燃えるドレスを紡いで」の3本を見てました。1と3はドキュメンタリー。1はいろんな人が太陽の塔について語るちょっと変わった作品、3は廃棄される、衣類の最終処分場から、布くずを持ってきて圧縮した生地で新しい服を作り出すデザイナーを追う作品。1は構成がユニーク、3は題材がかなり珍しい。ドラマ映画である2も私はけっこう好きだったな。趣里が演じた強烈な性格の女の子の、感情まるだしな感じがまぶしかった。

それにくらべてこの作品は、とてもわかりやすい。小栗旬がプロジェクトリーダーで、無理解な周囲の人に屈せず交渉で自分たちの活動を認めさせる、という予想通りの流れ、そもそも、当時がんばった人たちをちゃんと認めようという趣旨がある。だからつい流してさらっと見てしまいましたが、一番印象に残ったのは、森七菜の英語が本当に話し慣れてる人のようでうまかったことかなぁ。この子はほんとうに不思議。初めて見たときはとにかく可愛いと思ったけど、この何を演じても自然体でその人にすでになっている感じは、もしかしたらすごい大女優なのか。今やってるドラマ「ひらやすみ」では、グズグズでだらだらな女の子があまりにはまっていて、最近のこの子はこんな感じなんだろうかと思ってしまったくらい。なんか、すごさを感じさせないところがうまいのかもしれない。とにかく彼女がよかったです。