映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

新藤兼人監督「一枚のハガキ」17

ここまできたら、とことん付き合いましょう!
ということで、ちょうど上映が始まった新藤兼人監督の最新作を見に行ってきました。
日曜の午後のテアトル新宿はかなりの入りで、危うく立ち見になってしまうところでした。観客の多くがおそらくシルバー料金…映画館としては大人料金を払う人の割合がもちょっと多い方が嬉しいかも。

第二次大戦が終わって4年後の日本。夫が戦死した後夫の弟と再婚したのに、新しい夫も戦死し、残された夫の父と母にも死なれて一人で暮らしている女を演じるのが、大竹しのぶ。彼女の最初の夫から、ハガキを託された男が豊川悦司。彼は戦争から生きて帰るのですが、帰ってみたら妻が自分の父とできて出て行ってしまい、家を売ってブラジルに移住しようとしています。

皆苦しい思いをしているけど、あかるい映画です。地面に足を踏ん張って生きていくことに関して、もう悲壮感はありません。こらえてこらえて、時に爆発するけれど、それでもまたこらえて生きていく映画です。

100人のうち94人が死んで、生き残った6人のうち一人が自分だ、と監督自身がどこかで言っていました。トヨエツはそれとまったく同じことを口にします。生き残ったのは「くじ」だ。くじで宝塚に行かされたものが生き残った。…それを聞いて大竹しのぶはくじじゃあしょうがないと思い、やっともう誰もいない家を棄てて、彼についてブラジルに行こうと決意します。

しかし彼らは結局行きません。逃げることではなく留まることが大切なんだ、というのが常にこの監督の視点だと思います。この映画は、生きてるうちに監督がどうしても伝えたかったことなんだろうな、と思いました。

主役の2人の演技は安定しているし、村の有力者をコミカルに演じる大杉漣も良いです。しかし映画館にまで赴いても、どうも映画の中に入りきれないのは、役者さんを見慣れすぎているからかもしれません。大竹しのぶを見ると「ねね」(大河ドラマ「江」ですね)に見えるし、肉づきが良くなったトヨエツを見ると「オッチョ」(映画「二十世紀少年」)に見える。そんなことくらいで色眼鏡がかかってしまうのは見る自分の方の問題だと思うので、DVDになったらもう一度見てみようと思います。

これで完結するんだな…としみじみ感じた一作でした。以上。