映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

黒澤明監督「素晴らしき日曜日」24

それでもDVDは届き続ける。(from TSUTAYA)ので、見る。

この作品を借りてみた理由は、1947年と古いこと、意外にも黒澤作品だということ、ジャケットが明るくて素敵だと思ったこと。でもかなりウェットな映画で、暗いシーン六割強でした。

主役の若い二人はとにかく貧乏で、日曜日にデートをしても所持金は二人合わせて35円。(wikipediaによると今の3500円くらい…けっこう持ってんじゃん)一見オシャレな二人なのですが、よく見ると穴のあいた靴をはいていたり、レインコートの下に着ぶくれていたりしていて、お金持ちからバカにされたりします。

戦争が終わって2年。せっかく生き延びても彼は友人と下宿、彼女はお姉さんのところに住んでいて、一緒に暮らせるのはいつのことか。

戦後の都会にはズルイ奴らが跋扈していて、純真な彼らはすぐにひっかかっては、そのたびに凹みます。浮上、撃沈、浮上、撃沈を何度も繰り返し、すぐ世をはかなむ彼。一方彼女は根が明るく、泣いてもケロっと笑う朗らかさがあるけど、荒んだ孤児を見たり、押し倒されそうになって彼に「お嬢さんだな…おれたちもこれまでか」などと言われて、長いこと泣き崩れたりもします。

64年後の未来から彼らに「大丈夫、このあと日本はすごい高度成長期に入るから、だんだん生活も楽になるし、年金だって満額もらえて老後は安泰ですよ」と言ってあげたい。

私も若いころ貧乏で「二人合わせて3500円」的なデートをしたこともたくさんあるけど、笑点の公開録画行ったり(\0)、中華屋を出るときにお金が足りなくてまけてもらったり、楽しかったし、貧乏であることをはかなむことはなかった。バブルの時代だったけど。この映画の中の人たちは戦争に心をむしばまれてしまっていたのかな。

当時の黒澤明は37歳。彼女役の中北千枝子(のちの「ニッセイのおばちゃん」CMの人です)はまだ21歳。彼役の沼崎勲は31歳。(この映画のわずか6年後に早世してます)
彼女がやたらと指をかんだり、手で演技したり、部屋のすみっこで泣き崩れたりする演出(実在しない女性像シリーズ)をみると、やっぱりああいう男映画をたくさん撮る監督の女性像ってのは、こうなるのかなぁと思います。

それにしても強く印象に残るのは、パーマネントをかけた彼女の素敵な髪、彼の帽子と堅く巻いたマフラー、全編に流れるクラシック音楽…といった、ファッション雑誌が「今、戦後の日本映画が新しい!」かなんか特集を組みそうなシックさ。その枠に押し込められた戦前の日本的な世界観。そして何をやっても蔓延している暗い戦争の影。

このシックさは洋物のオシャレな映画の影響にちがいないと疑って、wikiでこの映画公開前年である1946年の作品を調べたら、良く似たタイトルの「素晴らしき哉、人生!」というアメリカ映画が見つかりました。「映画監督の黒澤明が雑誌文藝春秋で選んだ『黒澤明が選んだ100本の映画』のうちの一本である」というエピソードも書かれています。これ以外にもたくさん見てると思うけど、わりと強く印象に残ってたのかもしれません。

私は借りてきた映画を2回見るようにしてるのですが、今回1回目にわけもわからず号泣し、2回目はやけに冷めた目で見ていた自分がよくわかりません。じーっと画面を見入ってると登場人物に入り込んで一緒に凹んでしまうけど、ご飯を作りながら流し見ると距離を置いて見られるということでしょうかね。  

ジャケットがオシャレなので大きい画像にリンクしておきます。以上。