映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

今村昌平監督「豚と軍艦」26

1961年、今村監督35歳のときの作品。ジャケットが秀逸で、ジャケ借りしました。
長門裕之演じるチンピラやくざの欣太は、ひと稼ぎして恋人の春子と所帯を持とうと考えています。でもヤクザの世界は裏切りに次ぐ裏切り。…春子は一人、街を出ていく。

ってなストーリーです。しかし2回見ても巻き戻しながら見ても筋がわかりにくい。解説サイトをいくつも見て、やっとだいたいのことがわかりました。私は2回流し見ればわかるくらいの簡単なのがいいです…。

ところで、私「私立探偵 濱マイク」の世界が好きで、世の中に背を向けて堂々と好きなことをして生きる感じに憧れてシリーズ全部レンタルして見たものでした。もう10年以上前の話。この映画にもあのような世界観を期待してたところがあります。でもなんか根本的に違うのは…
多分、儲からなくても自分で探偵事務所をやってる「濱マイク」と違って、長門裕之は会社員と同じように上の言うことをきいて陰で悪だくみをして、女の前でカッコつけて…と、要はカッコよくないのです。

でも、カッコ悪い欣太が逆上してライフルを撃ちまくるシーンは、熱い。豚の群れの中で、撃たれても撃ちまくるカッコ悪い彼が急に輝きだします。50年前も今も、若者はちょっとばかで、カッコつけたいけどつけきれずに、エネルギーをもてあましたりしているんだな。

豚の大暴走に巻き込まれた怪我人と一緒に、タンカに載った豚が運ばれていくのがおかしいです。しかしこんな映画、今なら動物愛護なんとかで撮れないだろうな、というか、ベイブみたいにCGで撮るんだろうな。

ラストシーンで、米兵たちにシナを作って手を振る女たちの反対側に向かって一人で歩いていく春子がすがすがしいです。昔の映画を見ていると、女たちやその親がお金目当てに米兵のオンリーになることを勧めていたり、宿でおかみが普通に泊まり客に「女の子呼びます?」って訊いたりするシーンが出てきます。意に沿わない人も多かったんだろうけど、今の感覚で彼女たちを被害者とするのって正しいのかしら、と感じたりもします。。

恋人の春子を演じた吉村実子は17歳、この映画がデビュー作。(このあと「鬼婆」では若い娘を演じました。)今なにやってる人?というと、NHK朝ドラ「おひさま」で主人公陽子の嫁いだ「丸庵」の近所に住む、ケンカばっかりしてるおばさんの一人です。
ふーん、というくらいのプチ情報かもしれませんが… 今日はこの辺で。