映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

篠田正浩監督「乾いた花」27

ほんとは今日こそハリポタを見るつもりだったのに、行ったら入れなかったので、帰ってきて今日も日本映画を見ます。

1964年作品。
加賀まりこが演じる、シャネルかディオールでも着込んだ怖いものなしの美少女が、唐突にとばく場にいる。一切の背景説明なし。で、刑期を終えてきたインテリやくざの池部良が、そこに現れる。彼は彼女に強く惹かれる。彼女は刺激に飢えていて(「もっと大きな賭けができるところに連れて行って」)、やがて麻薬にも手を出し…。

けっこうリアルな感じの賭場やうらぶれた街とかが舞台なんだけど、人間関係がタイトル通り乾いていて、なんかとてもクールな映画です。乾いているというのは、義理人情の話があんまり出てこなくて、人と人がみんな距離を置いている。主人公の二人が非常に強い自我を持っていて誰にも流されない。乾いているから怖いという感じもない。・・・という感じです。

乾くというのはドライでクールということでもあるけど、満たされない激しい渇望のことでもあります。この映画の主人公の二人は、その両方の意味で乾いています。2回見たら、二人の虚無感がもっと強くひびいてきました。守るものが何もなく、空洞しか持ってないから、より強い大きい刺激が必要になってくる。空っぽだから、外から刺激を受けて反応する自分しか実感できない。

男はやくざというわかりやすいバックグラウンドなんだけど、女の方は、あれだな。パリス・ヒルトンだな。まだ20歳そこそこだけど、お金で買えるものはもう何でも持っていて、欲しいのはお金で買えない何かだけ。…そう考えると稀に現実にも存在する人物だと思えてきました。

ちなみに原作は石原慎太郎。この人の書くものって登場人物が強い人ばっかりなんですよね。現実にいたら人の言うことをきかない大変な石頭だろうな、という。文章は短く断定的で、はなから人の批判なんか聞くつもりナシ、という感じ。でも心にひびくものを書く人だと思います。しかし…人間にはこういう退廃の部分もぜったいにある、ということをわかった上で都知事なんて仕事をするのは、裏と表の両立不可能で無理が生じたりしませんか?

ところで賭場ってほんとにあるのかな〜。このお客さんたちはいったいどこから来たんだろう?カタギに見えるけど、どっかのお金持ちなのかな〜。スリルを求めて生き急ぐのってちょっとうらやましい気もします。

それにしても池部良はステキですね。母が昔ファンでした。知的で分別もある、大人です。でもどこかナイーブで、真っ当なゆえに胸の中にからっぽなものを抱えている。…この映画のときすでに50歳近いのですが、私の中のイメージはその後もこの映画の姿の通りなのが不思議です。

そういえば、私は70年代の東京やロンドンの都会の遊び場ってのに、小さいころずっと憧れてたのを思い出しました。退廃ってカッコいい、みたいな。だんだん現実に追われて退屈な大人になってしまいましたが、老人になったら無茶してみたいなー(←ハタ迷惑もいいとこ)。
ってとこで、今日はこの辺で。