1997年作品。そのとき監督71歳。
カンヌ映画祭で最高のパルムドール賞を受賞した作品です。すげ〜。
この映画前に見たことがあると途中で思い出しました。TVでやってたのかな?たぶん10年くらい前に、特に見ようと思わずに見たのではないかと思います。
あらすじ:妻の不倫を告発する手紙を受け取った男が、その現場を目撃してショックの中で妻を殺害する。出所後男は保護司のもとで床屋を始めるが、妻に似た女が近所で自殺未遂をして、そのままそこにいついてしまう…。
主役は役所広司と清水美砂。カラーだけど色がうるさくない映画です。いくつか印象に残る色があるだけ…女が睡眠薬を飲んで横たわっている場所の花の薄紫と赤いコート、彼女が摘む桃色の花、母親がフラメンコを踊るときの赤い衣装。病院みたいに白一色の床屋の、ペパーミントグリーンのペンキを塗った椅子や窓枠…くらい。それ以外は色が識別できるくらいの色づけ。白黒ではない程度の色味。音もうるさくないです。全体的に昼寝のあとのような静かな幸福感があります。人殺しの話なのに。なんか高齢の監督の作品にこういう空気があるものがありますね。エンディングを見ながら、円熟の作品だなぁと思いました。らせんのようなひもが、丸くつながって、回りながら続いていくような感じです。
この、役所広司が住んでる小さい家や、真っ白い床屋が、なんかすごく好きです。ここに住んでこの床屋で暮らしたい。つつましく身の程を知った暮らし。
だけど、今村昌平の映画ではみんな、「人は自分のなかに化け物を飼ってる」のが前提のような気がします。
映画を見るのはテレビドラマを見るのと同じくらい楽だけど、映画のほうが人の生き方を責任をもって描ききろうという気概があるので、見ている自分も真剣になります。
そうやって見ているうちに、自分のなかの超自我=スーパーエゴが、化け物を押さえつける手をゆるめて、少し化け物が楽な表情に変わってきます。
今村監督が人を見る目が「温かい」とは思いません。好奇心でギラギラしていて貪欲です。でも食い入るように見つめていると、人の奥からは生温かいものがあふれ出してきます。大真面目になればなるほど、どこか滑稽でもあります。
この映画は「殺人犯が、出所後出会った女性とふれあうことで人を愛することを思い出す」みたいな教訓めいたところが何もないところが魅力です。役所広司があまりに生真面目で、「殺人は悪いことだ」という印象すら持たせません。凄惨な殺害場面もあるのに。いいことも悪いこともすべて、ゆるやかで温かい川の流れに乗って流れていく…。つまり、これはもう教訓を必要としない、人生を一回あきらめたり投げ出したりしたことのある大人が見る映画ってことですかね。
清水美砂の声が今日もカラっとあかるいです。男性監督の描く女性像は単純でいいですね。あんな風に疑わずに人を愛せたらどんなに楽でしょう。
この映画で印象に残る役者さんは他にもたくさんいて、常田富士男の住職さんは単純で善良な感じがいいし、柄本明のイヤったらしい小悪党っぷりも最高だし、田口トモロヲのバブルな感じも気持ちいい。
さて。3連休だし、今日もでかけます。以上。(←映画ばっかり見てるひきこもりじゃないよ、というアピール)