映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

渋谷実監督「本日休診」65

1952年作品。井伏鱒二原作(読んでないや)。

東京といっても郊外、平屋の家もまばらで、ドラム缶ばかりが打ち捨ててあるどぶ池のそばに「三雲病院」は建っています。
今日は開院記念日で休診。だけど、上京したてで迷っているところを騙されて傷つけられた女性や、刺青をとってほしいという学生や、いろんな人たちが次々に訪れて、休む暇がありません。・・・

いいお医者さんだな〜〜。ほのぼの。
貧しくて小さい世界の中で、少ない人たちがじっくりと暮らしてる。助け合う心があることの価値を、この人たち自身は意識してないのかもしれません。

若い三國連太郎が演じる、兵隊の意識が抜けない青年につきあって、みんなで兵隊さんごっこをやるところでこの映画は終わります。オチはありません。でもこういう映画ってふしぎと後を引くんだな。あのお医者さん、その後どうしたかな、とか思ってしまう。

こういう「群像もの」映画は、昔のをみると当時のことがよくわかってほんとに面白い。
ポリス、マニア、ロマンチックといった言葉の使い方も楽しいです。
ロマンチックというのは、女性的な意味ではなく「冒険心」のような意味で使われています。
「手紙マニア」の青年は、職場のタイプライターを使ってローマ字で手紙を書いてきて、自分は病院の外で待っている。
先生の身の回りの世話をしている「ばあや」という人が出てくるんだけど、お手伝いさんなのかな。

先生を演じたのは柳永二郎という役者さん。作ったかんじのない、人間の大きさや太さを感じさせる、すばらしい演技です。脇役的な看護婦に岸恵子(ぜいたく!)。襲われる若い女性は角梨枝子という女優さんで、かなりの美人ですがその後の活躍のことを私は知りません。淡島千景鶴田浩二が若いチンピラとその女なのですが、二人とも上品すぎる・・・。

1950年代の映画で、いま見ることができるものって、どれくらいあるんだろう?どれくらい見れば、「見たぞ!」って気になれるかな・・・。

以上。