映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

園子温監督「愛のむきだし」90

2009年作品。
これも満島ひかりもの。
あまりにもアングラで異形の世界なので見てる間ずっと心配だったけど、最後なにか感動を催してしまいました。

アングラ…私が昔なぜか好きだった「マリア観音」っていうアングラバンドとよく対バンしてた「ゆらゆら帝国」がテーマ曲をやってるくらいだから、はまる可能性のある映画だったと思うけど、きわめてメジャー感のある表舞台で暮らしている最近の私としては、ここまで引き戻すか、と悔しくもあります。紀伊国屋書店に入ったつもりがヴィレッジヴァンガードだった、的な。

満島ひかりって、素の彼女ってものをまったく感じさせない、おもしろい女優さんですね。この映画に出てる人みんなそうです。あまりにもみんなキャラがどぎつくて、見る前はちょっと怖い気がしてたんだけど、見てみたらマンガみたいで楽しめました。非常に面白い世界です。相手役の西島隆弘もいいですね。5年前なら藤原竜也が演じたかもしれないけど、藤原のほうが素で毒がある感じがある分、映画としては西島の方がおもしろくなる。

キリスト教の信者である、ということは、映画では犯罪の源として描かれているものしか見たことがない気がします。「復讐するは我にあり」とか。神様を信じることは悪くないと思うけど、極端な禁欲を守り続けたりするのは、身体によくないし、精神もむしばんでしまう。…しかしこの映画はおもしろい。悪いことも悪いこともひっくるめて、ひとつのどこか遠くの架空の世界として成立してる。という意味で。

敬虔だけど愛欲にも弱い神父の渡部篤郎も、その愛人渡辺真起子も良いですし、この映画いちばんの狂女を演じた安藤サクラも凄い。昔の歌謡曲アイドルみたいな白い帽子の下の笑顔が時計じかけのオレンジ風。そして西島が女装したときの「さそりさん」はもちろん、女囚さそりの梶芽衣子ラストシーンのまま。そして日本刀。

ちょこっとググってみたら、この映画を“名画”と絶賛する人たちと、“大したことはない”と落とす人たちに分かれるようですが、映画にしろなんのアートにしろ、楽しめるかどうか以外の尺度で批評するのはくだらないと思います。そのひとたちや私に共通の評価基準なんてないんだから。なにかひとつの物差しがあるかのように「良し悪し」を云々する人の言うことなんて、聞くことないよ〜!

前後篇とDVDは2枚に分かれているのですが、まとめて届かなかったので4日ほどインターバルを開けて見ました。
下巻はますます、コイケ(安藤サクラ)がすごい。どうやって収拾をつけるのか、途中でかなり心配になったけど、最後にもう一戦争あって、大団円。見てるこっちは大脱力。

すごく、いまの世の中にうまくいえない不満をたくさん持っている若者が、こういう映画を作るんだろうか?…と思って見てみたら、監督の園子温は1961年生まれのいい50歳だった。しかし宗教ってのは薄気味悪い世界だなぁ…。人の心の中にこんな世界が広がっている。そして普通に暮らしてるつもりの人にとっても、愛ってのは死ぬような争いを経て到達する境地であって、この映画はそれをデフォルメしたに過ぎない…気もする。

一番大事なのは愛!ってところとか、むき出しな感じとかには私は共感できました。
でも誰にでもお薦めできる映画ではありません。時間と心のすきまがあって、かつ懐が深くて広い人に。自分は映画好きだと自称しているくらいの人なら、踏み絵のようなものとして一度見てみると良いと思います。おなかいっぱいを通り越して鼻血が出そうな映画です。

以上。