映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

野村芳太郎監督「拝啓天皇陛下様」92

1963年作品。

見る前は、コミカルに描いているとはいえ「私は貝になりたい」みたいな映画だと思ってました。「私は貝になりたい」は、1994年に所ジョージが主役を演じたものを見ましたが、いつもお気楽な感じのお笑いをやっている所ジョージのシリアスな演技にショックを受けたのをおぼえています。

でもこの映画は、寅さんシリーズに近いです。渥美清の演じる主役、山田正助ことヤマショーは、お金もないし字もほとんど読めないけれど、明るく純朴で人柄のいい男。軍隊が肌に合って、天皇陛下を敬愛していて、戦後もことあるごとに戦争のときの思い出を話したがる。美人に弱くて酒好きで、仕事を転々とする。軍隊はこの映画では体育系の運動部のようで、訓練は厳しいけれど割合に規律がゆるやかで、ヤマショーの面倒をみてくれる情に厚い上官がいたりします。

つまり、戦争とか天皇崇拝を描いているけれど、怖くない映画でした。DVDに入っている予告編も「喜劇大作、乞うご期待」って感じ。監督の野村芳太郎は、作品リストを見ていると、ドキュメンタリー志向ではなく人間ドラマを描くことが多いように思えますが、それにしても穏やかな映画でした。そうなると、なぜこの設定で喜劇を?と不思議になってきます。戦争だからたくさん人が倒れている場面とかもありますが、それでもヤマショーは軍隊が大好き。彼は、一般の人が自分を投影して共感する感じというより道化役なのだと思いますが、軍隊が舞台のコメディが生まれたのは、その当時のひとたちに軍隊とか戦争とかがあまりにも身近で、生活の一部だったから…そして、みんなが「戦争中にもひとつくらい面白いことがあったよ」と思いたかった時代なのかな、と思います。

渥美清の意外な一面…は見られなかったかな。そういう映画があれば見てみたいなーと思います。

ちなみにこの映画は、DVDは入手困難のようですが、DISCUSならレンタルできますよ。
以上。