映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

山田洋次監督「おとうと」98

2010年作品。

夫を早く亡くしたあと、女手一つで娘(蒼井優)を育て上げた薬剤師に、吉永小百合。酒癖が悪く定職につけない弟に、笑福亭鶴瓶。寅さんシリーズ的な展開をみせるストーリーですが、蒼井優の結婚式をぶちこわしにして姿を消した後、彼はがんが全身に転移した状態で発見されます。そこからターミナルが始まる・・・。

という訳で、この映画を見た理由は、最近関心をもっている山谷のホスピスが撮影に使われたと聞いたからです。私は昔から普通っぽい人よりは変わった人、ど真ん中ではなく端っこに関心を持ちがちで(だから偏り過ぎないように学校は堅いところに行ってバランスを取る、みたいなところもありますが)、山谷のホスピスというのはひとつの究極の「はしっこ」のように感じられて強く興味を惹かれます。人間はそこで、どのようにしているのか。ほかでは出せなかった本性が出てくるのか、それとも特に違わないのか。激しいのか穏やかなのか。

映画のなかのその場所は、天国のように静かでやさしい場所です。これは、山田洋次監督が描きたくて描けなかった寅さんの最期なのかもしれません。

役者さんの中では、蒼井優の清潔さが特に印象に残りました。表情や声が澄んでいて素敵です。私としては、釣瓶が若年性認知症を発症してもうひと悶着とか起こってもよかった気がしますが、監督はそこまでしたくなかったのかもしれませんね。

というわけで、今日はこのへんで。