映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

荻上直子監督「めがね」347本目

心地よい気もするけど、なにか違和感がある。
これを見てあかるくたそがれた気分になるくらいなら、一泊二日でもいいから与論島とか宮古島とかに行きたい。

毎朝毎晩スーツ着てぎゅうぎゅう詰めの電車に乗って、ときどき会社辞めようかと思ったりしながら、がまんしてがまんして暮らして、この映画を見たりバリ式エステ行ったりヨガやったりしてるくらいなら、ほんとうの潮臭い風で髪をぐちゃぐちゃにして、波に当たって下着までべたべたになったり、裸足で砂浜を歩いてかかと痛くしたりしたい。

しばらく考えてたら、違和感の理由がわかった。登場人物の反応がみんな同じで、同一人物が分かれただけのような感じがするのです。タエコは「アメリ」ほども人に出会ってないし影響も受けていない。南の浜なのに、都会から来た日焼けしてない人ばかり。ここはたぶんタエコの、都会で働く女性の心象風景なんだな。外に開いて空気を吸うでもないし海水を浴びるでもない。村上春樹の小説に出てくるような、現実とは別の世界に出かけて、タエコは出られなくなっている。(彼女が実は交通事故にあって意識を失っている、とは言わない)

最後のエンドロールで流れる写真の中でだけ、タエコは大笑いしてる。
私は、なにもかも自分の思い通りになる天国にいるより、泣いたり苦しんだり大笑いするシャバのほうがいいな。