映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

河瀬直美監督「殯の森」376本目

こういう映画を撮る監督さんなんだ。そうか。

是枝監督の「誰も知らない」の出演者が大きな賞を獲ったり、この映画がグランプリだったり、映画業界が求めてる新鮮味ってのは「ほんとの素人の日常」なのかな。作為のないところに美しさを見るなら、もうフィクションじゃなくてドキュメンタリーだけ作ればいいってことにならないのかしら…。
いや、事実らしいことを、監督のイメージで作り上げた虚構だから、やっぱりフィクションなのか。

「森」はしげきさんの心の奥の、見えないところなのかな。
この、比較的若い認知症患者を演じる「しげきさん」がとてもチャーミングです。大きな少年のよう。彼が苦労して森の奥まで背負ってきたリュックの中に入ってるのは、たくさんの日記?とオルゴール。このオルゴールってのがどうも女性的で、ここにしげきさんでなく河瀬監督の姿が透けて見えてくるようです。

尾野真千子は、どこにでもいそうな不慣れな介護士を自然に演じています。
河瀬監督の心の中の森と、しげきさんの森と、尾野真千子の森が、オルゴールの音の中でひとつに溶け合って行くようで、居心地が悪いような、してやられたような、不思議な気分。

あまりにペースがゆるいので、ほとんどの部分を1.5倍速で見ました。せっかちですみません。でもそれでも充分です。

最後の場面と、途中の「なぜ手を離したんですか!」がつながるのかな。ストーリーがよくわからないままだけど、まあいいか。
こういう映画を撮る監督さんなんですね。これが個性なんですね。…ってことで。