映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

セルゲイ・ボンダルチュク監督「戦争と平和 完結編」379本目

後半に入って面白くなってきました。第三部=「完結編」前半の戦闘場面は、圧巻です。

アンドレイがやられる直前に、シンフォニーが流れて、ザワッ!!と木立が風で揺れる絵に「風よ!緑よ!」みたいな語りが入る場面。なんと壮大な国だ、ロシア!と思い知らされます。
その後の戦闘シーンで馬も人もどんどんやられて倒れ込んでいく場面も、航空撮影を使ったりしていて大変な規模です。1800年代の「名画」がリアルになったようです。この演出力はものすごいです。馬は演技できないから空気銃でも撃たれたんだろうか、あのあとどうなったんだろう、と心配です。それまでの順調な戦いや恋愛沙汰を見ているからこそ、生身の人間たちの悲惨な戦いだという重みが感じられるんですね。

やられて救護所に寝かされているアンドレイが、子守唄を思い出している回想シーンや、そこで恋敵クラーギンに出会ってももう憎しみもない、という場面もなんとも胸を締め付けます。ほとんどの兵と馬が倒れている場面も圧倒されます。いやーソビエトすごいです。

そして「完結編」後半。瀕死のアンドレイもピエールも町に戻ってきます。
ピエールが捕虜になってからのエピソードも悲惨です。いつ理由もなく自分も殺されるかわからない生活のなかで、彼は人間、世界、神などの大きなものに思いを馳せます。

こんな映画を見てもまだ戦争を始めようとする人がいるなんて、どうしてだろう…。

それにしても、ピエール役のセルゲーイ・ボンダルチューク。監督であり脚本も書いてナレーションもやってます。いったいどれくらい働いたんでしょう!?ピエールの悪妻エレンを演じたのは彼の実際の妻らしい。「あなたのように賢くも美しくもない人と結婚すれば、浮気も当たり前よ!離婚するなら遺産をちょうだい!」と面と向かって罵倒するシーンがあるけど、夫婦なら平気でできた…のでしょうか。

完結編後半に初めて、雪の中の行軍のシーンがあります。でも「八甲田山」の映画のような吹雪とかはなく、降り積もった雪の中を行軍していきます。雪の上にやぐらを組んで火を焚いて、みんなで民謡を歌う場面。この重厚さ、壮大さがロシアらしさなのかな…。

最後にピエールが生還して、ナターシャと再会する場面で終わります。
ナターシャをみずみずしく演じたリュドミラ・サベーリエワ、ほんとう〜に美しく可憐です。

あー、すごい映画だった。セルゲーイ・ボンダルチューク、グッドジョブ!
ロシアや元ソビエト連邦の諸国には全く行ったことがないけど、この実直で壮大な人たちの国のことをもう少し知りたい、と思うようになりました。