映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アンドレイ・タルコフスキー「僕の村は戦場だった」394本目

1963年作品。

映画を見る順番ってあるよなぁ。タルコフスキー作品は、「惑星ソラリス」よりこっちを先に見た方がいいと思います。すばらしい映画だけど難解ではないです。これがわずか31歳のときの長編デビュー作って…天才かい?
たった95分の作品だけど、3時間くらいたったような気がします。

12歳の、強い目をした、やせっぽちの傷ついた少年、イワンが主人公。もうこの子の存在感だけで映画の軸がざっくりと定まっています。可愛いとか可哀想というような言葉を拒絶する、小さいおとなです。この存在の切なさは、エヴァンゲリオンとかスカイクロラとかの少年兵の虚無感に通じる部分もあるけど、本気で兵士として戦うものだけが持つ野性的なたくましさも、イワンにはあります。

沼地を滑るように、音もなく進んで行く船。そういう描写をする必然性は、この人の映画でなければないと思います。なんでこんなに美しくて静かで、生きているようなんでしょうね、この人の映画の中の水は。
温度や粘度の描写なんてないのに、生暖かくてどろりとしていて、生命の脈動が伝わってくる。

この映画の中には、死体がわりとたくさん出てきます。いずれもろう人形のようで、肉体のはかなさが胸にきます。同じくらいちょこちょこ出てくるのが、イワン少年が光のなかで母や妹と遊びはしゃぐ場面。映画の途中にそういうシーンがはさまっても、戦場の緊張感が全体を支配しているようで、「寝ればそういう夢も見るよな」としか思わないのですが、イワンの死が判明した後のその場面は、いままでで一番明るく楽しげです。その光が暗くなってきてイワンがそれに飲み込まれるような終わり方を映画はします。…これがもし監督の晩年の作品だったら、光の中ではしゃいでいる笑顔で終わったんじゃないかな、と、なんとなく思います。

子どもを使いつつ甘くならず、ストイックで完成度の高い名作でした。
(DVDは絶版のようなのでリンクなし。)