映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エミール・クストリッツァ監督「アンダーグラウンド」397本目

170分の長尺作品。
私は登場人物がたくさんいると、すぐに覚えられない。
この映画だと、背格好と髪型とヒゲが同じマルコとクロの区別がつくまでに1時間かかります。
だから家でレンタルして、繰り返して見ないとだめ。ありがとうパッケージ。
で、1時間たってやっとストーリーが理解できるようになる。ので、「戦争と平和」と同様、後半になって面白みがわかってきました。

終わったときの気持ちは「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」を読んだときのようでした。みんなこうやって輝いて歌い踊って暮らしたいのに、どうして人間は戦争なんてばかなことをしてしまうんだろう?仲間同士が殺し合うという、どうやっても受け入れがたい苦しみは、大げさな演技で寓話で語るしかないのかもしれません。

クロとマルコはどっちもどっちの濃さで、ナタリアやイヴァンやヨヴァンも感情の起伏の激しい濃いキャラ揃い。もっと濃いチンパンジーも出てきます。
最初は毒気に当てられてしまったけど、なじんでくると親しみが湧いてきます。

ユーゴスラビア民族音楽ブラスバンドの、ちょっと不思議なメロディと元気な金管の音が印象的。ときどき流れるドイツ語のリリー・マルレーンは、ドイツ侵攻をやわらかく表しているのでしょうね。

遠いヨーロッパのどこかの国の、不思議でちょっと怖いおとぎ話を聞いたような気分です。大作だし力作だし最後は胸がいっぱいになったけど、「最高傑作」と言われるにはユーゴスラビアの歴史を知る必要もあるのかもしれません。