映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

三池崇史監督「藁の楯」551本目

藁の楯」なんていうからには、人ってもろいのね、というヒューマンドラマかと思った…けど三池監督がそんなヤワなもの作る訳なかった。

うーむ。善良な人に殺意を起こさせる実験という意味で、日本版「バベル」のようで発想は面白かったけど、面白いと思えたのは最初の45分くらいか…。

設定が稚拙なのは1000歩譲って受け入れるとしても、見る人のレベルをとても低く見積もっているところが、負けだ。この映画は。想いばかりが熱すぎて、冷静さを失ってる。この監督。

殺人犯を殺してくれたら10億円という契約は公序良俗に反してハナから無効だし、各新聞社の責任者の誰かが広告の責任をとって辞めることなどないし、爆薬を積んだトラックが高速を逆走することは普通でも起こらないし、止まった列車を降りて丸腰で犯人を護送したりしないし、何もかも全部ありえない。でもそこまでは、映画を見始めてる時点で承知の上でした。“もし本当にこういう状況があったとしたら、あなたの心はどう動くだろう?”という挑戦状として楽しめば良いと思ってました。

しかし、情緒にずるずるに流されすぎて、瀕死の刑事の独白とか、金に目がくらんだ男とのやりとりとか、密度のうすい会話に時間をだらだらとかけすぎています。娯楽作品として成立しきれてない感じ。スカッと見せてほしいなぁ、こういう映画は。

ふつうに携帯が通じてるってことは誰でも場所が突き止められるのに、誰かが故意に位置情報を流してると疑って仲間割れするなんて、昭和じゃないんだから…という設定もアレだけど、それでも007シリーズなら知らないうちに発信器を仕込まれたと疑うでしょうね。全員裸になっても体内に仕込まれたらわからないのに、技術的な検証もしないで仲間内を浅知恵で疑い合うなんて、およそプロフェッショナルな態度とは思えない…。人家のあるところでひと芝居、犯人に背を向けて電話してる間に仲間がやられる、というのも、会社でいえば「すぐキレる新入社員」レベルです。この「態度」の設定が何より残念で、見る人の映画リテラシーとか社会的成熟度とかをあまり見くびらないで、もっともっと真剣に作り込んでほしいな、と思います。

藤原竜也は、ちょっと見飽きたかんじの、いつもの「顔に似合わないマッドな極悪人」。そろそろこういう仕事断ればいいのに。
大沢たかおの演技はよかった。すごく普通っぽいんだけど、実在感とか色気がありますね。
松嶋菜々子の顔は怖すぎた。どうしちゃったんだろう。伊武雅刀はいい人すぎてかえって疑ってしまった。
山崎努の存在感も、うそくさい映画にキラリと狂気のひらめきを与えてくれました。

あと、頭の黄色い台湾新幹線に乗ってみたいなと思いました。以上。