映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リチャード・アール監督「アイリス」568本目

渋ーい佳作です。BSプレミアム、いつもいい映画やるな〜。

英文学を勉強したはずなのに、アイリス・マードックのことを知りませんでした。恥ずかしい。
でも、解説を読むと私が好きそうな作家なので、さっそく著書も購入。
今この作家はブームでないらしく、たいがいの本が絶版で、古本はものすごく安いかものすごく高いかです。
状態が悪くても安いものを2冊購入。

さて、内容ですが、知性あふれ、誰よりも先を行ってる超イケてる女性作家であったアイリスの、アルツハイマー発症後と若かりし頃を対比させながら描いた作品です。年下の純粋で素朴な夫が健気。
若かりしケイト・ウィンスレットの魅力と、老いジュディ・デンチの幼女のような可愛らしさが、見ている人の胸を突きます。

というか自分の父と義母を見ているようです。
ものすごい知性の持ち主が知性を失っていくのと、頑健な肉体の持ち主の肉体が病気に侵されていくのと、パートナーにとってはどっちが恐怖だろう?
人は誰でも、うんと長生きすると認知症を発症するんじゃないんだろうか。(先に肉体がやられた人は経験しないのかもしれないけど)でも、その知性に憧れた相手に、知能の病気が訪れたとき、パートナーはその状況を受け入れられない。そのためにパニックに陥った人を、どうしてあげるのが一番いいんだろう。

パートナーは、やがて相手が「今どうなってしまったか」をはかなむのを止めて、「どう過ごして来たか」を大切に思い、その大切な人を最後まで愛することで、自分も心の平穏にたどりつくのです。
愛ってのは憧れではなくて、誰かを大切にして育てて行くものなんだろう。と思います。
私にも誰にも訪れることだけど、静かに丁寧に描いた作品でした。
やっぱイギリスの俳優って好きだ〜〜。