映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミロス・フォアマン監督「カッコーの巣の上で」632本目

1975年の作品。40年も前なのか。でも、病院の中だからか、そんなに昔だという感じはありません。
精神科の病棟って、こんな感じだったんだろうか。日本も今とは違ってただろう。
最近のバイオレンス映画のような極端な虐待シーンはないし、“患者”たちの日常には楽しみもあるけど、人間らしさを取り戻そうとしたときに押しつぶされてしまう一人一人の人たちに、感情移入してしまって、一緒に傷ついてしまいます。

この映画が大きな賞をとって、たくさんの人が見たおかげで、病院の人たちは牽制されただろうし、誰も傷つかない病院を作ろう、大きな医者や看護士になろう、と思った人もたくさんいただろう。
実際のところ、どれくらいのリアリティなのか今はもうよくわからないし、当時の現実を暴こうとしてもしょうがない。こんな世界もあったのかもしれない、と見たほうがいいように思います。

ジャック・ニコルソンはもちろんいいけど、「婦長」役のルイーズ・フレッチャーと、「チーフ」役のウィル・サンプソンの演技が素晴らしすぎる。こんな優等生の婦長っていそうだよなぁ。彼女の中では100%正しいんだろうけど、ファシズムの中枢とかにこんな女性がいたら怖い。女って一般的にはあまり暴力が好きじゃない人も多いと思うけど、手を汚さずに他人をさばくのは得意かも。

この世でいちばん怖いのは、自分だけが正しいと考えて他人を攻撃する人たちだ、と思う。
みんな、いろんな考え方や価値観があっていい、と思えればいいのに。

いろいろと考えさせられる映画でした。