映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フィリップ・カウフマン 監督「存在の耐えられない軽さ」662本目

やっと見たー。これも、公開当時から気になっていたのに、30年近くたってしまいました。
3時間近くの大作。でも「大河ドラマ」ではなく、大人の男女のたかだか数年間を描いた作品です。

プラハの春?それがこの映画の中で、主人公の男女の生活や気持ちに大きな変化をもたらしたことは確かだけど、あまりこだわらずに見た方がじっくりと感覚的に受け入れられる映画ではないかと思います。

ダニエル・デイ・ルイスって、奥目すぎて表情がわかりづらい。本当によくよく覗き込まないと、嬉しくて笑ってるのか、あざけり笑ってるのかわからない。終盤、田舎のパブで踊る妻を見てる彼の目をよくよく覗き込んだら、青くて澄んでいて透明に輝いてた。幸せってこういうことを言うんだな、って瞳に書いてあった。

ジュリエット・ビノシュは、この頃までは純粋な美少女という感じだけど、大竹しのぶに似た、”ゆるいままでいることを重視する”感じはあって、その美しさはちょっと危うい。役者さんは、感覚に頼るだけじゃなく、心身を鍛錬することでだんだん醸成される美しさや表現力も大事だと思うので。

遊び人の男の家に”押し掛け女房”した女が、女遊びをやめない夫が”人生を軽く見すぎている、自分にとっては重いものなのだ”という。映画を見るまで、人生の軽重を語るのは老哲学者かなんかだと思ってた。男を追って故郷をあとにした家出娘が言うとは思わなかった。誰にでも語るべき人生や、人生の軽重はあって当然だ。
でも多分、人生が重いか軽いかが大事なわけじゃなくて、一緒に人生をおくっていくパートナーが自分のことをどのくらい重く、大事に思ってくれているかが大事で、それが釣り合ったひとときがあったから、この二人はよかったのだ。一度ちゃんと完成したのだ。と思う。

それにしても、レナ・リオン演じる夫の長年の愛人が、とても魅力的です。道徳とか自分の考えとかにあまり縛られずに、出会えた人たちの温かさを大切にするのがいいのかな…などと、こういうのを見ると感じるけど、いざ自分が好きな人の浮気に遭遇したときにそう思えるかどうかは???です。