映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミヒャエル・ハネケ監督「ピアニスト」665本目

いやぁ…ほんとに、いつもだけどすごい映画を撮る監督さんだなぁ。
知的な大人の女性と、美声年の恋…情熱的なピアノ、ステキなパリの風景…じゃなくて。
この人がまさか!という人にこそ、思いもよらない欲望がひそんでたりする。
なぜか強烈に惹かれ合う二人が、どうにかして一つになるために、あらゆる困難(変態的な)を乗り越えようとして、体も心も傷だらけになります。

まじめな女性の誰にでも、もしかしたらこういう部分があるのかもしれない。
しかしこの人は、妄想と現実の区別がつかなくなってる。
よく”引きこもりの変態オタクの犯罪”という文脈で語られる、そういうことが、ここでは中年のオールドミスの中に起こる。コワイ〜〜〜

若くて美しい男性に激しく言いよられて、口ではいやだいやだと言っていても、ひっつめていた髪を下ろして、赤い口紅を塗って、彼女はなんだかきれいになっている。でも彼は彼女の欲望に応えず、彼女自身も、妄想が現実になることを望んでいなかったことに気づく。
妄想…こわいよね…よくするけど。

そして難解というか謎なエンディング。「隠された記憶」みたいに謎めいてる。というか、わからない。すみませんだれか解説してください。
またむさ苦しいひっつめ髪に戻った彼女は、彼を殺そうと思って待っていたのではないのか?タイミングよく、というか悪く、知り合いに話しかけられてしまって近づくことができず、彼はホールに入っていってしまう。
彼女はホールに入ろうとはせず、すんごい形相で自分の胸に刃を突き立てて(ロミオとジュリエットの最期のシーンみたいに)、そのまま建物の外へ歩いていく。

この監督は、虚飾をぜんぶ取り去った素の人間はどういうものか。性とは何か、愛とは何か、というような感じに、いつもものすごく突き詰めたものづくりをするんだな。見せつけられるのが怖いものを見せるのが本当によくできる監督さんだ。