最初は、なんて愉快な映画なんだろう、と思って楽しく見てたけど、イケてる女「千春」の沈黙でカウントダウンが始まる。
面白いけど、なんのために作ったんだろうこの映画?と最初は思って見てたんだけど、そういうことだったんだね。
原作を書いた吉田修一はきっと、そういうニュースを聞いて、その人のことを話す人たちの声を聞いて、その人のことを想像したく、創造してみたくなったんだと思う。泣いたりわめいたりせずに、微笑んで彼の人生を一緒に回想してあげたかったんだと思う。
人間の人間らしさ。愛すべき、というか愛したくなる部分を、ずっと表現しつづけている作家が、どうしても拾い上げて光を当てたい片隅が、ここにも一つあったんだな。
人は、そのときは「どう死んだか」で語られざるを得ないけど、本当は最後の1日より生きてきた時間のほうがずっと大きい。人は「どう生きたか」でまず語られるべきものだ。一時代しか知らない人たちにとっては、「彼とどう過ごしたか」で思い出されるものが、その人の人生だ。という映画でした。
内容もいいけど、構成もいいし、ラストもさりげなくて見る人に精神的な負担を与えません。
それに80年代の東京の駅前や大学の風景が、あまりにリアルなので当時の資料映像かと思ったくらいでした。
軽薄きわまりないサークルの勧誘風景といい、おそろしく汚い下宿の廊下といい、20年前に撮った映画にしか見えない。よく撮れたなあ。
高良健吾=世之介は、顔がいいのに髪型が変で姿勢もカッコ悪いヤツ。ノリもなんか変でちょっとおかしい。こういうヤツいたよ!というこの役づくりもいいです。
彼が初めてのカメラで1本目のフィルムを撮り終えた後、彼女に写真を渡せなかったのはなぜだろう…ぼんやりそういうことを考えるのも、映画の楽しみのひとつです。…2週間のつもりで行った留学が、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、1年、と伸びてしまったのかもしれない。世之介のほうに彼女を振る理由があるとは思えないし。
その後の彼はどんな大人になっていったんだろう。結婚したのかな、子どもはいたのかな。「なんにしても、ぜったいあのままの性格だったんだろうな」と思わせる説得力もありました。
いい映画だった。素直に見ることができてよかった。
ただ、おまけで入ってる予告編を見ると、ネタバレじゃないかと思ったし、宣伝文句もなんか映画と合わない感じがしました。