映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リドリー・スコット監督「テルマ&ルイーズ」675本目

面白かったー。
男でこんな映画を撮りたがる人がいるなんて。それがリドリー・スコットだなんて。
これは、なにかのウップンを溜めてる日常からドッカーン!とダイブする映画だ。
女ってのは、なんだかんだ言っても、まだまだもっと強い者から虐げられていてるし、女に限らずいろんなところでいろんな強い者たちからいじめられてる人もたくさんいて、その区別はというと、この映画を見てスカッとした人がそうなのだと思う。

若い頃に結婚して家庭に入り、夫としかつきあったことがない専業主婦のテルマ。
アメリカンなファミレスで調子良く働いてる独身のルイーズ。
テルマは夫に内緒でルイーズと一泊旅行に出かける車の中で、思いっきり派手なメイクで、「あたしルイーズよ!」と叫ぶ。

そのルイーズが、逃避行となってしまったその旅の途中で、押し込められていた自我を覚醒させる。
どこでリーダーシップが交代してしまったのか、すっかりワルの親玉になってしまったテルマ。

わずかな手がかりからルイーズを特定し、彼女らの居場所へ迫ってくる刑事。
その緻密な知性と、終盤に感情的になって迷走するところが、ちょっとちぐはぐな感じ。
彼女たちの気持ちをなぜかよ〜く理解していて、なんとか希望を持たせてやれないかと考える、という人間味のある人柄は、見ていてほっとするけど。

虐げられた者への愛情の感じられる映画。うーん、むしろ、権威を笑い飛ばそう、って感じかな?
なぜか自転車で一本道を走ってくるスポーティなジャメイカンふうの男が、パトカーのトランクで助けてくれ〜と叫ぶポリスに向って煙草の煙を吹き込む場面なんかも、ワッハッハって笑って見られる。

何度もあちこちで書いてるけど、こういうアメリカのふつーの人たちの映画ってほんと好きなんだ。
イギリスのも好きだし韓国のも中国のも好きだ。ローカルなファミレスで、だらだらしてる人たち。地元志向でイオンモールが好きで何が悪い。

というか、世界で一番自由(と思われる)国の、”戦後”でもない90年代に、こうやってウップンを吐き出した映画がこんなにアメリカで受けるなんて。人間の本質的なところって同じだな、とこういうときに改めて思います。

けっこうバイオレンスな場面もあるけど、この映画好きだな。