映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

市川崑監督「鍵」676本目

コワイ映画だな〜〜。
老いた鑑定家の夫(中村鴈治郎)と、若くて美しい妻(京マチ子)、美人だけど心の冷たい娘(叶順子)にからんでくるのが、娘の婚約者でありながら妻とも隠れてできてる男(仲代達矢)。

昔の灯りの少ない日本家屋で、表情に感情を出さない大人たちが、水面下でいろんな愛憎や欲望を育てています。
決して顔を動かしてはならない、という演技指導をしたんだろうかと思うような、能面が4つ。
しかし、あまりにもクールにまとめようとしたので、性欲という部分にはリアリティが全然ありません。
これほど他人に無関心な人たちが、体で結びつき合いたいという欲望を抑えられなかったとは見えない。
人物像が(後述の「はな」以外)英国ミステリーふうに端正で、人形みたいです。
監督が重視したのはリアリティじゃないんでしょうね、そもそも。

予告編で使われている棟方志功の版画、京マチ子そっくりですね。これ本編には出てきません。予告編見てよかった。30代の彼女のふっくりとした丸い白い体が、なんとも親父好きしそうです。
彼女が演じる母の眉は、ピンクフラミンゴのディヴァインのように細くてとんがって描かれてます。
一方の娘の眉は、お雛様のようにぽってり。とても美人なんだけど、氷のように口調も言うことも冷たくて、たぶんこのキャrクターは他人に興味を持てない、ちょっとした障がいをもっているんじゃないかと思う。(今なら)
それより、演じた叶順子というこの人、冷たすぎる魅力にシビレますね。結婚してスパっと引退したという潔さ。それも素敵だけど、もっと見たかったな〜。

仲代達矢、頭がいいけど鼻につく感じが強烈です。
お手伝いの老婆「はな」役の北林谷栄、このとき48歳!ちょっと頑固で融通が利かない感じがリアルです。

市川崑監督って、とんがった現代的な監督だったんだ。「東京オリンピック」を撮った人だもんね。「黒い十人の女」も最高でした。ただ、今は「現代的」というより、とんがっていたある時代(ロシアアバンギャルドとか好きそうな)を代表する作家、と感じます。先鋭的であることがいつの時代でも現代的とは限らないから。

脚本を書いてたのが監督の妻だということをDVDの特典で初めて知りました。
だからここまで、女性のいやらしさ、男性の女々しさを深く鋭く描けたんだな。

それから、脳の病気で倒れた人をそのまま寝かせておくのにびっくり。救急車で運んで開頭手術なんてできるようになったのは、きっと最近のことなんですね。

いろんな部分が印象に残った映画でした。
最高だったひとこと:「はなさん、また間違えたのね」