アルツハイマー型認知症患者の映画、とだけ知っていましたが、発病してからの症状を中心に描いたというより、第一線で仕事をバリバリこなしていた男が、自宅での生活を送れなくなるまでの本人と周囲の人々の「受け入れ」の段階を描いた映画でした。
本人だけでなく家族も、会社の部下や同僚も、取引先の人も、衝撃を受けて動揺しますが、やがて受け入れて思いやりをもって接するようになっていきます。
プロデュースも行った渡辺謙の演技は、真に迫っていて胸を打ちます。
ただ、この映画自体に結論はなくて(あった方がいいとも限らない)、幻覚をみて山中で野宿した後、迎えに来た妻のことがわからなくなったところで終わります。このあと彼は自宅を出て施設で暮らすことになり、自分の親か祖父母のような年齢の人たちと、幼児向けのような娯楽の輪のなかで、心の痛みをずっと感じつつ、最後まで暮らしていくのでしょうか。
映画に結論がないのは、それが制作者自身の想像の外だからかもしれません。渡辺謙が70歳、80歳になって同じ主題を撮るとしたら、もっと静かに人生を達観した美しい風景を見せてくれるのでしょうか。